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163. 湖畔にて、ゴブリン目撃の情報

設定話が続きましたので、ささやかながら、新展開です。

 ノーディア王国は、「第6日」には午前だけ出勤・登校する習慣がある。


 一夜明けた晩夏の月1日。

 由真は、朝一番でコーシア県庁に通信した。


『ファニア高原の牧場の下見、ですか』

 相手――タツノ副知事が答える。


「ええ。酪農が盛んだという話は、こちらでもいろいろ伺いましたので、牛乳の供給の可能性も探りたいと思いまして。観光という体の方がよければ、そのようにしますし……」

『それが実は、ファニア高原は、いささか状況が危うくなっております』

 そう言われた瞬間、由真の脳裏に前日調べた「災厄」のことがよぎる。


「え? それは、もしかして地震とか?」

『あ、いえ。そういうたぐいではありません。実は、一昨日から昨日にかけて、アクティア湖周辺でゴブリンの出没が確認されておりまして、観光客には注意を呼びかけ、ファニア支部に巡回警備を指示いたしました』


 ――ゴブリンの出現。それは、鱒の養殖場が立地し、この季節は観光地としても賑わう場所としては、十分危険なことだろう。


「探索や討伐は、どうなりますか?」

『それが……ゴブリンの巣穴といえども、ホブがいる可能性があります。ましてオーガなどが複数いようものなら、コーシニアから精鋭部隊を送る必要もあります』


 その「慎重な対応」は、この国の冒険者としては当然と言えた。

 セプタカのようなダンジョンが形成されていた場合、「曙の団」ですら独力で討伐はできない。

 とはいえ――


「それ……僕の方で、片付けましょうか?」

 由真は、あえてそう提案する。


 そもそも、由真がコーシア県の知行を預かることになったのも、ダンジョン制圧の「手柄」によるものだった。

 そんな由真が、領内の「ゴブリンの巣穴」ごときにおびえているようでは、「知行を預かる」資質を根本から否定することになる。


『閣下が、ですか? いえ、それは、そこまでのことでは……』

 さすがに副知事は慌てた様子になる。


「その、コーシアの冒険者ギルドだけで簡単に片付くなら、あえて仕事を奪うつもりはありませんけど、手こずりそう、ということなら、さっさと片付けた方が良いでしょうし」

『それは、閣下と、お連れの冒険者の方々で、ということでしょうか?』


 お連れの冒険者――晴美たちを巻き込むかどうかは、さすがにここで勝手に決める訳にもいかない。


「いえ、オーガが10、ゴブリンが100程度だったら、僕だけでも片付けられると思います」


 それに近い数を即死魔法で「片付けた」こともある。

 その程度の「力量」を、頼まれたなら今日にでも発揮する。

 それができずに「S級冒険者」の身分を占めるなど烏滸がましい。


『それは……』

 通信越しにも、副知事が息をのんだのは推察できた。


「まあ、他のメンバーも一緒に行くかどうかは、これから相談します。ただ、そうなってくると、『国入り』、早い段階で済ませた方がいいでしょうか?」

 話の流れで、由真はそう問いかける。


 先日の非公式な「視察」のときも、帰り際に反対派に捕まってしまった。

 この先、ゴブリン退治やら牧場で牛乳の買い付けやらと「所領」への関与を強めていくとなると、「領主」としての最低限の「儀式」は早めに済ませた方がいい、と思われる。


『そうですね。来週の早いうちに『初登庁』をしていただければ、後は、そのままファニアなりカリシニアなりでご静養いただくこともできるかと思います』


 副知事は、そんな答えを返してきた。

 観光地で「静養」云々はともかく、「初登庁」は早い段階で済ませた方がいいだろう。


「それでは、ファニアのゴブリンの件をどうするか、他のメンバーとも相談して、改めて連絡します」

『かしこまりました』

 そんなやりとりで、由真は通信を終えた。



「お連れの冒険者の方々」は、この日も訓練場に入っていた。

 4人――晴美、衛、和葉にウィンタを集めて、由真は「アクティア湖周辺でゴブリンの出没」の件を話す。


「それで、私たちに相談してる、ってことは、由真ちゃん一人で行くつもりじゃない、っていうことよね?」

 案の定というべきか、晴美はそう問いかけてきた。


「まあ、そこは、一人でもいいけど……」

 そう言いかけると、晴美のまなざしが険しくなる。

「……せっかくだし、『冒険者』として、みんなで鬼退治をする、っていうのもあるかな、って思って」

「まあ、そうね。そういうのは、きちんとこなしておくべきね」

 晴美の表情が穏やかになり、由真は密かに息をつく。


「それ、セプタカのときみたいな、竜とかそういうのがいたりするのかな?」


 そう口にする和葉は、不安げな表情だった。

 実際、セプタカのダンジョンで相手取った「魔将マガダエロ」と「七首竜」のコンビを、その強さを思い出せば、恐怖心を抱くのがむしろ当然だろう。


「もしそうなるようなら、そのときはレイドを編成するってことで、まずは現地の調査だと思うよ」

 由真はそう答える。

 セプタカのときのように「強いられて」というならともかく、自らの意思だけで全滅必至の敵陣に踏み込むつもりなどは毛頭ない。


「まあ、そんなとこね。ゴブリンが巣穴を作ってたら、ホブがいてもおかしくないし、オーガもいるかもしれない、っていうのがあるから、地元のギルドだけだと調査もままならない、ってとこでしょ?」

 ウィンタが補う。彼女の指摘はさすがに鋭かった。


「そうみたいです。それで、今日出発、とかだとさすがに準備もきついと思うから……」

「由真ちゃんが行くつもりなら行けるけど?」

 晴美に機先を制されてしまった。


「俺は、大して準備もいらない。由真が今日出るなら、ついていく」

 そして衛もそんなことを言い出す。「女性陣」よりさらに身軽な衛にそう言われては、何も言い返せない。


「それじゃ、県庁と相談するから」

 そう言って、由真はいったんその場を後にした。

「『冒険者』として、みんなで鬼退治をする」。

ダンジョン攻略1回の経験しかないパーティーなので、地道な経験が必要なのです。

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