11. 由真のクラス
TS主人公、実は―
「性別女、レベル0。ギフト『ゼロ』、Xクラス。認証しました。選択可能クラスを検索……表示しました。推奨クラスはありません」
女神像は、これまでと同様に応じた。
「……推奨クラス、なし……」
「選択可能クラス、って、たくさん出てくるんですね……」
呆然とする女神官をよそに、由真は石板に表示された「選択可能クラス」の文字列を見る。日本語で見えるのは、「標準ノーディア語翻訳認識・表現総合」というスキルのおかげだろう。表示された項目の数は百を超えている。
「これ……いえ、普通、こんなことはありません。アイザワ様の場合でも、聖女の系統、魔法導師の系統、騎士の系統、それぞれの下位クラスと、レベル1程度の雑多なものが示されただけで、数は20程度でした」
これもまたレアケースであるらしい。見ていくと、戦闘職だけでも「騎士」「遊撃戦士」など、魔法職は「魔法導師(風系統魔法)」のような系統別分類が居並ぶ。さらには「都市事務官」「都市技師」「農村事務官」「森林監視官」といった行政職、「錬金術師」「鍛冶師」「魔道具製作師」といった生産職もある。
「これ、たとえば……『都市技師(水道)』と『都市技師(衛生)』って、選択できますか?」
「はい、全て選択可能です」
由真の問いに、女神像――女神が答えた。
「全て? ……それでは、『都市事務官』と『農村事務官』と『森林監視官』なら……」
「はい、全て選択可能です」
「それじゃ、上位職で……『都市管理官』と『農村管理官』と『森林管理官』は……」
「はい、全て選択可能です」
「その三つに、『遊撃戦士』、『魔法導師』、『薬師』、『魔道具製作師』を加えると……」
「はい、全て選択可能です」
最初の問いは、「二つのいずれかを選択できるか」という趣旨だった。しかし、その答えを受けて、「三つ同時に」と尋ねても、答えは変わらなかった。「四つ」を加えて「七つ」にしても、である。
「……あの、これは、つまり、彼女は、多種多様なクラスを多数同時に選択することができる、ということでしょうか?」
「はい。そのとおりです。ただし、レベルは全て『0』として示されます。また、閲覧権限を有しない者が看破した場合、特定の一クラスのみが開示されます」
その答えに、由真と女神官は互いの目を見合わせていた。
ここでも「ゼロ」である。しかし、「クラスを選び放題」というのは、わずかながらもメリットと思われた。
加えて示された「閲覧権限」という概念。そのようなものがある、というだけでも、すでに由真の「ギフト」や「クラス」の特殊性が示されているといえるだろう。
「あの、『特定の一クラス』として開示されるクラスとは……」
「選択された全てのクラスのうち開示して問題がないと判断される低水準のものを『代表クラス』として指定し、閲覧権限を有しない者に対してはこれのみを開示することを容認することを推奨します。推奨代表クラスは、『雑兵』です」
女神官の問いに女神が答える。由真は、戦闘系クラス群の片隅に「雑兵」というそれを見つけた。
「この『雑兵』というのは……」
「『住人』が徴用された場合の役です。最低限度の身体能力のみをもって徒手空拳で戦うことができる……アルヴィノ殿下から見れば、家畜以下程度の価値しかないでしょう」
「すると、『代表クラス』というのは、今の説明だと明らかにカモフラージュのためのものですから……これが一番おあつらえ向き……」
「だと、思われます」
由真の言葉に、女神官も頷いた。
「それと、『代表クラス』以外のクラスは、後で追加したり削除したりはできるのでしょうか?」
この場で慎重に選択しなければならないか、ここではかりそめに指定しても差し支えないか。その差は大きい。
「担当神官の立ち会いの下においては、事後の加除を可能とします。担当神官はユイナ・セレニアを指名することができます。ユイナ・セレニアを担当神官に指名しますか?」
この場で秘密を共有し、支援の言葉もくれたこの女神官。彼女を「担当神官」としてクラス管理をゆだねる。その提案に対して、由真に否やはなかった。
「お願いします」
「了解しました。神官ユイナ・セレニアを担当神官として登録しました」
女神の言葉に、由真はほっと息をついた。
「後は、今決めておく『クラス』ですけど……」
「現時点における選択を推奨する『クラス』は、『魔法導師(無系統魔法)』『遊撃戦士』『民政顧問官』『都市管理官』『都市技監』『農村管理官』『魔道具製作師』『医薬師』、以上です」
一転して「クラス」を列挙する女神。その言葉にも否やはなかった。
ということで、「ギフト『ゼロ』」は実は…というお話でした。