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123. コーシア県副知事

新しい領地をもらう前に、責任者と顔合わせです。

 昼食会を終えた一行は、冒険者ギルドのジーニア支部に戻る。

 ただし、由真は、ユイナとともに尚書府庁舎に残るように言われた。


 午後1時半。


 尚書府の長官室で、エルヴィノ王子は由真とユイナを伴い、1人の人物の面会を受けた。


「私は、コーシア県副知事を勤めております、ヨシト・フィン・タツノと申します」


 相手は、眼鏡をかけた老紳士だった。名前も面差しも、日本人のそれだった。


「タツノ副知事は、マリシア元帥などと同じ時期に『ニホン』から召喚された方です。アスマ総州冒険者局で活躍され、92年から30年近く、現在の職にあってコーシア県の内政を仕切っていただいています」

 エルヴィノ王子が補う。


「コーシア県の内政……」

 由真の「所領」となるとされている地域。その地域を長年統治してきたのが、他ならぬこの人物ということだ。


「ちなみに、タツノ副知事は、最後の冒険者局長官でもあるんです」

 横合いからユイナが耳打ちする。


「私こと、僭越ながら、冒険者局の職務と兼ねて、コーシア県をお預かりしてまいりました。ですが、117年には70歳となり、さすがに引退を致したく、知事の人選を含め、殿下にたびたびご相談をさせていただいておった次第です」

「ということで、すでに報道されたとおり、こちらが、セプタカのダンジョンを陥落させた無系統魔法大導師、ナスティア城伯ユマ殿です。私は、彼女にコーシア県の知行を委ねたい、と考えています」

 エルヴィノ王子の言葉に、副知事は鋭利な視線を由真に向ける。


 映る者の器量を容赦なく推し量るその目を前にして――由真は、逆に開き直っていた。


(器にあらず、なら、それで済むだけの話だから)


 由真自身が「コーシア伯爵になりたい」という野心を持っている訳ではない。「ダメ」なら「ダメ」で、別にかまわない――


「承りました、殿下。コーシア県は、最良の知事を仰ぐことが叶います」

 そう言うと、副知事は由真に向かって腰を折る。「合格」だったらしい。


「城伯閣下には、多数のクラスをお持ちとお聞きしましたが……」

「民政顧問官、都市管理官、都市技監、農村管理官、いずれも『測定不能』の『レベル0』です。こちらで内務関係の官職に就けば、より上位のクラスに転じるものと見込まれます」

 答えたのはユイナだった。


「そうしますと、コーシア県知事たる伯爵の他にも、兼官の予定は……」

「すでにS級冒険者であり、アスマ公爵民政顧問官にも任じます。可能なら、アトリア市知事に、冒険者ギルドの理事官など、……頼みたい仕事はあまたあります」

 副知事に問われたエルヴィノ王子は、空恐ろしいことを言い出す。


「承りました。ひとまず、コーシア県につきましては、明日の県会において知行の同意提案を付議いたします。その上で、閣下のご負担を軽減できるよう、私の後任の人選など、体制固めに微力を尽くさせていただきます」

 落ち着いた言葉だった。


「あの、タツノ副知事、その県会で、僕は、所信表明のたぐいをしなくともよい、のでしょうか?」

 知行には「県会の同意が必要」。その件が明日付議される。

 就任予定者が「所信を申し述べる」というのは、日本人の感覚としては必要なことと思われる。


「実は、申し上げにくいことながら、コーシア県会においては、県政反対派が少なからぬ勢力を持っております。閣下にコーシア県の知行を与える、という件が報道されて、反対派は、県を恩賞として扱うことに対する反発を示しており、所信質疑の開催を同意提案審議の条件とすべき、と主張しております。

 とはいえ、殿下に対し奉り直接批判の言を向けることはさすがに恐れ多く、彼らは、閣下を県会の席で詰問したい、と、そのように考えておるようです」


 反対意見を主張できる程度の自由はあるらしい。

 エルヴィノ王子を直接詰問することは「恐れ多い」という認識もあるようだが。


「それで、どうしたいのでしょう? 別に、僕が同意されないのはかまいませんけど、それなら、彼らは、どのような人物なら、知事として受け入れられるのでしょうか?」

「『彼らの言いなりとなる人物』でしょう。彼らの望むままに、幹部を更迭し、公費を流し込み、彼らの嫌う勢力に安易に課税する、そのような人物、それしかあり得ないものかと」


 本当にそうなら、さすがに手が負えないところだろう。


「県政賛成派が多数を占めておりますので、同意そのものは問題ありません。ただ、反対派からの批判の声は、どうしてもお耳に入らざるを得ず……」

「あの、僕は、健全な批判なら、耳くらいは傾けるつもりです。それに、僕は、『住人』の生活環境の向上が最優先課題だと、そう思っていますから、彼らが、そのために建設的な提案をして、それが現実的であるなら、僕は、受け入れるつもりもあります」


 由真がそう言うと、副知事は一瞬目を見開き、そして深いため息をつく。


「もったいない、お言葉です。ですが、……残念ながら、彼らは、県政のあらを探しては批判をし、財源の裏付けもない提案ばかりをする、そういう集団です」


 ――長年にわたり副知事として現地を預かってきた人物が、このような評価を下す。「そういう集団」ということだろう。


「わかりました。県会対策は、副知事のご判断に従います。ただ、先ほどの言葉は、『ナスティア城伯の発言』として、県会にお伝えください」


 一県を預かることになったら、それを「基本方針」とする。

 そうならなかったとしても、新知事を頑なに拒む「反対派」に対する「反撃」として、それは伝えておきたい。


「承りました、閣下」

 そう言って、副知事は深く一礼した。

本作に登場する異世界や政治家は、現実の世界や政治家とは一切関係ありません。


と言ってもいられない訳で。

言論の自由があって、議会がある程度以上力を持てば、どうしても避けられない話が出てくる訳です。

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