113. 第4回ステータス判定 -花井香織と池谷瑞希-
次は、C3班にいた女子たちです。
ユイナに呼ばれた花井香織は――表情を曇らせて目を伏せる。
「私は、別にいいですよ」
その声も沈んでいる。
「あっちで、『掃除当番』だの『清掃員』だの、さんざんバカにされましたし」
心ない男子たちや神殿側が、「Cクラス」の彼女を誹謗中傷し続けたのだろう。
「あの、こちらでの、職業を決める、参考にしないといけませんので……一応、受けるだけ、お願いできませんか?」
ユイナが丁重に言うと、花井香織は「わかりました」といって水晶玉に手を乗せた。
NAME : カオリ・ハナイ
AGE : 16 (18 AP / 103 UG)
SEX : 女
LV : 7
STR : 10
DEX : 10
AGI : 10
VIT : 10
INT : 220
MND : 160
CLASS : 輜重兵 LV 1
GIFT : 清め人 (A)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 5
水系統魔法 LV 2
錬水術 LV 8
衛生学基礎 LV 6
洗浄法 LV 6
計数管理術 LV 5
地理学 LV 4
生物学 LV 3
「『清め人』って、要するに『清掃のおばさん』でしょ?」
花井香織は、吐き捨てるように言う。
「あの、Aクラスのギフト……ですけど?」
ユイナが指摘する。ギフトの項には確かに「(A)」と記されている。
「あれ? ここ、Cだったのに……」
「あの、それは、ナルソ様の神殿では、よくある間違いなんです。生産職のギフトは、ナルソ様の神殿では過小評価されるんです」
花井香織が首をかしげると、ユイナはそう応えた。
「この、『錬水術』というスキル、見たことがありませんね」
そう言って、ユイナは祭壇の女神像に向かう。
「女神様、神祇官ユイナ・セレニアがお尋ねいたします。カオリ・ハナイ殿のスキル『錬水術』とは、どういったものなのでしょうか?」
ユイナは、女神――大地母神セレナに直接尋ねた。
「セレニア神祇官ユイナを認証しました。カオリ・ハナイを認証しました。スキル『錬水術』は、水及びこれに類するものを、『錬金術』のごとく性質変化させるスキルです。レベル7を超えると、意のままの性質の流体を生み出し変化させることが可能となります」
――女神の答えに、ユイナも、花井香織も、他の面々も一瞬硬直する。
「それは、つまり、液体の化学反応を自在に起こすことができる、そういう術、ということですか?」
仕方なしに、由真は自分で質問することにした。
「はい。それと、液体に溶解されるたぐいの固体や気体も操ることが可能です」
その答えで、由真はおよその内容が把握できた。
「花井さん、その術は、液体の化学反応が自在に操れる……いわば、『錬金術』の液体バージョン、ってとこだよ。あと、液体に溶かす粉とか湯気とかも制御できる。そのスキルに、『衛生学基礎』と『洗浄法』を組み合わせれば……石けん、洗剤、歯磨き粉、化粧品、そういうのが自在に作れると思う」
花井香織が列車の中で漏らしていた「トイレタリー」を巡る不満。それを前提に、由真はあえてそう言ってみせる。
「え? そう……なの? これ、ただの『お掃除おばさん』じゃなくて……」
「まあ、お風呂とかトイレとかに使う洗剤も作れると思うから、そういう役にも立つんじゃないかな?」
そう言われて、花井香織は口をつぐむ。その目に鋭い光が宿ったように見えた。
「そうしますと、ハナイさんの『クラス』は……」
「推奨クラスは『衛生提供管理者』です」
ユイナの問いに女神が答える。
「それで……それでお願いします」
花井香織は、女神像を見上げて即座に言い切る。
「了解しました。……クラス『輜重兵』レベル1を破棄し、『衛生提供管理者』レベル23を登録しました」
レベルも「23」まで一気に上昇した。
「次はイケタニさんですね」
ユイナは池谷瑞希を指名する。
「え? なんか、香織ちゃんみたくはならないですよね?」
花井香織の華麗な「成り上がり」を前にして、池谷瑞希は苦笑を浮かべて頭をかく。
「あ、いえ、ともかく、お願いします」
そう言われて、池谷瑞希は水晶玉に手を乗せる。
NAME : ミズキ・イケタニ
AGE : 16 (22 UA / 103 UG)
SEX : 女
LV : 7
STR : 20
DEX : 20
AGI : 20
VIT : 20
INT : 180
MND : 160
CLASS : 輜重兵 LV 1
GIFT : 家の匠 (A)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 5
地系統魔法 LV 2
小物組立術 LV 9
素材成形術 LV 8
計数管理術 LV 4
地理学 LV 3
生物学 LV 2
「あれ? あたしも、ギフト『A』になってる?」
池谷瑞希は、そう言って首をかしげる。
「あの、イケタニさん、武器とか什器とか、いろいろ修繕していただいたじゃないですか。その関係のギフトとスキルですよ、これ」
「そうそう。おかげで経費がだいぶ浮いた」
ユイナと愛香が言う。
「この地系統魔法って、錬金術代わりに使えたりするんですかね? だとすると、軽くて頑丈な新素材を作るところから一貫してやれて、家具でも武器でも、ちょっとした技術革新も起こせますよね?」
レベル2とされている地系統魔法。それを組み合わせる可能性を思いついて、由真はそれを指摘してみる。
「いやいや、由真ちゃん、そんなおだてないでよ」
池谷瑞希は、照れ笑いとともにそう応える。
「そうしますと……女神様、イケタニさんのクラスは……」
「ミズキ・イケタニを認証しました。推奨クラスは『家具製造管理者』『武器製造管理者』です。製造対象を特定しない場合、『小物組立製造職人』が推奨されますが、成長が鈍化するため、優先度は低下します」
分野を特定した方が成長が速い。当然のことだろう。
「なら、『家具』の方でお願いします!」
即答だった。
「了解しました。……クラス『輜重兵』レベル1を破棄し、『家具製造管理者』レベル25を登録しました」
対する女神も即答し、そして彼女も「レベル25」にまで上昇した。
ダンジョン攻略編の中で名前だけ出した彼女たちですが、実は生産職のギフト持ちという裏設定持ちでした。
この二人は、「衣食住」の「住」担当です。
花井さんは、汽車旅の中でトイレタリー関係の愚痴をこぼす機会がありました。育ちのよいきれい好きというキャラです。
池谷さんは、対象が「家具」なので、ここまで出番がありませんでした。ただ、武器も修繕していた彼女がいなくなった「勇者様の団」の現状は…という要素はあります。
二人とも、名前は関連業界の有名企業から取りました。
トイレタリーの花井香織、家具の池谷瑞希――おわかりかと思います。