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144. カンシア勢の日々 (2) 留守居役の仕事

一方、「上級国民」ならぬ「上級クラスメイト」はというと…

 オーガとともにゴブリンの群れが現れた。


 C2班からその報告を受けた翌朝。

 島津忠之たちB1班の面々は、彼らに与えられた小会議室で、いつも通りに朝食を取っていた。


「なんかここんとこ、スープまずくね?」

「ああ、具が減ってんな。肉もなんか硬えし、ソーセージも減ったな」

 津田の問いに、鍋島(なべしま)直樹(なおき)がそう応える。


「C2の連中は使えねぇし、飯はまずくなるし、なんか下がるわ」

 そう言って、津田は舌打ちする。


「それはそうと、夕べの件、どうする?」

 細川(ほそかわ)経夫(つねお)が問いかける。


「ああ、オーガもいたとなるとやっかいだ。ゴブリンだけなら、C1とC2を総動員すればなんとかなるだろうが」

 島津は、そう応えると、食事の手を止めて腕を組む。


「オーガが1体か2体程度だったら、平田君たちの手を煩わせる訳にはいかない。しかし、連中が4・5体もいたとしたら、俺たちが返り討ちにされる心配もある。そうなると……平田君に無断で兵力を動かすのもまずい」

「留守居役としては、判断が難しいところだよね」

 島津の言葉に細川がそう応える。


 島津は、Sクラス・Aクラスと判定された7人に次ぎ、Bクラスの中では最もステータスが高かった。

 そのため、B1班の班長とされ、平田たちS・Aクラスの不在中は留守部隊の責任者も任されている。


「C2班は、1体いたことしか確認できていない。とりあえず、冒険者を使ってもう少し情報を集めるか」

「冒険者、って、『白鷺』の方か?」

 鍋島が問いかける。


「当然だ。『曙』と関わる訳にはいかん」


 ここには、砦の中に拠点を与えられている「栄光の白鷺」と、砦の外に天幕を張っている「曙の団」という2つの冒険者ギルドがいる。


 このうち、「曙の団」の方は、島津たち「勇者の団」の活動を妨害した末に、平田たちの功績を横取りしたとされていて、砦内への出入りが禁じられている。

 他方、「栄光の白鷺」は、この地を治めるドルカオ方伯から「御用達」のお墨付きを得ている「信頼できるギルド」だった。


「いっそ、『曙』を行かせたらどうよ? 同士討ちで壊滅するかもしんねぇし」

 津田が横からそんなことを言う。


「あのな……ごろつきと不用意に近づく訳にはいかないんだ」

 その無責任な発言をたしなめるように、島津は応えた。



 島津は、「栄光の白鷺」の団長(マスト)を呼び、用件を告げる。


「残党どもの巣穴を探査して、特にオーガの数を確認する、ということですね」

 相手はすぐにポイントを把握してくれた。

「はい、よろしくお願いします」

「承りました」

 そんなやりとりで、「栄光の白鷺」との相談は終わった。


「話が早くて助かる」

 相手が立ち去ってから、島津はそう口にする。


「さすがに、方伯の御用達になるだけはあるよな」

「『曙』じゃ、ろくに話もできねぇだろ」

 B1班の仲間たちもそう応じた。


「報酬がどうこうとかいう面倒な話は、方伯からまとめて精算することになってるからな、その意味でも助かる」


 会計関係は、当初は女神官が担当し、C3班が戦線から離脱してからは彼女たちの受け持ちになった。

 そのため島津たちは、この王国の通貨をそもそも知らなかった。



 昼間は、B1班とB2班が交代でダンジョンに潜り、残敵を掃討する。

 先週の段階では、ゴブリンが数体残っていて戦闘を余儀なくされていたものの、今週に入ってからは――


「今日も残敵はなかったぜ」


 夕刻に戻ってきたB2班の班長、浅野(あさの)紀明(のりあき)が島津に報告した。


「お疲れ。例の残党どもの巣穴の件もある。明日、こっちで何か起きるかもしれないが、そのときは頼む」

「ま、何なら俺たちが明日も潜ってもいいけどな」

「そういうわけにはいかん。交代制、というのは平田君から言われてるからな」

「わかってるって」

 そんなやりとりをして、両者はそれぞれのスペースに戻った。



 翌朝。

 いつも通り小会議室に入った島津を迎えたのは、蒼白な表情の同級生たちと、「栄光の白鷺」の団長(マスト)だった。


「どうした?」

 島津が問いかけると、全員が顔を見合わせる。


「実は……『曙の団』が、例の巣穴をつぶしてしまったんです!」

「栄光の白鷺」の団長が叫ぶ。


「は?」

「夕べ、連中が巣穴を火攻めして、中にいた連中を皆殺しにしたんですよ!」

 ――その言葉を理解するのに、島津は数秒を要した。


「そんな……やられてしまった、と……」

「我々も、昨日から探索を始めたばかりだったのに、今朝行ったら、もう砦跡が黒焦げで……」

 島津が「栄光の白鷺」に依頼した日の夜に、「曙の団」は攻撃をかけた――


「くそっ!」


 苛立ちを抑ええられないまま、島津は壁のボタンを押す。

 程なく、C2班の近藤・沖田・青木の3人がやってきた。


「いったいなんだ?」


 そう問いかけてくる近藤。その顔を見るだけで、島津はさらにいらだってくる。


「お前らが取り逃したゴブリンどもが! 外の連中にやられたそうだ! お前らがぼうっとしてるから、また手柄を横取りされたんだぞ!」

 そう叫び、テーブルを叩いて、ようやく島津の感情の炎は鎮まる。


「それで?」

 その言葉が、島津の心に再び火をつける。


「ふざけるな! お前らのせいだぞ! わかってるのか!」

「オーガとゴブリンが片付いたんだろう? 問題でもあるのか?」

 のんきなその言葉が島津の感情を逆なでする。

 彼は、思わず相手の襟を締め上げた。


「お前らも、七戸たちと同じ目に遭いたいのか?!」

 そう問い詰めても、相手は何も応えない。

「このうすのろがっ!」

 島津は、相手を壁に向かって突き飛ばしていた。


「外のごろつきと話をつけてこい! 方伯と『栄光の白鷺』の契約を勝手に横取りしたこと、きっちりわびさせろ! いいな!」

「何を言ってるんだ?」

 島津の命令に対して、近藤はそんな言葉を返してきた。


「この、馬鹿野郎が!!」

 島津は、近藤の顔のすぐ真横の壁面を殴る。魔法で強化されたその拳が、石造りの壁面をへこませた。


「とにかく、残党狩りの依頼の関係で、『曙の団』と話をしてくればいいんだね?」

 横から、沖田が平坦な声で問いかけてきた。


「わかってるなら、さっさと行け!」

 そう言うと、沖田は露骨なため息をつき、近藤と青木を伴ってその場を立ち去ろうとする。


「それと、青木!」

 苛立ちを抑ええられないまま、島津は残り1人を呼び止める。

「な、なにかな?」

「最近飯がまずい。厨房に注意しておけ!」

 その言葉に、青木は、わかったよ、と応えた。

「平田たちS・Aクラスの不在中」ということで、B1班とB2班が「上位」になります。

「下位」のC1班・C2班に対して「上位」の立場で接する素直な人たちです。


なお、「曙の団」と「栄光の白鷺」に対する「評価」ですが……島津君たちB1班は「勇者様の団」の「主力」に近い立場にあるということです。

「七戸たちと同じ目に遭いたいのか?!」という台詞が出てくる有様ですから。

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