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131. 防具を見る

今回は、冒険者ギルドの購買部らしいお買い物です。

 翌朝10時。

 折しも、由真の知行に対する同意の件がコーシア県会で付議されている時間。


 由真たちは、再び購買に集まった。


 受付担当のラミナ・メリキナも伴い、装備品を見る。


「鉄製の板金鎧となりますと、安くとも10000デニですねえ」

 従業員の若い男性は、衛を見てそう言う。


「いや、それは必要ありません。あの、なんと言ったか……革鎧に、金属板が貼り付けてある……」

「ブリガンティン?」

 首をかしげた衛の横から、晴美が言う。


「そう言うのか? あの、ダンジョンの2度目で借りた奴なんだが」

「ああ、うん。ブリガンダインだね」

 セプタカで「決戦」の際に、衛に貸与された防具といえば、確かにそれだった。


「そうしましたら、あの、センドウさんは、金付(かねづけ)でいいですね? カズハさんは、どうします?」


 ユイナに問いかけられて、剣を見ていた和葉が振り向く。


「あ、あたしですか? あのとき使った奴なら、あれでいいです。革鎧だけだと、ちょっと不安だし、あの鎧はさすがに重たそうだし、それに、最低でも10000デニって、手が出ないですよね?」

「まあ、そうですね。それ以前に、あれは、STRが最低でも300、できれば500はないと、ろくに動けませんから」


 和葉は女子としてはスペックが高いものの、STR300には至っていない。


「では、こちらのお二人は、金付(かねづけ)革鎧でお願いします」

「それでは、中3日いただきますけど、よろしいですか?」

 ユイナの言葉に、男性従業員はそう問い返す。


「そうすると、来週の第1日ですね。わかりました」

「ところで、聖女騎士様は、防具はどうされますか?」

 メリキナ女史が問いかける。「聖女騎士様」――晴美のその肩書きを、ずいぶんと久しぶりに聞いたような気がする。


「セプタカの攻略のときは、聖女騎士様は後衛だったとお聞きしましたけど……」


 ――5000キロも離れたこの地に、あのときの「陣立て」まで伝わっているとは思わなかった。


「ああ、そうですね。あのときは、支給品が革鎧でしたし、それで特に問題もなかったので」

 そこで、晴美は不意に眉をひそめる。


「でも、由真ちゃんがいないときは、私も前衛に回る必要もありましたね。それでも、革鎧で問題はなかったですし、私は、STRが150なので、そんな重装備もできませんから」

「それって、1回目の偵察のとき?」


 由真は――晴美とユイナとゲントから強く言われて――休息を取り加わらなかった1度目の偵察。

 晴美たちは、オーガ都合5体が率いるゴブリン都合24体と会敵(エンカウント)した。そのときは、特に被害もなく全て返り討ちにしたと聞いていた。


「そう、あのときね。ちゃんとした槍を持ってれば問題はないし、今ならもっとうまく魔法を使えると思うわ。……って、それより由真ちゃんの防具よ。最低限、鎖帷子と革鎧ね」

 晴美に問いかけた結果、やぶ蛇をつついてしまったらしい。


「えっと、鎖帷子って、重たいんですよね?」

 仕方なく問いを投げると――一瞬空気が硬直した。


「……本当に、鎖帷子も付けられてなかったんですね」

「鎖帷子もなしで、七首竜を倒したって、本当だったんですか?」

 メリキナ女史が嘆息し、従業員は驚きをあらわにする。


「って、なんでそんなことが……」

「ユマさんの武勲は、ギルドではすっかり語りぐさなんですよ?」

 ユイナにそう言われては、返す言葉もない。


「えっと、鎖帷子、試着、してみます?」

 従業員は、鎖帷子の見本を手に問いかけてきた。


 実物を見せられては、試着するよりない。

 それは、頭からかぶり、袖を通して、胴と両腕、それに股関節までを保護する形状だった。

 身につけてみると、やはり全体に重い。


「ちょっと試してみていいですか?」

「あ、はい。そうしたら、こちらへどうぞ」


 そういって、従業員は、奥まったところにある5メートル四方程度の空間に由真を案内した。

 武器や防具の使い心地を試すための場所らしい。


 由真は、形意拳の三才式に構えて、五行拳を試してみる。


 鑚拳と炮拳の上昇動作に負荷がかかる。

 劈拳と横拳が制御しづらい。

 崩拳も、全身の勁がうまく伝わらない。


「どう?」

「やっぱり、追従性が悪いかな」

 晴美の声に、由真は率直に答える。


「由真ちゃん、回避盾だもんね。あんまり重たいと逆効果だよね」

 和葉の方が理解を示してくれた。


「ミスリルなら、相当軽くなるんですけど、ユマさんの要求は、厳しそうですしね……」

 ユイナがため息交じりでこぼす。


「え? ミスリル? あるんですか?」

「お、こんなところでファンタジー素材登場」


 それに反応したのが、和葉と愛香だった。

 ちなみに、愛香たち「生産者」のグループも、この場に加わっていた。


「え? ええ、まあ……あの、ミスリルは、銀の輝きを持ち、銅みたいに延ばせて、鋼より強くて軽い、という、伝説の金属だったんですけど、大陸暦の時代に入って、軽銀の抽出が可能になって……純粋な軽銀は堅さが足りないので、他の金属を少し混ぜて硬くしたものが、『ミスリル』と呼ばれるようになったんです」


 ユイナは、「金物屋」であろう従業員の顔色をうかがいつつ、そんな解説をする。


「うちはジーニア支部出入りを任されてますから、苦銀(にがりがね)入りの真鍮(しんちゅう)ミスリルで細工もできます」

 従業員は――ユイナの「解説」に特別な不快感は示さずに――そう言うと見本の品を持ってきた。


 由真は、着用していた鎖帷子を脱いで、ミスリルの方を手に取る。重量は明らかに軽い。半分以下と思われる。

 着用して、同様に五行拳を試してみると――負荷は小さい。


「これくらいなら……どうしても、っていうなら、許容範囲かな。でも、走るのには、ちょっとあれかな……」


 セプタカの戦いのとき、一度だけ、取り逃しかけたゴブリンを追いかけて全力疾走したこともあった。

 その可能性まで考慮すると、これでもなお「重し」となる。


「そこまで言い出すと、もう革鎧なんてつけられませんよ」

 さしものユイナが、あきれたように言う。


「まあ、なので、僕は、別に防具はいらない……」

 言いかけた由真は、ここが武器売り場であることを思い出す。


「……けど、みんなの分は、奮発してこれにしたらどうかな?」

 生産職の6人に話を振る。「ここの商品はいらない」と言い切るだけでは、ただの営業妨害だ。


「え? こんな大げさな……って、軽いね、これ」

 声を上げかけた美亜は、由真に手渡された鎖帷子を受け取ると、感心したように言う。


「ちなみに、鎖帷子の相場は……」

「大まかですと、銅製のもので100デニ、鉄製は300デニ、そちらのミスリルは700から800ですね」

「うわ高っか!」

 由真の問いに従業員が答えると、美亜はとたんに声を上げ、手にしていた鎖帷子を由真に返した。


「まあ、生産者としてアトリアに住む分には、こういう武装は必要ないんですけど、牧場に入るとなると、革鎧に、できれば鎖帷子は、用意しておいた方がいいですね。ゴブリンは、どこにでも出てきますから」

 牧場、と言われて、全員の視線が恵に集中する。


「でも、私は、そんなお金は……」

「大丈夫ですよ。ユマさんが牧場をお任せするときに、支度金が出ますから」

 不安な様子を見せる恵に、ユイナが軽い口調で言う。


「いや、だから、それは決まった訳じゃ……」


 由真がユイナに言葉を返したそのとき、制服姿の別の受付嬢が近づいて、由真たちを世話しているラミナ・メリキナに何事か耳打ちした。


「ナスティア城伯様、コーシア県庁より連絡がありました」

 メリキナ女史が由真に耳打ちする。

 それで用件の見当がついた由真は、「ちょっとごめん」と断り、メリキナ女史を伴いその場から離れる。


 購買部を出たところで、メリキナ女史は由真に向かって口を切った。


「コーシア県知行の件、県会で賛成多数で可決されたとのことです」

この主人公は鎧を3つ(着る用・スペア・スペアがなくなったときのスペア)買うような性格ではありません。

もちろん、和葉さん曰くの「回避盾」ということを十分認識してのことであり、ゴブリンを逃がしかけた失態を忘れていないということでもあります。


せっかくのファンタジー素材「ミスリル」は、生産組の護身用になりそうです。


ブリガンティン(独語)とブリガンダイン(英語)の表記については74話の後書きにも書きましたが、晴美さんなら前者、由真ちゃんなら後者です。

(ユイナさんその他の現地勢は「金付革鎧」「金付」と呼びます)

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― 新着の感想 ―
[一言] そのうちNAISEI組が全力全開で由真ちゃんの装備や衣類を作り出しそう、国宝レベルになってるやつ しかし色々文明や文化が歪んでますね、足元がスカスカというか
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