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177. 巣穴をつぶす

マーカーをつけて逃がしてやったゴブリンを追いかけて、巣穴掃討作戦です。

 ガストロが運転する小型バソに、由真を除くメンバー――晴美、衛、和葉にウィンタとユイナが乗って、ゴブリンどもの逃げた方向――ファラゴ鉱山跡に向かう。

 途中の県道は、舗装されていない砂利道だったものの、走るのに難渋するというほどではなかった。


「由真ちゃん抜きで、大丈夫かな……」

 和葉が漏らす声に、不安の色がにじんでいる。

「大丈夫よ。さっきだって、逃げ出した16体以外は、私たちだけで片付けたんだから」

「そう……だよね……」

 晴美に言われても、和葉はやはり不安を隠せずにいる。


(まあ、これくらいでちょうどいいかもしれないわね)

 そんな和葉の様子を見て、晴美は思う。


 魔物を倒して、それで自信をつけて――それがやがて「慢心」になるようでは、「冒険者」として生きていくには致命的だ。

 身がすくんでしまうほどの不安に支配されているというのならともかく、戦闘が始まるまで緊張感を失わない程度なら、むしろ健全かもしれない。


「ところでハルミさん、あの、さっきの術は、いったい?」

 ユイナが問いかけてきた。

「あれ? ユイナさんの『霧雨の嵐』のまねをしてみただけだけど?」

 晴美はそう切り返す。


「『霧雨の嵐』の呪文は何回も聞いてたから、水の代わりに氷、光の代わりに闇を使っただけよ?」


 ユイナの使う「霧雨の嵐」。呪文は「風よ輝く水をまといて敵を討て」。

 それは、「輝く水」――水系統魔法で出現させた微細な水滴に光系統魔法の力を乗せて、風系統魔法で一斉に吹き付けることで、「敵」を切り裂き殲滅するものだということは、魔法解析で理解していた。


 晴美は、「闇の氷(ドゥンクレス・アイス)」――氷系統魔法で出現させた氷の粉末に闇系統魔法の力を乗せたものを吹き付けることで、氷に射貫かれた敵の「ダ」を奪い死に至らせる術を編み出した。

 その効果は――ゴブリン131体を鏖殺(おうさつ)し、オーガも8体までは屠ることができる程度だった。


「由真ちゃんの即死魔法以外にも、数で来る『雑魚』をつぶす手札は用意しておきたいから」

「まあ、それもそうですね」

 晴美の言葉に、ユイナも頷いた。



 由真曰くの「マーカー」――ゴブリンどもの「ダ」を増補して漏洩させる術のおかげで、晴美も難なく索敵を続けることができた。

 逃げ出したゴブリンどもは、由真が予想したとおり、ファラゴ鉱山跡の抗道に入っていった。

 それを確認して、ガストロはファラゴ鉱山跡へとバソを走らせて、抗道口に停車させた。


 晴美たちは、バソから降り立つと、坑内に索敵魔法を展開する。


「これは……」

「ちょっと、ぞっとする数ですね」

 由真のような「数え上げ」の術を持たない晴美にも、奥に潜む個体が先ほどの群れよりもさらに多数に及ぶことはすぐにわかった。


「けどこれ、入り口はこの1箇所だけで、他は立坑が2本だけだから、ここで焼き討ちできるわね」

 風系統魔法で中を探っていたウィンタが、そう言って杖を構える。

「いや、ウィンタさん、これを全部焼き討ちなんて、魔法灯油の大缶1本あったって無理ですよ」

 そんなウィンタにガストロが言う。


「いえ、大丈夫ですよ。18リットル缶が1本あれば」

「18リットル缶、1本持ってきました」

 ウィンタが答えたのと同時に、衛が魔法灯油の18リットル缶を彼女の前に置いた。


 ウィンタは、18リットル缶のふたを開けると、その上に杖をかざす。


「『闇の力よ、油の光をしばしとどめよ。油よここに霧となり、風に乗りてこれなる洞の奥へとあまねく巡れ』」


 その詠唱とともに、缶の中の油が霧状になって浮き上がり、風に乗って抗道の中に流れていく。

 しばらくして、18リットル缶の中身は空になった。


「それじゃ、危ないからみんな下がってて」

 そう言われて、晴美たちは数歩退く。


「『闇解除! 走れ光の風!』 【風火】!」

 ウィンタが詠唱した直後、抗道の奥からくぐもった破裂音が響く。


「これ……まさか……」

「霧状にして浮かべた油を風で揺らして火花を起こすと、それだけで引火延焼するのよ。後は、立坑から煙が出てきて中は蒸し焼きね」


 魔法油――石油の引火延焼。抗内で発生してはひとたまりもないだろう。

 やがて立坑から煙が上がってきたのが、夜目にもわかった。


「流してる途中で、引火とかしないんですか?」

 衛がそう尋ねる。


「そこは大丈夫。さっきやってみせたとおり、闇系統魔法で燃焼を防いであるから」

「あの、こちらの魔法油は、保存するときは闇系統魔法道具で抑えるんです」

 ウィンタの言葉をユイナが補う。


 それで晴美も思い出した。

 この世界は「銃火器を使わせない」ために「密閉空間での爆発が生じやすい」という物理法則に支配されている。

 そんな中で「油」を利用するために、「魔法」の力を使っているのだろう。


 やがて、坑内から魔物どもの悲鳴が聞こえてくる。


 晴美は索敵魔法で抗内を探ってみた。

 うごめいていた多数の魔物たちの「ダ」が着実に弱まり消えていくのがわかる。


(仕留めきるまで、気は抜かない。由真ちゃん抜きで、最後までやり抜く)


 抗道を見据えながら、晴美は自らにそう言い聞かせた。

巣穴つぶしはやはり油を使って火攻めです。


灯油も霧状になってしまうとガソリンと同様に火花で簡単に引火炎上するそうです(実際にやってみたことは当然ありません)。

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