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145. カンシア勢の日々 (3) 「裏方」の現状

雑用を押しつけられたC2班の面々は、「裏方」の仕事場に向かいます。

「近藤さ、気持ちはわかるけど、ご機嫌くらい取っておきなよ」

 B1班の小会議室を出て、沖田がため息とともに近藤に言う。


「あれ、ちょっと間違ったら殺されてるよ?」

「それならそれでかまわない。いっそ仲間内で人殺しが出れば……平田の奴も少しは悔しがるかもしれんしな」

 そう答える近藤の表情は、険しく、そしてゆがんで見える。


「あの勇者様はそんなタマじゃないよ。『仲間に死人が出てしまったことは残念だが』で済ましちゃうだけだって」

「それも……そうか……」

 近藤が応えた、ちょうどそのとき。


「お、C2じゃねぇか! ちょうどいいとこに来た!」

 そんな声が響く。振り向くと、B2班の浅野紀明と山内(やまうち)(ゆたか)が部屋から出てきたところだった。


「これ、壊れちまったんでな。修理しといてくれ」

 そう言って浅野が放り投げてきたのは、丸盾だった。見ると、外側が割れて一部が欠けている。


「あと、剣も(なま)ってるし、鎧も金具が緩んでんだ。ついでに直してくれ」

 山内が、剣と革鎧を突きつける。


「……なんで、それを俺たちに?」

「しょうがねえだろ。先週まではチビ助がやってたけど、奴はいなくなってっからな」

「そうそう。あのドワーフ女、そういうとこは役に立ってたのにな」

 近藤の問いに、浅野と山内はそんな答えを返す。


「それは、鍛冶職人の仕事だろう」

「連中と話すんの、面倒なんだよ。お前ら、ゴブリンからも逃げ帰ったってんだろ? せめて、チビ助の代わりくらいしろよ」

 浅野は、そう言って冷笑を浮かべる。

 近藤の額に青筋が浮かんだのが、青木にもはっきり見て取れた。


「わかったよ。これは預かって、鍛冶職人に伝えておくから」

 そういって、青木は浅野と山内の武器を受け取った。


「さっさと頼むぜ。俺ら、明日はまたダンジョンに潜るからな」

「善処はするよ」

 浅野の言葉に沖田がそう答えた。



「あいつら……チビ助とかドワーフ女とか、池谷に失礼とは思わんのか」


 厨房や鍛冶場のある区画へ向かう道すがら、近藤がうめく。


 浅野と山内が言う「チビ助」「ドワーフ女」とは、C3班の1人、池谷瑞希のことだった。

 彼女は、体格が小柄なために「チビ助」と呼ばれ、意外にも工作技術に優れていたために「ドワーフ」などとも呼ばれていた。


「失礼とかいう感覚があったら、花井さんを『掃除当番』とか呼んだりしないよ」

 そう言って、沖田はため息をつく。


 同じくC3班に属していた花井香織。

 彼女は、ギフトが「清め人」というものだったため、口さがない男子たちから「掃除当番」と呼ばれ、トイレ掃除などを押しつけられていた。


「とりあえず、雑用は処理しないと」


 2人をよそに、青木は鍛冶場に入り、丸盾、剣、鎧を職人に差し出す。


「これは研ぎ直す。鎧の金具は締め直しておく」


 剣と鎧は、簡単だった。


「こいつは……全体に(いた)んでるな。使い方が悪い。ここだけ補強しても、すぐに他がダメになる。打ち直した方がいいぞ」


 丸盾の方は、厳しい状況らしい。


「それは、どのくらいかかります?」

「ここだけ直すなら、夕方にはできるがな。打ち直しなら、あさっての夕方だ」


 職人の答えに、青木は一瞬悩む。

 Bクラスの2班は、交代でダンジョンに潜っている。B2班は、明日もダンジョンに潜ることになるから――


「補強だけで、お願いします。夕方には納品しないとなので」

「まあ、こいつも、先週のうちに持ってきてたらな。ミズキの手にかかれば、明日の朝には打ち直して取り付けまでできてたんだがな」

 職人の言葉に、青木の胸が突き上げられる。


 浅野と山内が「チビ助」と揶揄した池谷瑞希。彼女がいれば、抜本対策となる「打ち直し」をしても、明日のダンジョン入りに間に合っていた。


「済みません、僕らも、それをついさっき渡されたんで……」

「まあ、大変だな、お前さんらも。Bとかの連中は、使い方が雑でなってねえからな」

 そんな言葉を返されて、青木は少しほっとした。



 ついでに厨房に寄り、島津からの「ご命令」を伝える。


「食事が、その……先週に比べて、少し、品質的に、見劣りする、というような意見がありまして、できれば、その、改善をしていただけないか、と……」


 島津の言葉をそのまま伝えることは、青木にはできなかった。


「そう言われましてもね。元々、これがここの普通の食事なんですけどね」

 相手――厨房を管理する中年の女性は、そう言って大きなため息をつく。


「その、先週までは、あの、内容が、もう少し……」

「そりゃ、先週までは、アケミちゃんが調理してくれてましたからね。それに、材料なんかの調達は、シチノヘさんがうまく仕切ってたんですよ」


 今度は、佐藤明美と七戸愛香の名が出てきた。


「シチノヘさんはすごかったですよね。程度のいいイノシシとかキャベツとか、たくさん取り寄せてましたからね」

「それも、90デニかかってたのが70デニで済んじゃうとか、もう魔法でしたね」

「あと、調理も手伝ってくれて。アケミちゃんとシチノヘさんのおかげで、私たちのご飯も充実してましたよね」

 厨房で休憩していた女性たちが、次々と声を上げる。


「あの……」

 青木は答えに窮してしまう。


 七戸愛香がいなくなった今、食事をかつての水準に戻すことは不可能だろう。

 金に糸目はつけない――と言ったところで、七戸愛香がいた頃はむしろ必要経費が低廉だったというのでは、話にならない。

 とはいえ、先ほどの島津の勢いを思い返すと、食事の水準が向上しなければ、それこそC2班から「犠牲者」が出る恐れすらある。


「その……Bクラスの12人の分だけでも、上質なもので、お願いできませんか? Cクラス14人の分は、多少犠牲にしてもかまいませんので……」

 そう言うしかなかった。


 Bクラスを怒らせては、Cクラスの身の安全すら危うくなる。

 食事程度は、Cクラスが耐えるしかない。


「まあ、とりあえず、わかりました。……けど、アオキさんも、大変ですね。あのBの人たちのお守りもさせられて」

 代表者は、そんな言葉を返してきた。


「その、済みませんが……よろしく、お願いします」

 青木は、そう答えるしかなかった。

武器の修繕、料理の質、そして所要経費。

はい、お約束の「もう遅い」という奴です。


なお、現地の人たちは、苦労人が苦労していることは理解してくれています。

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