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124. 由真とユイナの任務

エルヴィノ王子を支える双璧に、任務が示されます。

 由真のコーシア県知行に関する同意の件は、明日の午前10時から開催される県会に付議される。

 同意が得られた場合、爵位記はその日のうちに発出される。


「『お国入り』は、公式なものとしては、副知事、県会議長が駅でご到着をお迎えし、県庁に入られて、引継書受領と幹部引見となります。馬車を仕立てての行列や、数日にわたる祝宴、といった行事を加える場合も多くあります」

「それは、『娯楽』……市民に対する『パン』という意味があるのでしょうか?」

 副知事の説明に、由真はそう尋ねてみる。


「いえ。単なる就任パレードと、地元有力者への振る舞いを兼ねた宴席となります」

 ――「パン」という言葉の「含意」――「パンとサーカス」というそれを、副知事は察してくれたようだった。


「それなら、パレードはいりません。有力者にどうこうというのは、必要ならやりますけど、華美なものは……」

「承りました。それでは、同意が得られましたら、改めてご連絡いたします」

 そう言って一礼し、副知事は退出した。



「ちなみに、知事と副知事は、本官としてはA級です」


 副知事が退出した後、エルヴィノ王子が口を切った。


「コーシア県は、アトリア市の西に隣接し、シナニアに通じる道にあります。そのため、大陸暦90年にシンカニア実験線が整備され、93年には最初の路線としてコーシア線が開通、以来、アトリアに対する副首都として、重点的に整備を進めてきました」


 長旅の最後を飾ったシンカニア。それが、王国初の路線だった。


「このため、冒険者局次長だったタツノ殿を兼官で副知事に起用し、以後30年、かの地をお願いしたという次第です。結果、コーシニアは、学術研究都市となり、魔法精密工業の集積も実現して、人口60万人から380万人になりました。コーシア県も人口700万人から1260万人にまで発展しています」


 驚きの成長だった。人口380万人とは――


「あの、殿下、『世界最大都市』のホノリアの人口は……」

「約400万人ですね」

 紛争の種にもなっている「巨大港湾都市」と人口はほぼ同程度。


「ちなみに、アトリア市内にある外港都市ヨトヴィラは人口450万人、旧トビリア辺境州都シエピアは人口320万人、ナミティア地方の第2都市コスキアは人口310万人、と……その程度の都市は他にも少なからずあります」


 さすがにアスマは人口が桁一つ違うだけのことはあった。


「話を戻すと、タツノ副知事には、冒険者局長官から、民政尚書兼冒険者局長官と要職を歴任していただきつつ、コーシア県の統治もお願いしてきました。ただ、ご本人からお話があったとおり、70歳を超えるに至り、これ以上甘える訳にもいかず、民政省の方は勇退され、コーシア県だけはS2級副知事として引き続きお願いしていた、という次第です。

 彼のような老練な官吏が、アスマの統治を支えてきました。そんな彼らが望む『老後』のための『引退』の道筋をつけ、次世代の体制を固めること、それが、私の責務であり、そして、お二人にお願いしたい課題でもあります」


 お二人、といって、エルヴィノ王子は由真とユイナに目を向ける。


「ユイナさんは、S1級神祇理事となりましたから、今すぐにでも、アスマ総主教をお願いできる状態ではあります。ただ、私としては、ユイナさんには、総主教として行動を縛られるというのは好ましくない、現場に立つ神官としての仕事をお願いしたい、そういう思いもあります」


 今のユイナは、ナイルノ神祇長官と並ぶ「S1級神祇官」、すなわち王国ナンバー2の神官。

 彼女がアスマに戻ったからには、この地の神官の頂点に立つにふさわしい。とはいえ――


「あの、私は、総主教とは、とても恐れ多いですし、司教というのも……今は、神官として、やるべきことがたくさんある、と、そう考えています」

 ユイナのその言葉は、由真の予想通りだった。

 彼女は、総主教などという「地位」より、神官としての「使命」を重んじる人物だ。


「それでは、ユイナさんはアスマ公爵付司祭として活動していただきます」

 エルヴィノ王子のその言葉に、ユイナは、かしこまりました、と応えた。


「それから、ユマ殿ですが……」

 そう言うと、エルヴィノ王子は手元から紙を取り出し由真に手渡す。


「冒険者としてのユマ殿にお願いしたい大きな案件を1件、それと、民政顧問官としてのユマ殿にお願いしたい案件も1件、整理しました」

 受け取った紙は2枚あった。


「冒険者としてお願いしたい件は、『シンカニア・ナギナ線建設警備計画』です」


 ――昨日、「ミノーディア11号」の車中で話題になった案件だった。


「ナギナ線の計画については……」

「ユマさんには、魔族の妨害がある件、北シナニア冒険者ギルドとの不協和の件もお話ししてあります」

 ユイナが横から答える。


「それなら話は早いですね。実は、先々週、私がセントラに出発する際に、ユイナさんは秋にアスマに戻る見通しである、と、そう報道に伝えました」

 エルヴィノ王子は、そんな話を始める。


「ユイナさんがベルシア神殿で『研修』を受けていたため、アトリア冒険者ギルドの戦力は大きく削がれていました。それが、魔族側を利していた側面が大きかったのです。とはいえ、ユイナさんを神祇官とするためには、2年間の『研修』は避けて通ることができなかったのですが」


 確かに、光系統魔法と風系統魔法による索敵ができる上に、「光の盾」や「霧雨の嵐」のような戦闘用魔法も使うユイナは、「冒険者」として、ゲントや晴美と並び立つ貴重な戦力だった。


「そのユイナさんが秋に復帰する。そういう情報を流したため、魔族どもは、夏のうち……来月にも、シンカニア・ナギナ線の建設現場に総攻撃を仕掛けるべく、準備にかかっています」


 敵の戦力がそろう前に大規模な攻勢作戦に出る。普通なら誰しも考えることだろう。


「実際には、ユイナさんは研修修了の上で今回戻ってもらう予定でしたし、ユマ殿も、アイザワ子爵たちとともにこちらにお招きするつもりでした。その上で、魔族どもが仕掛けるであろう『総攻撃』を迎え撃つ。私としては、そのように考えていました」


 その言葉で、由真はようやく意図が理解できた。


 ユイナの復帰による冒険者側の戦力の回復。

 それに関して、あえて「実際よりも少し遅い時期」を情報として流すことで、敵を攻勢に転じさせておいて、充実した戦力をもって正面から叩く。

 それがエルヴィノ王子の策だった。


「先週のセプタカの件は、アスマにもすでに伝わっています。魔将マガダエロと七首竜をたやすく屠った無系統魔法大導師がアスマに移り、冒険者側の戦力に加わる。そのことは、魔族どもも承知しているはずです」


 確かに、「魔王」が存在して「魔族」を統べているのなら、横の情報網はあって当然だ。

 彼らが「脅威」となりうる存在に対して無為無策のまま――と考えるのは、楽観的に過ぎる。


「その総攻撃を退ける。その任務を、アイザワ子爵、カツラギ男爵、センドウ男爵とともに遂行していただく。それにより、アイザワ子爵はS級、カツラギ男爵とセンドウ男爵はA級に叙任できる『実績』を作っていただくとともに、ユマ殿が……『S級を超える存在』であることを、内外に広く知らしめる。それが、私のもくろみです」


 由真に関してはともかく、晴美や衛と和葉は、本来S級やA級の冒険者となってしかるべき能力がある。

 セプタカに続く「経験」を積めば、その能力と地位を確固たるものとすることができる。


「これに関しては、ユイナさんにも協力していただきます」

 その言葉に、ユイナは頷く。


「そちらには、背景事情として、建設計画の存在、魔族にとっての意味と妨害、ギルド間の不協和という課題の存在、ユイナさんとユマ殿が戦力に加わることを受けた迎撃という大枠、そこまでが書かれてあります。詳細は、追って詰めていきます」


 そう言われて、由真は手元の紙を見下ろす。そこには――エルヴィノ王子の言ったとおりの情報が記されている。

 その先の細部は、「迎撃」という性格上、敵の出方を把握しなければならない。


「承りました、殿下」

 由真は、そう応えて腰から一礼した。

こちらは、冒険者としての喫緊の課題です。

NAISEI関係もありますが、バトル展開もあります。

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