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180. コーシニアに戻る

汽車旅は続きますが、一度来た道なので…

 再び動き出した列車は、しばらく丘陵地帯を走る。

 やがて、車窓に家並みが増えてきた。


「まもなくファニアに到着します。1番線の到着、お出口は左側です。ファニアで進行方向が反対になります。ファニアでは8分停車します。5時50分の発車です。しばらくお待ちください」


 そんなアナウンスが流れて、程なく列車はファニア駅に到着した。

 ここで乗客が増える。由真の席も真向かいが埋まって相席となり、他もボックスは全て埋まった。


 しばらくして、発車を告げるベルが流れる。

 それが終わると扉が閉ざされて、それまでとは逆方向に列車は動き出した。

 右に揺れて転線して、アクティア湖から伸びてきた線路と分かれる。


「ご乗車ありがとうございます。普通列車コーシニア中央行きです。サイトピアからは快速となります」

 ここに来て、初めて車内放送が流れた。


「途中、北ファニアに5時56分、ハンドリアに6時12分、プサクリアに6時25分、クシトナに6時31分……」

 以下、途中駅の名前と停車時刻が延々とアナウンスされる。

「……終点コーシニア中央には7時47分の到着となります」

 なお2時間近くかかる。特別快速でショートカットした道のりは実際には長いということだろう。


 しばらく畑の中を走った列車が減速する。


「まもなく北ファニアです。お出口は左側です」

 短いアナウンス。アクティア台駅のときは、それすら流れなかった。

 列車は、そのまま減速して停車した。単式1面1線の最も単純な構造だった。


 北ファニア駅を出て、トンネルを抜けると、左手に白い崖が現れる。


(やっぱり、左岸は石灰岩だよな。右岸は……よく見えないけど、花崗岩なのかな)


 アクティア湖の右岸側には、石灰岩の気配はなかった。

 この区間も、左岸のような石灰岩質なら、こんな鉄道路線は敷設できないだろう。


 峡谷を進んだ列車は、短いトンネルを抜けると島式1面2線のハンドリア駅に到着した。

 さらに渓谷を進み、長いトンネルを抜けて、単式1面1線のプサクリア駅に到着する。

 プサクリア駅を出ると、家並みが徐々に増えてくる。


「まもなくクシトナに到着します。2番線の到着、お出口は右側です。クシトナでは、前の車両と連結しますので、ドアが開くまでしばらくお待ちください。クシトナの発車は6時36分となります」


 そんなアナウンスが流れる。

 列車は減速し、島式ホームに入ると前方に別の列車が見える。

 いったん停車して、ゆっくりと動き出し、前の列車の直前でもう一度停止する。

 そこからさらにゆっくりと動き出した列車は、はっきりした衝撃とともに停止する。直後、右側のドアが開いた。


 向かい側に見える1番線の時計が6時35分を回り、ベルが鳴って扉が閉ざされて、列車はクシトナ駅から発車した。


「ご乗車ありがとうございます。普通列車コーシニア中央行きです。サイトピアからは快速となります。この列車、客車8両、荷物車6両で運転しております。先頭が8号車、客車の一番後ろが1号車です」


 ――前方につながれた車両は6両。合計14両編成で、シンカニオのモディコ200系と同じ車両数となる。


(通勤時間帯に入るからか)


 コーシニア中央駅に到着するのが7時47分。ちょうど朝のラッシュ時だろう。


 前方は「前面展望」から「増結車両の最後尾」となり、車窓は川を挟んで果樹園が見える。

 それまでの高原や渓谷とは異なる退屈な風景が続く――


 ――人の動く気配で不意に目が覚めた。


(あれ? 寝ちゃってた?)


 列車は停車していた。見上げると「サイトピア」の駅名標が目に映る。ホームの時計は7時半を指していた。


 アクティア湖駅を出発したときはわずか3人だった乗客は、今や通路を埋め尽くしている。ボックスの柱を何人もの人が手すりに使っていた。

 客車だけでも8両が連なっているのに、車内は満員御礼だった。


 由真が自らに施した「気配を消す術」は、本人が眠っている間も効果を発揮していたらしく、特に目立つ騒ぎはない。

 それでも念のために重ねがけすると、相前後して列車は発車した。


 満員の列車は、複々線の内側を走り駅に停車していく。

 やがて外側の複線が分かれて、広い河川敷をまたぐ橋梁を越えると、左手から来た線路に合流する。

 そこから、減速しつつ渡り線をいくつも通過する。


「まもなく、終点コーシニア中央です。お出口は右側です」

 そんな簡潔なアナウンスが流れて、程なく列車は駅に到着した。


 由真は、大勢の乗客たちとともに慌ただしく列車から降りる。


 対面のホームは5番線で、モディコ200系が停車していた。

 見上げると、案内板に「コーシア26号 アトリア西行 8:02 12両」「停車駅:タミリナ、アトリア西」「特等-1号車、一等-2号車、二等-3・4号車、三等-5~7号車、9~12号車、食堂車-8号車」と表示されている。


 そこは、高原の湖畔とは全く異なる、都会の日常空間だった。

 乗り換える用事のない由真は、近くの階段からコンコースに降りる。

 自動改札機が居並んでいるものの、窓口で購入して有人改札口を通過した切符は弾かれるであろうと思い、隅にある有人改札口に進んで切符を渡した。


 南口に向かうと、待合室に隣接して小さな売店が開かれているのが見えた。

 中では、肉入り焼きパンでいそいそと朝食を取っている人が少なからずいた。


 朝4時台に起きて、朝食も取らずにここまで来たため、さすがに空腹が厳しい。

 由真は、その売店に立ち寄り、並んでいた肉入り焼きパンを1組購入すると、周囲と同じように待合室で手早く朝食を済ませた。



 腹ごしらえも済んで、由真は南口から正面の大通りに進む。

 10分ほど歩くと、左手に白亜の建物が現れる。「コーシア県庁」という看板もあった。


 正面玄関から中に入る。左右にはロビー、正面に受付窓口があった。


(そうか、受付しないといけないんだ)


 由真は――まず自らに施していた「気配を消す術」を解除する。

 それから歩き出すと、次の瞬間、館内に静寂が走った。


 往来していた人々が一斉に歩みを止める。

 受付の係員が、目を見開いてこちらを見つめている。


「閣下!」


 そして響いたその声。振り向くと、タツノ副知事が駆け寄ってきた。


「あ、副知事、お疲れ様です」

 由真は、そう言って会釈する。


 相手は――明らかに慌てた様子で近づくと、いったん左右に目をやってから、由真の耳元に顔を寄せる。


「閣下、カリシニアから急報がありました。今朝現地4時過ぎに、コモディア市内のシンカニア・ナギナ線建設現場が、魔物らしきものに襲撃され、破壊されたとのことです」


 耳元でささやかれたその言葉を聞いて、由真の背筋に冷たいものが走った。

お迎えの第一声がこちらになります。

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