114. 第4回ステータス判定 -牧村恵と佐藤明美-
旧C3班のステータス判定、次の二人です。
「それでは、次はマキムラさんですね」
ユイナに呼ばれて、牧村恵が進み出る。
「私は、農業とかでいいんですけど……」
おっとりと言いつつ、牧村恵は水晶玉に手を乗せる。
NAME : メグミ・マキムラ
AGE : 16 (18 AA / 103 UG)
SEX : 女
LV : 7
STR : 10
DEX : 10
AGI : 10
VIT : 10
INT : 200
MND : 180
CLASS : 輜重兵 LV 1
GIFT : 牧人 (A) / 微けき喚び手 (A)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 5
地系統魔法 LV 1
微小生体召喚・制御術 LV 9
動物飼育法 LV 8
牧草耕作法 LV 6
計数管理術 LV 5
地理学 LV 3
生物学 LV 6
「あれ?」
「マキムラさん、デュアルギフトが両方ともAになってますね」
牧村恵は首をかしげ、ユイナは目を見開いている。
「どっちもCだったのに……」
「これ、『牧人』はわかりますけど、『微けき喚び手』というのはいったい……それに、この『微小生体召喚・制御術』というのは……」
「これは、羽虫くらいしか呼べない『ゴミスキル』だ、って言われたんですけど……」
牧村恵は、おっとりとした趣のままユイナに応える。
「『ゴミスキル』って、ずいぶんひどい言い方だね」
由真は――内心にわき上がる憤りのままに――そんな言葉を向けてしまう。
「それに、羽虫とかなら、『虫』って書かれないかしら? 『微小生体』って言われたら、普通連想するのは『微生物』じゃない?」
晴美がそう指摘する。それももっともだった。
「女神様……」
「メグミ・マキムラを認証しました」
――大地母神は、ユイナの認証は省略して牧村恵を認証した。
「ギフト『微けき喚び手』は、『微かなるもの』を召喚し使役するものです。また、『微小生体召喚・制御術』も、『微小なる生体』を召喚し、これを使役、制御することを内容とするスキルです」
「微小なる生体、とは……」
「単細胞又はこれに準ずる菌類と原始菌類、加えて細菌類です。酵母菌、乳酸菌、結核菌など、細胞を有する生命体として当人が認識しうるものは全て、これを自在に召喚し、使役することができます」
――一瞬、沈黙が聖堂を覆った。
「……今、変なの混じってなかった?」
「てか、こっちにも結核ってあるんだ」
美亜と愛香が、小声でそんなやりとりをする。
「ギフト『牧人』とこの『微けき喚び手』は、本人の使い方次第では結びつき、Sクラスデュアルギフトとなり得ます。すなわち、牧場にてはぐくまれた乳、これに宿る菌を御し、人々の糧食となすのであれば、地系統魔法を伴う牧草耕作法と相まって、人の世を大いに利するところとなるでしょう。
あるいは、『微けき喚び手』としてペスト菌などの病原菌を召喚し、牧場の畜生や野生の獣に毒を持たせ、人々に疫病をもたらす。そのような生き方もあり得ます。
択ぶのは、本人の意思です」
大地母神は、あくまで淡々と告げる。「乳製品を供給する牧場の人」か「黒死病すらもたらしうる恐怖の人間生物兵器」か。
「その、病気とか、毒とか、そういうのは……それは、絶対に、やりたくないです」
――牧村恵は、後者を強く否定した。
「それでは、クラス『乳製品管理者』を推奨します」
その言葉に、牧村恵は、はい、と即答した。
「了解しました。……クラス『輜重兵』レベル1を破棄し、『乳製品管理者』レベル24を登録しました」
牧村恵も、新たなクラスが登録された。
「えっと、次ってあたし?」
佐藤明美は、呼ばれる前に反応した。
「ってか、みんな、化学兵器とか生物兵器とか、すごくない? あたし、ただ食べるだけなのに」
そんなことを言う彼女は、「女体」の由真と同程度の体格だった。
「えっと、Cでも怒んないでください」
そう行って、佐藤明美は水晶玉に手を乗せた。
NAME : アケミ・サトウ
AGE : 16 (6 AH / 104 UG)
SEX : 女
LV : 7
STR : 25
DEX : 25
AGI : 25
VIT : 25
INT : 180
MND : 140
CLASS : 輜重兵 LV 1
GIFT : 食事人 (A)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 5
水系統魔法 LV 2
食材加工術 LV 9
製糖法 LV 8
製塩法 LV 7
種苗鑑定術 LV 7
計数管理術 LV 5
地理学 LV 2
生物学 LV 8
「サトウさん、これも十分すごいですからね?」
表示されたステータスを見て、ユイナが口を切る。
「これ、食材加工に製糖、製塩、種苗鑑定、あと生物学もレベル8って、食品会社を経営しろ、って言ってるようなものじゃない?」
「このスキルが並んでて、クラスが『輜重兵』レベル1、って……王国軍も軍神も、頭悪すぎるよね」
晴美の言葉を受けて、由真は毒を吐いてしまう。
「これは、ベルシア神殿も、危ないかもしれませんね……」
ユイナの口から漏れた小さな声が、由真の耳に入る。
「それで、女神様……」
次の瞬間、ユイナは何事もなかったかのように女神像に向かう。
「アケミ・サトウを認証しました。推奨クラスは『食料提供管理者』です」
――女神の反応は速かった。
「それでお願いします」
そして、佐藤明美の反応も速い。
「了解しました。……クラス『輜重兵』レベル1を破棄し、『食料提供管理者』レベル23を登録しました」
佐藤明美もまた、「レベル23」の新しいクラスが認められた。
この二人は、「衣食住」の「食」担当です。
牧村さんは、使いようによっては物騒なスキルも持っています。
(ツッコミ前の言い訳ですが)「かそけし」の本来の字は「幽けし」なのですが、「微生物」を対象とするものとして「微」の字を充てました。「かすか」は「幽か」「微か」の二つの文字がありますし…
説明の機会がなさそうなので補足しておくと、彼女のスキルにある「細胞を有する生命体として」とは、「細胞を有しないもの」=「ウイルス」は対象外という意味です。
(たとえば、「SARSコロナウイルス2」は「ウイルス」なので、彼女の能力の範囲外となります)
これに比べると、佐藤さんは地味で目立たないように見えますが、食品関係を広く包含するスキル体系としています。
「食品会社を経営しろ」と(作者は)言っています。
(レーションを作ることもできるので、軍事的価値も当然あります)
この二人の名前は、有名企業から取るのが難しく、初登場シーン直前まで悩みました。
お菓子の会社と乳業の会社で名前が…と言えばある程度想像いただけるでしょうか。
名字は、「牧村」は牧場のイメージから、「佐藤」は「製菓」→「砂糖」から取っています。




