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118. アトリアの技術水準

もうすぐお昼ご飯です。

「失礼しました。話を戻しますね」

 しばらくして、ユイナは、常の様子に戻ってそう口を切った。


「ハルミさん、カズハさん、センドウさんは『冒険者』として、シチノヘさんはA級の『生産理事官』、ハナイさん、イケタニさん、マキムラさん、サトウさん、シマクラさんはB級の『生産管理者』として、ギルドに登録を受けていただきます。それで、アトリア周辺での事業はだいぶやりやすくなりますから」


 ――E級やF級の「冒険者」としてではなく、A級やB級の「管理者」として登録される。そう聞いて、皆が一様に安心した様子を見せた。


「皆さんの事業分野も決まってますから、エルヴィノ殿下とご相談の上で、事業を始めていただくことになりますね」

「って、エルヴィノ殿下?!」

 素っ頓狂な声を上げたのは、美亜だった。


「な、なんで、そんな、あたしたちのために、殿下が……」

「あの、実は、この後のお昼、エルヴィノ殿下からお招きを賜ってまして。そこで、皆さんのクラスについてご報告して、お指図があれば承る、ということになります」


 ――昼食の誘い。王国の第二王子にして、このアスマの領主でもある人物の招宴である。


「あの、殿下は、先だっての、セプタカのご飯、あれの答礼のつもりである、と、そのように仰せでした」


 あの簡素な一般向けの食事に対する「答礼」。しかし、相手は「遠慮」することすらはばかられるほどの高貴な人物だった。



 一行は、エルヴィノ王子の「お招き」を受けることになった。

 王子が住まうのは、アトリア西駅からほど近い「アトリア宮殿」。

 そこまでの交通手段は、「バソ」という乗り物で、ギルド支部の裏口にある車止めから乗り込む。


 由真たちの前に現れたそれは、前部にボンネットが付いた箱型の構体を備えている。

 日本では昭和中期まで走っていたスタイルのバスだった。


「セプタカの奴とは違うんですね」

 由真がセプタカで見かけたのは、トレーラーを引くトラクターがバス状の筐体を引く車両だった。


「あちらは、引っ張られる方の『トラクト』を旅客用と貨物用に用意して、引っ張る方の『トラカド』は両方に使いますね。アスマでは、旅客も貨物もトラクト一体型が一般的ですけど」

「ちなみに、『曙の団(うち)』もトラカドは2台持ってるけど、トラクトは遠征のときにその都度借りてるわよ。持ってく荷物なんかもその都度変わるしね」

 ユイナの横からウィンタが言う。ちなみに、彼女もエルヴィノ王子の宴席に招かれている。


 自動の折り戸から車内に入る。

 左右に2列ずつの座席が並んでいて、右側の最前列はユイナ、その後ろに晴美と和葉が続き、由真は衛とともにユイナの対面となる左側の最前列に座った。


 全員が着席したところで、折り戸が閉じてバソが動き出す。

 ボンネットから響く音はディーゼルエンジンのそれだった。

 下からの突き上げは特になく、なめらかに進む。


(って、あれ?)


 馬車が多少発展した程度では、この乗り心地はあり得ない。

 窓から見下ろすと、道路はアスファルトのようなもので舗装されていた。


(……舗装?)


 セプタカの道は、石畳すら敷かれていなかった。

 王都セントラでは、地下鉄で移動したため道路は通っていない。


「ユイナさん、アトリアの道路って、舗装されてるんですか?」

 向かいに座ったユイナに問いかけてみる。

「ええ。直轄区内の車道は、『ニホン』から伝わったアスファルトというもので舗装されています」


 ――名称すらも「アスファルト」だった。


「それ、どうやって取ってるんでしょう?」

「私も詳しくは知らないんですけど、ディゼロを動かすための魔法油を抽出したときに残る黒い泥を使うそうです。この泥を砂利に混ぜて熱を加えると、冷えてから固まるとか、そういう作り方です、確か」


 当然というべきか、製法もアスファルトと同様だった。


「なるほど。ちなみにこれ、車輪なんかも、普通の馬車とは違います?」

「車輪は、空気を詰めた『ゴムノ』というのが貼ってありますね。ゴムノは、メカニアとかソアリカに生えている木の樹液を固めたものだったんですけど、取る手間が大変というので、最近は魔法油を抽出する途中で出てくるものを加工して作っているらしいです」


 合成ゴムの詳しい製造法となると、由真自身もそもそも知らない。

 それをこの異世界の女神官に説明させようというのは、さすがに酷な話だろう。


「ユイナさん、詳しいですね」

「魔法油関係は、油断するとすぐに爆発しますから、神殿で闇系統魔法をかけて抑制しているんです。その関係で、いろいろ教わったんですよ」


 この異世界の物理法則は、「銃火器を実現させない」ために「大爆発が発生しやすい」ように「神々が定めている」。

 それを聞いたのは、セプタカに出発する直前。今となってはずいぶんと昔のことに思える。


 その「爆発」を「闇系統魔法で抑制する」。防災のための祈祷の一種と考えれば、神殿の仕事としてもおかしくないというところだろうか。



 バソが左折すると、片側2車線の道路の両側に白亜の瀟洒な建物が居並ぶ通りに出た。


「ここは、もう『アトリア宮殿』の中です。両側にあるのが、州庁の各省庁舎ですね」


 ――城壁らしいものを見た印象が全くない。しかし、ユイナがそう言っている以上、ここはすでに「宮殿」の中なのだろう。


「正面にあるのが、州庁の尚書府庁舎です。長官の任は、アスマ公爵たる殿下が兼ねておられます。今日のお昼の会場は、こちらです」


 その建物も、やはり白い。その大きさは――「ホワイトハウス」程度と思われた。


「この建物……コンクリート?」

 由真の隣で、建物を見ていた衛がつぶやく。


「ユイナさん、この建物、もしかしてセメントの類ですか?」

 衛はユイナにあえて問いかけたりはしないだろう――と思い、由真は声を上げる。


「建物の材質ですか? これは、砂利にテラントという凝固剤を混ぜて、乾かして固めたものです。テラントは、石灰と粘土に火山灰と鉄を少し混ぜて焼き付けて作ります。これを使うと重みに耐えられるので、アトリアの建物はたいていこれですね」

 ユイナはそんな答えを返した。


「だってさ」

「そうか。由真、ありがとう」


 ――率直なその言葉に、由真は一瞬反応できなくなってしまった。

道路はアスファルト舗装、バス・トラックはゴムタイヤ、建物はセメントによりコンクリート。

高速鉄道のある社会なら、このくらいは当然の技術です。

それが普及していないカンシアには、それなりのゆがみがあるということでもあります。


前回は後半がシリアスでしたので、ここでキャラ語りを。


ユイナさんは、初期登場の現地勢で唯一のまともかつ優秀なキャラですが…

・地母神の神殿の孤児だった女神官

・得意な魔法は「防壁」(妙な「悪用」をしたのは由真ちゃんです)

・冒険者ギルドに積極的に関与

ということで、実は『ゴブリンスレイヤー』の女神官ちゃんのオマージュ(?)キャラです。

時折「女神官」を代名詞として使っているのは、あえてそうしています。


あの女神官ちゃんは、最初の「冒険者登録→洞窟入り→…」の時点ですでにレベル3神官だったとか、最下級ながら1ヶ月ほどで奇跡4種が1日3回使えるとかいう「実はエリート」―という辺りを取り込んでいます。


もっとも、この異世界の「案内役」になった結果、同じ『ゴブリンスレイヤー』で言うと受付嬢さんの要素が混じっていますが。


彼女は、エリート度合いも突出して、貴族待遇の王国ナンバー2神官にまで成り上がっています。

エルヴィノ王子以下のアスマ勢にとっての最重要人物の一人として、今後も活躍する予定です。

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