187. 中央駅の混乱
一通りの連絡が終わる頃には、もうお昼になっています。
リフティオ社長との話も済み、由真たちは列車の運転状況を見てコモディアに向かうことにした。
コーシニア中央駅に確認したところ、ちょうど到着したばかりで待機していた「白馬5号」がコモディア止まりとして10分遅れの11時52分に発車するという。
その次は、本来はナギナ中央行の「白馬11号」だった。これをコモディア止まりの「臨時白馬511号」として運行することになったとのことで、その特等室が手配された。
「そうなると……これ、結構かかりますよね」
背嚢から時刻表を取り出して、由真は行程を確認する。
「白馬11号」は、コーシニア中央駅からナギナ中央駅まで停車しない――実際にはユリヴィアとカリシニアでも運転停車する――最速達で、週1回、金曜日だけは「ミノーディア12号」としてセントラ北駅まで運行される。
1時間前に発車する「白馬5号」のコモディア到着は現地時間13時27分とされている。
となると、「臨時白馬511号」は現地時間14時27分に到着することになるだろう。
コーシニアはアトリア時間でコモディアはシナニア時間。時差が1時間ある。つまり、現地に到着した時点で、アトリア時間の午後3時半になってしまう。
折り返しの便は、ナギナ中央駅を現地13時ちょうどに発車する「白馬10号」が最終で、コモディアは現地17時15分発、コーシニア中央には21時ちょうどの到着となっていた。
仮にこの列車に乗ることができたとしても、今日はコーシニアに帰って来て終わりになってしまう。
「なんとかカリシニアまでお戻りいただければ、あちらの連絡室……『知事別荘』という名目の出先機関ですが、そちらにお泊まりいただくことも可能です」
タツノ副知事がそう言葉を返す。名目と実質の関係が逆ではないかとも思われるが、あえて問いただすことでもない。
「私は、コモディアの神殿に泊まっても差し支えありませんけど、ユマさんは、明日の朝からこちらに詰められる体制にしておかないといけませんからね」
ユイナもそう応えた。
「それは……とりあえず、現地に行ってみないことには、なんとも言えないですよね」
由真は、2人に応えつつ、自らにも言い聞かせる。
昼食は食堂から配膳してもらった鶏肉の麺で簡単に済ませて、由真、衛、ユイナの3人で早速出発する。
由真は、ユイナに持ってきてもらった棍棒を手に持ち、弓も背負った。
中央駅への道行きは、来たときは徒歩だったものの、今回は「領主が神祇官とともに向かう」ためか、小型バソが用意された。
駅前に到着し、出迎えた駅員――名札に「駅長」という肩書きが記されていた――から各自の乗車券・特急券を受け取る。
券面には、「特等特急券 晩夏の月3日発 臨時白馬511号 1号車1番 コーシニア中央よりコモディアまで (特等乗車券 コーシニア市内よりコモディアまで) 大陸暦120年晩夏の月1日 TA アスマ旅客列車運行発行」と記されている。
3人は、それぞれに渡された切符で自動改札を抜けて、3番線・4番線ホームに向かう。
「お知らせいたします。本日11時過ぎ、北シナニア県庁より『非常事態宣言』が発出されたため、シナニア本線コーシニア中央・ナギナ中央間の運転を見合わせておりましたが、コーシア伯爵閣下のご了解をいただきましたので、11時50分から、コーシニア中央・コモディア間の運転を再開いたしました」
――構内に、そんなアナウンスが流れていた。
「コモディア・ナギナ中央間の運転につきましては、『非常事態宣言』の動向が判明しておりませんので、当分見合わせとなります。
下りは、今度の12時42分発『白馬11号』は『臨時白馬511号』コモディア行として、次の13時42分発『白馬9号』も『臨時白馬509号』コモディア行として運行いたします。
上りは、14時2分発予定の『白馬2号』が現在45分ほどの遅れで運転中です。16時2分発予定の『白馬4号』、18時2分発予定の『白馬6号』の運転再開のめどは立っておりません。
また、18時32分発予定の『ミノーディア11号』は、ナギナ中央で運転を打ち切りました。『白馬8号』、『白馬10号』の運転も見合わせとなりましたので、コモディアから出ます『臨時白馬508号』、『臨時白馬510号』を運行する予定です」
どうやら、「ミノーディア11号」に関しては、北シナニア県庁の思惑通りになったらしい。
それでも、運転再開が認められた区間でいち早くダイヤを立て直し、それを丁寧に説明する体制は見事と思えた。
「なお、北シナニア県内は、『非常事態宣言』が発出されておりますので、不要不急のご旅行はお控えください。本日運行する列車のカリシニアより先への切符の払い戻しにつきましては、手数料無料で行っております。窓口にお申し出ください」
当然のことだろう。しかし、会社側としては少なからぬ損失になるはずだった。
3番線・4番線ホームに上ると、4番線の方に「臨時白馬511号 コモディア行 12:42 12両」「停車駅:コモディア」「特等-1号車、一等-2号車、二等-3・4号車、三等-5~7号車、9~12号車、食堂車-8号車」と記されていた。
その表示は、「臨時白馬511号」の文字は心なしかすすけて見え、2箇所の「コモディア」に至っては――別の場所から切り貼りしたのがすぐわかるほどの違和感があった。
「お待たせいたしました。12時42分発、……ええ、臨時特急、『白馬511号』が、4番線に12両編成で到着します。白線の内側まで下がってお待ちください。……ええ、この列車、本日は、次のコモディア止まりです!」
駅員のアナウンスは、ダイヤ変更箇所で言いよどむ気配がある。列車名は「臨時白馬」のはずが「臨時特急、白馬」と呼んでいる。
21世紀日本のように自動放送を柔軟に調整できる体制がある訳ではなく、生身の人間が対応している以上、やむを得ないところだろう。
(大混乱、だよな。とにかく、早く収束させないと)
それが「冒険者」にできる唯一の仕事だ。
混乱するホームの中で、由真はそう自らに言い聞かせた。
運転見合わせが発生すると、21世紀の日本でも十分混乱しますね。