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128. 任官

ギルド員として任命されて、正式に加入します。

 その日の夕刻。

 由真たちは、ジーニア支部の支部長室に集められた。


「初めまして。私、アトリア冒険者ギルド・ジーニア支部長のサンティオ・クロドと申します」

 由真たちを迎えた初老の人物が自己紹介した。


「神祇官猊下には、お久しゅうございます」

 クロド支部長は、そういってユイナに向かって腰を折る。

「あ、いえ! あの、支部長も、お変わりないようで、何よりです」

 ユイナは、慌てた様子でお辞儀を返す。


「あの、クロド支部長は、2年前までタミリナ支部長で、私も、いろいろお世話になってまして」

「当時から、神祇官猊下には、冒険者ギルドにご協力をいただき、感謝の言葉もございません」


 早い時期から冒険者ギルドに協力していたというユイナ。彼女にとって「窓口」だったのが、その「タミリナ支部」なのだろう。


「それでは、皆さんの官記をお渡しします。アルファベタ順となります」

 ここでも、最初に呼ばれるのは晴美だった。


「アイザワ子爵ハルミ。勅命を奉じ冒険者に任ずる。A級に叙する。大陸暦盛夏の月28日、アスマ公爵エルヴィノ」

 クロド支部長が官記を読み上げる。手渡された紙を、晴美は優雅な所作で受け取った。


 以後、順番に官記が手渡される。


「アイカ・シチノヘ。勅命を奉じ生産理事官に任ずる。A級に叙する。大陸暦盛夏の月28日、アスマ公爵エルヴィノ」

 最後の愛香が官記を受け取る。


「皆さんには、お住まいが決まるまでの間は、ジーニア支部に仮登録となります。ボレリアさんも、研修の間はこちらに登録させていただきます」

 官記が全員に行き渡ったところで、支部長は由真たちに言う。

 ボレリアさん――ウィンタの研修も、この支部で行うらしい。


「皆さんへの依頼は、基本的に本部事案になろうかと思われます。ただ、当面の仮住まいを含め、皆さんへのお世話は、このジーニア支部でも承りますので、何かありましたら遠慮なくお申し付けください」

 そういって、支部長は丁重に礼をする。

「こちらこそ、これからよろしくお願いします」

 ユイナが応えて、それでこの場は終了となった。



「こちらの幹部は、皆さん丁重ですね」

 支部長室を後にして、由真は思わずそう口にしてしまう。


「あの、全員が全員、という訳ではありませんけど、ユマさんが今日会われた方たちは、皆さん相当の地位にありますから」

 ユイナは苦笑とともに応える。


「相当の地位、って、どのくらいなの?」

 横から晴美が問いかけてきた。

「タミリナ支部長は、A級直前のB級で、ジーニア支部長はA級です」

「って、あの人、凄腕の冒険者なの?」

 ユイナの答えに、晴美は目を見開く。


「あ、いえ……あの、冒険者ギルドの長は、一応『冒険者をもって補する』ことになってるんですけど、実際は、管理に慣れてる民政省の官僚がなるんです。それで、ギルドの職にある間だけ、民政省の理事官とか書記官とかから『冒険者』に転任して、ギルドから離れたら、元に戻る、という仕組みなんです」

「複雑ね……」

「あの、生粋の冒険者の方は、経営管理みたいなお仕事には向いてない場合が多いですから」


 ――「餅は餅屋」ということだろう。


「ちなみに、クロド支部長は、アトリア市の副知事くらいは狙える方です」

「それってすごそうね。でも、態度は丁重なのね」

「まあ、冒険者ギルドって、B級冒険者とかたくさんいるところに、B級の役人が支部長として乗り込む訳なので、変に偉ぶったりすると冒険者さんから反発されてしまうんです。アスマの民政省でも、冒険者ギルドがしっかり経営できたかどうか、というのが、人事評価の鍵になるそうですから」


 確かに、「冒険者ギルド」が民政省なり労働省なりに属する組織なら、それも道理だろう。


「アトリア市は、知事とか副知事とかがいるんですね」

 ユイナが「副市長」ではなく「副知事」と言っていたため、由真はそう問いかけてみる。


「ええ。アトリアは県級市ですから、長は知事で副長は副知事です。ナスティアは普通の市なので、長は市長で副長が副市長ですけど」


 大都市の行政機構を別扱いにする。そういう仕組みは、この世界にもあるらしい。


「アトリアの知事、って……」

「117年までは在任してたんですけど、80歳を超えてしまったので、さすがに……ということで、117年に退官して、それからは空席です」


 州都のトップが80歳過ぎまで在任していた。

 コーシア県は、冒険者局長官が兼任して30年も在任している。

 特定の人物を、あまりに長期間にわたって使いすぎている、というのは――


「人材の新陳代謝とか、してないんですかね?」

 おそるおそる尋ねてみる。


「まあ、正直なところ……上に行けば行くほど、できてませんね」

 そう行って、ユイナは深くため息をついた。


「人材というか、人物というか、とにかく、人は、たくさんいますし、A級まで昇進する方たちは、当然優秀なんです。ただ、そこから、S級を選抜するとなると……この人を、と選ぶのが、そう簡単ではないようで……

 117年に、各省の尚書、つまり閣僚が交代したんですけど、エルヴィノ殿下は、各省出身の年長の方を集められました。この方たちが、だいたい75歳前後で、来年辺りに、次の世代に交代することになる、と思います」


 人材の裾野は広く層も厚いのだとしても、その中で「頂点に立つ者」を選び出すのは簡単ではないのだろう。


「シンカニアができて、たいていのところからアトリアに簡単に日帰りできるようになりましたから、旧ベニリアと旧トビリアの県と県級市は全て、エルヴィノ殿下が遙任(ようにん)で知事を兼ねられている形になっています。

 殿下は、あのようなお方ですので、各地の副知事に任せきりにして放っておく、ということができませんし、副知事も、殿下にお伺いを立てることが多く……タツノ副知事のような方でもないと、アトリア通いになってますね」


 エルヴィノ王子が、各地からの「お伺い」に適切に対処できる人物であるが故に、副知事たちも「お伺い」に頼るようになってしまうのだろう。


「ですから、殿下は、ユマさんのクラスに、相当期待されてるご様子ですよ?」

 そう言って、ユイナは由真に苦笑を向ける。

「コーシアにしても、タツノ長官に30年間副知事を勤めていただいた場所です。単なる『恩賞』で預けられる土地ではないんです。コーシアがうまくいったら、次は間違いなく、アトリアの知事ですよ?」


 ――背景事情を聞かされると、「そんなことはないでしょう」と気軽に言えない話だった。


「僕は、実績も何もない、16の学生なんですけどね」

「まあ、さすがに、明日アトリア市の知事になれ、ということではないでしょうけど」

「少なくとも、それより先に、ユイナさんが総主教になるんじゃないんですか?」

「それよりは、ユマさんがアトリア市知事になる方が先ですよ」


 おそらくは、いずれ避けられない重責。

 軽口を叩きながら、由真はそれを思わずにはいられない。

 ユイナも、それは同じなのだろう。

人がいない訳ではないのです。ただ、「上に立たせられる人」を選ぶのが難しいという訳です。

エルヴィノ王子(21)としては、今はまだ年功序列持ち上がり人事で対応せざるを得ないのです。


ということで、さらなる「成り上がり」が不可避の様相です。

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