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178. この任務はおおむね完了

一方詰め所で待つ2人は――

 食堂のテーブルに載せた地図を挟んで、由真とティファナは向かい合って座っていた。

 2人とも、地図上の「ファラゴ鉱山跡」を見つめたまま一言も発しない。


(『ダ』が急速に減ってる。火攻めかな)


 由真は、索敵魔法で「そのこと」を認識した。


「ティファナさん、片付いたみたいです」


 由真がそう告げると、ティファナは顔を上げて目を見開いた。


「ユマ様……わかるんですか?」

「ええ。この湖の範囲なら、索敵魔法で把握できます」

 そう言って、由真は笑ってみせる。

 ティファナが何より心配しているであろうガストロの無事。それが把握できた以上、伝えてやるのが筋だ。


「この湖、って……幅はともかく、長さは……」

 ティファナは呆然とした趣だった。

 このアクティア湖は、北東から南西の方向に、およそ20キロほどの長さがある。北西・南東方向の幅は最大で3キロという細長い形状だった。


「まあ、この程度なら、なんとか」

 由真はそう応える。実際、「この程度」なら、索敵のついでに残党を即死魔法で片付けることもできる。


「とりあえず、報告の雷信はガストロさんに任せるとして、僕は、明日にでも、コーシニアの県庁に顔を出そうと思います」

「え? 今日来られたのに?」

「まあ、あちらにはまだ挨拶もろくにしてませんから。たいした案件もなければ、すぐにこっちに戻ります」


 それが、元々の予定だった。


「それで、ここから駅まで、って、結構離れてますよね」


 地図を見る限り、県道アクティア湖線に沿って4キロほど。歩けば小一時間はかかる。


「ここは、乗合バソとかは、ありませんか?」

 由真は「ダメ元」のつもりで聞いてみる。

「ありませんね。各宿屋が送迎のバソを出しますし、うちもあの小型がありますから」

 その答えは予想通りだった。


「ユマ様が出られるなら、あれを出します。私も運転してますから」

 ティファナはそんなことを言い出す。

「え? あ、いえ、僕1人のためにわざわざ出してもらうのは……」

「いえ、それは……駅に行く用事は、毎日ありますから」

 ティファナはそんな言葉を返す。


「朝は始発の荷物列車の積み込みを確認してますし、あと、昼過ぎの荷物急行……『ファニア3号』も見てます。こんなことがなければ、最終の荷物列車も一応見てます」


 この地域の実質的な「顔役」として、荷物列車の行き来は見守っていると言うことだろう。しかし――


「始発の荷物列車って、5時20分に出るやつですか?」

「よく知ってますね! そうなんです。始発のは、コーシニアに送る魚を積みますから、きちんと出るまで見送ってるんです」

 時刻表には、荷物列車の運行時刻も記されている。

 ファニア線の上り荷物列車の始発は、アクティア湖駅を5時20分に発車し、コーシニア中央駅には7時47分に到着する。


「それなら、一緒に出る普通列車の方に乗って行きます」

 時刻表の旅客列車の項には、この荷物列車と全く同じ時刻で列車番号も同一の旅客列車が走ると記されていた。

 往年の日本にあった「客車を連結する荷物列車」なのだろう。


「え? 朝5時過ぎに出るやつですよ?」

「まあ、ティファナさんがそれに合わせて行くなら、ついでに乗せてもらえば早いですから」

 県庁に朝一番で到着してしまえば、それだけ用事も早く済ませられる。


「はあ、ユマ様がいいとおっしゃるなら……」

「それじゃ、済みませんけど、よろしくお願いします」

 そう言って、由真はティファナに頭を下げた。



 30分ほどして、ガストロの運転する小型バソが詰め所に戻ってきた。


「由真ちゃん、ファラゴの鉱山跡に結構な規模の巣穴があったけど、ウィンタさんが魔法で蒸し焼きにしたわ」

 帰ってきた晴美は、そう報告した。


「お疲れ様。火攻めで片付いたのは助かったね」

「まあ、そうね。中は、200体くらい? 結構な数がいたから、潜るとなると大変だったわ」

 そう言って、晴美は溜息をつく。


 巣穴に「潜る」のは、人質がいるといった事情で火攻めや水攻めができない場合の最終手段であり、攻略する側の負担も格段に重くなる。

 避けられるに越したことはない。


「これ、私たちが着くのが遅かったら、大変なことになってたわね」

 柳眉を潜めて、晴美は言葉をつなぐ。

「確かにね。ゴブリンは、出るのは数体でも巣穴は100体、なんて言うけど、都合300くらいがいたなんてね」

「上の宿の人たちなんて、結界が弱くなってたのにあんな緩みようだったんだから、あの総攻撃が来てたら、って思うと、ほんとにぞっとするわ」


 晴美に言われて、ゴブリン目撃の情報があった森の中に無造作に入り込んでいた宿泊客たちのことが脳裏に蘇る。

 ユイナが結界の補強をしていなければ、あの大群がアルパラ・タクタに押し寄せていた可能性もある――と考えると、全く「ぞっとする」話だった。


「まあ、巣穴も込みで片付いてるから、もう大丈夫だね。僕は、明日朝一で県庁に顔を出してくるよ」

 それが「明日の予定」となるため、由真は晴美にそう言っておく。

「ああ、ご挨拶? 伯爵閣下も大変ね」

 晴美は苦笑を返した。


「まあでも、これで、恵さんたちも安心してこっちに呼べるからね。顔だけ出して、あとはこっちに戻って、のんびり夏休みを楽しむよ」


 乳製品の生産、小売業の再構築など、課題は多い――と考えそうになる自分に言い聞かせるように、由真はそう応えた。

ということで、普通ならぞっとする勢いの任務は、この人たちにとっては食後の運動程度でフィニッシュしました。

もうバトルが成り立たなくなってきましたね……

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