12. 頼るべき人、ともにあるべき人
テンプレ、また一つです。
結局、「雑兵」を「代表クラス」とした上で、他に8種の「クラス」を指定して、由真の奉告は終わった。
「あの、私は、皆さんのお世話のために、暫くここに滞在すると思いますので、何かあればいつでも相談してください」
そういって、女神官ユイナ・セレニアは防音の壁を解除した。見ると、相沢晴美以下の他の面々は、すでに部屋から退出していた。一人残っていた若い男の神官は、煩わしげな様子で由真を連れ出す。
召喚された際に身を置かれた聖堂に戻ると、別の神官が由真を見とがめた。
「なんだ、クラスは『雑兵』で、レベル0か。お前は『臣民』じゃない。あっちに行け」
そんな言葉とともに、由真はクラスメイトたちとは反対側の空間へと突き飛ばされた。
「……ちょっと、私の従者筆頭に、何をしてるのかしら?」
すかさず通る相沢晴美の声。神官は、ちっ、と舌打ちして、由真を引き戻した。
「全員そろったようだな。それでは、Sクラスの『聖女騎士』ハルミ殿と『勇者』マサシ殿は、この場において、アルヴィノ殿下の年爵により騎士爵に叙する。他の37人は『臣民』とするが、Aクラスのカツラギ殿、サガ殿、センドウ殿、モウリ殿、ワタライ殿は、初期訓練の成果によって騎士爵に叙する用意がある」
早速「クラス」による格差付けが始まるという宣言だった。
「なお、レベル0『雑兵』のヨシマサ・ワタラセは、ハルミ・リデラ・フィン・アイザワ殿の従者とする。ついては、『飼い主』の責任において『住人』として登録願いたい。……従者への指名を撤回すれば、手続きはこちらで行わせていただくが……んごっ?!」
冷笑とともに言葉を放った神官は、突如うめき声を上げた。その口が氷で塞がれている。
「いちいちうっとうしいわね、ここの蛮族は。……何をすればいいかを教えてもらえれば、後は自分でやるわ」
由真を保護することは余計な負担になる、と言って相沢晴美と由真を引き離そうとした神官に対して、彼女は実力行使で返したようだった。
「あの、それでしたら、手続きは私が行いますので、必要なご指示をください」
女神官ユイナ・セレニアが言い出す。
「……いいんですか?」
「はい。あの、私は、アイザワ様の担当もしますので」
その答えに、相沢晴美は、済みませんね、と応じた。
「それでは、皆さんを居住区画にご案内しますので」
ユイナ・セレニアは、そういって2年F組の面々を連れ出した。
聖堂から数分歩いたところに居住区画はあった。
相沢晴美と平田正志には、数室の部屋を備えたマンション並の空間が用意された。
Aクラスの5人にはバストイレ付のホテル並の空間が、Bクラスの12人には風呂・トイレ共用で一人部屋が、そしてCクラスの男子14人・女子6人には男女別の大部屋一つずつが与えられる。
ちなみに由真は、相沢晴美の「従者」ということで、彼女の居住空間の一室を借りることになった。さもなければ屋根裏の物置と言われては受け入れるほかなかった。
「って、相沢さん、ヨシを従者にする、ってどういうこと?」
諸々落ち着きかけたところで、度会聖奈が相沢晴美に問いかけた。
「……度会さん、今までの経緯、全部聞いてたでしょう? 渡良瀬君は、この異世界召喚のとばっちりで女の子になってしまった。そしてギフトがゼロとか判定されて、ここの連中は、私たち39人と渡良瀬君を引き離して、彼を見捨てたくてうずうずしてる。さっきだってそうでしょう? だから、連中を黙らせるために、私の『従者』っていう扱いにした。っていうことよ」
相沢晴美は、淡々と言葉を返した。
「で、でも、ヨシのことを、あたしに何の相談もなく……」
「度会さん、あなたに相談するいとまが、どこにあったの? この一連のやりとりの中で」
言いさした聖奈を相沢晴美は遮る。
「そもそも……私と違って、渡良瀬君といつも一緒にいる幼馴染みが、今回だってすぐそばで見てたはずなのに、どうして、彼が『女の子になった』ことを指摘しなかったの? それに、連中が渡良瀬君を追い出そうとしたとき、どうして、あなたは留め立てしなかったの? 私が、彼らとクラスのみんなを敵に回すようなまねまでしてやったこと……本来は、全部あなたの仕事じゃないの? 度会さん?」
相沢晴美が続けた言葉が由真の心にしみこむ。
確かに、本来なら、幼馴染みである聖奈こそが、身を挺して由真をかばうべきだった。しかし、聖奈は平田や毛利とともに「特権階級」の席を占め、由真への配慮を何の行動にも示さなかった。
「私は……元の世界の渡良瀬君には興味があったわ。そして、今の世界で女の子になってしまった渡良瀬君のことは、とにかく守りたい。手段を一切選ばないで。クラスのみんなを敵に回してでも」
そういうと、相沢晴美は聖奈に向かって一歩踏み出す。
「この状況で、一切手をさしのべなかったあなた。もういいでしょう? 私は、渡良瀬君をかばったわ。だから、あなたが今まで占めてきた立場は、これからは私のものにするから。わかったら、自分の部屋に戻ってもらえる?」
その言葉に、聖奈は一瞬息をのみ、そして由真に目を向けた。
「ヨシ、あんたは……あんたはどういうつもりなの?」
そう問いかけられて。自分の過去と現状を思い返してみると。
これまで自分を使い走りとして扱い続けた聖奈。この状況を等閑視していた聖奈。この人物に対して、自分はこれ以上何を求めるというのか。
自分が置かれた窮状を的確に理解してくれた相沢晴美。周囲が向ける蔑視と敵意から自分を守ってくれている相沢晴美。今こうして生きて聖奈に面していることすら、結局は相沢晴美の恩義によるものだ。
いずれを頼るべきか。いずれとともにあるべきか。火を見るより明らかだった。
「申し訳ございません、賢者様。私は、聖女騎士リデラ・フィン・アイザワ様の従者でございます。賢者様とのかかわりは、ご主人様のお心のままとさせていただきたく存じます」
由真の口から紡ぎ出てきた声は、不思議と平坦だった。
腰を折り礼をしたその瞬間に、この相手は「幼馴染み」から単なる「賢者様」となり、「聖女騎士リデラ・フィン・アイザワ様」が由真の頼るべき「ご主人様」となった。
「それじゃ、私たちはこれで失礼するわね」
相沢晴美は、そういって、由真と女神官ユイナ・セレニアを連れて自室に入る。聖奈は追いすがっては来なかった。
「幼馴染み絶縁」をメインにするつもりはないので、この程度です。