112. 第4回ステータス判定 -相沢晴美と桂木和葉-
アトリアに入ってから、ということになっていたステータス判定です。
今回も、縦に長いのでご注意ください。
朝食を済ませて一息ついてから、扉に「清掃してください」の札を差し込んで、8時40分に部屋を出る。
ロビーに入ると、ユイナがすでに来ていた。彼女は、えんじ色のワンピースに身を包んでいる。
「おはようございます、ユイナさん。その服は、神祇官のですか?」
由真が声をかけると、ユイナは顔を上げる。
「あ、おはようございます、ユマさん。まあ、普段なら、これじゃなくてもいいんですけど、今日は、皆さんのステータス判定とかの儀式もあるので、正式な法衣なんです」
ユイナは答えつつ苦笑する。
「紫じゃないんですね」
「紫は、国王陛下と長官台下だけに許されている色ですから。神祇理事でこのえんじ色、神祇官は緋色ですね」
法衣の制度は、日本の僧侶と同様らしい。
他の面々も続々と集まり、9時には全員がそろった。
ユイナに先導された一行は、廊下を進んで聖堂に入る。
「それでは、皆さんのステータスを判定します」
一行を前に、ユイナは切り出した。
「ベルシア神殿とは違って、こちらでは生産職のステータスもきちんと判定されますし、クラスについても、より適切なものに変更できます。その上で、皆さんの今後の方針を考えていくことになります」
続いた言葉に、「C3班」に属していた女子6人は互いの顔を見合わせる。「戦闘職」としては不遇の扱いを受けた彼女たちは、「生産職」としての「ステータス」に期待と不安が交錯しているのだろう。
「それでは、アルファベタ順で、まずはハルミさんからお願いします」
早速始められるステータス判定。
アルファベタ――地球のアルファベットに相当するもので、配列順も同じだった――でも、最初は「Aizawa」だった。
NAME : ハルミ・ディグラファ・フィン・アイザワ
AGE : 16 (1 MA / 103 UG)
SEX : 女
LV : 86
STR : 150
DEX : 460
AGI : 280
VIT : 140
INT : 2550
MND : 1580
CLASS : 聖女騎士 LV 62
GIFT : 光の神子 (S) / 氷の姫神 (S)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 8
光系統魔法 LV 10
氷系統魔法 LV 10
闇系統魔法 LV 10
水系統魔法 LV 7
風系統魔法 LV 8
槍術 LV 10
剣術 LV 9
地理学 LV 6
歴史学 LV 4
生物学 LV 4
「レベル86?!」
叫んだのはウィンタだった。
「ハルミさん、とうとうマリシア元帥も抜いてしまいましたね」
「マリシア元帥?」
ユイナが口にした初耳の固有名詞に、晴美は首をかしげる。
「ああ、先代の勇者様です。先代の魔王を倒して、それからアスマを征服して、メカニア・ソアリカ戦争にも勝利して、マリシア公爵に叙された方で、基礎レベル81、クラス『勇者』レベル57です」
「って、その勇者様、魔王を倒しただけじゃないんですか?」
由真はそう尋ねてしまう。「魔王を倒して」の後に続く「活躍」は、単なる「侵略戦争における勝利」にしか聞こえない。
「ええまあ、あの、召喚されて、すぐに王国軍に元帥として入られてますから……マリシア元帥と一緒に召喚された賢者様、ボルディア元帥とお二人で、華麗な武勲を上げられた、という次第です」
王国軍に三顧の礼で招かれた二人は、軍部の期待に確かに応えたのだろう。
「ボルディア元帥は、基礎レベル75、クラス『賢者』レベル52です。ちなみに、先代のS級冒険者だったフルニア方伯は、基礎レベル77、クラス『勇者』レベル55でした。大陸暦時代でレベル70を超えたのは、大陸全体でもこのお三方だけでした」
そして晴美は4人目に連なり、最高記録を抜いたということになる。
「ハルミさんも、セプタカのダンジョン攻略で実績がありますから、今の段階でもA級冒険者は確実ですし、もう1件大きい案件を成功させたら、ユマさんに続いてS級ですよ」
「由真ちゃんに並ぶって、それはちょっと……」
ユイナの言葉に、晴美は戸惑いをあらわにする。
「けど、先代のS級よりレベルが9も上で、聖女騎士のレベルも61なんだから、晴美さんももうS級でいいんじゃないかな」
そんな晴美に、由真はあえて言う。
「一応、原則は複数回の成功実績が必要なので……」
ユイナは、そう言って苦笑する。由真の叙任は「よほどの例外」だったということなのだろう。
「ところでユイナさん、前から気になってたんだけど、この『MA』とか『UG』とかって、どういう意味なの?」
ふと、晴美がそう尋ねる。
「ああ、これですか? これは、誕生日ですね。『UG』は『大陸暦』の頭文字、『MA』は『盛秋の月』の頭文字です。『初』は『A』、『盛』は『真ん中』で『M』、『晩』は『終わり』で『U』、『春』が『H』、『夏』が『N』、『秋』が『A』、『冬』が『P』です」
この世界の暦では、月名は季節に「初」「盛」「晩」が付される。それを頭文字で略したのがこの記号だった。
「ちなみに、晴美さんのをきちんと読むと、『アルモダ・ミア・アクトゥマ、タロド・サンティド・ウンノ・ガリコ』だね」
由真は、ベルシア神殿で「標準ノーディア語」そのものを学んでいた。簡単な語彙や、生年月日に関わる数詞なら、原語をそのまま口にすることができる。
「それ、何かの呪文みたいね」
晴美は苦笑する。由真が口にした言葉は、彼女たちの翻訳スキルを通らずに原語のまま伝わった。
「まあ、わからない言葉、って、呪文みたいな効果があるからね。光明真言だって、サンスクリットだと意味がある言葉な訳だし」
そう言うと、晴美も、そうね、と応えた。
「次は……カズハさん、どうぞ」
ユイナは和葉を名前で呼んだ。
NAME : カズハ・バルナ・フィン・カツラギ
AGE : 16 (10 MA / 103 UG)
SEX : 女
LV : 47
STR : 240
DEX : 750
AGI : 850
VIT : 250
INT : 280
MND : 450
CLASS : 遊撃戦士 LV 40
GIFT : 疾風の呼吸 (A)
SKILL
標準ノーディア語翻訳認識・表現総合 LV 6
剣技 LV 8
体術 LV 8
体術指導法 LV 6
地理学 LV 5
生物学 LV 2
「え?! うそ?!」
声を上げたのは――他ならぬ和葉本人だった。
「いや、ハルミちゃんが特別過ぎるだけで、これでも十分すごすぎるから」
ウィンタが苦笑交じりで言う。
「って、これ、なんでこんな上がって?! 前は、レベル35で、クラスのレベルだって27だったのに……」
前回の結果との差に、本人が驚きを通り越して動揺しているのだろう。
「あの、それは、前回は、不調だったものかと……あの、それに、セプタカで、ハルミさんとゲントさんに剣術を教わって、あの、実戦も経験されましたから、あの、それがステータスに反映されたんですよ」
ユイナの言葉に間投詞「あの」が頻出する。内心慌てているのが、由真には容易に推察できた。
(例のあれは、内緒にしとくよな、やっぱり)
セプタカのダンジョンに出陣する直前まで、ベルシア神殿の幹部たちは、自分たちに忠実な平田正志・度会聖奈・毛利剛の3人を強化するため、和葉を初めとする「他の全員」の「力」を奪い取ってこの3人に集中させるという「術式」を施していた。
今ここにいる面々のうち、晴美と衛、それに美亜と愛香は由真が「解呪」を行ったため被害を受けていない。しかし、当時は由真と親しくなかった和葉は、その「術式」の影響下にあった。
「あの、そういえば、スキルの『体術指導法』は、今まで出てきました?」
「え? あれ? そういえば、こんなの今までなかったです。なんだろ、これ……」
ユイナに指摘されて、和葉は首をかしげる。
「普通に考えたら、それ、インストラクターのスキルじゃないかな?」
由真は、そう指摘してみる。
「インストラクター? でも、あたしバドしかできないし……」
「ばど? それ、もしかして『バドミント』のことですか?」
「「「バドミント?」」」
ユイナの問いに、由真と和葉、それに晴美の声が重なった。
「あの、『ニホン』から伝わってきた羽根突き競技で……あ、そこ、見てください。あれが『バドミント』です」
そういって、ユイナは窓の外を指さす。
見下ろしたそこで行われていたのは、柄の細いラケットを手にネットを挟んで向かい合った二人が、ラケットで打った羽根を互いの陣に入れる――バドミントンそのものだった。
「バドやってる?! うそ?! マジで?!」
「『ニホン』から召喚された方々が、あちらの球技などをいろいろ伝えてくれたんですけど、バドミントは、室内でも屋外でも手軽にできるので、アスマでは人気が高いですね」
ユイナの言葉に――和葉は目を輝かせて振り向いた。
「こっちにも、バドあったんですね! バド、できるんですね!」
――バドミントンのスキルを「剣術」に転用させられていた和葉にとって、それは福音とすら言えるだろう。
「よかった……よかったっ……」
声を震わせ、にじんだまなざしで、眼下の「バドミント」に興じる人々を見る和葉。
その姿に、由真の心も温かくなった。
感想で、かっこの中の「1 MA / 103 UG」の類が意味不明、とのご指摘をいただいたので、ここで解説を入れました。
ついでに、後書きらしくキャラ語りを。
晴美さんは、このお話の核心となる「由真ちゃんを追放ルートから守る人」です。
そのためにハイスペックに設定しました。
普段はクールビューティーな長身の黒髪美人。そんな設定から、クールな「氷系統魔法」と大和撫子風「長刀」というスキルを持っています。
五十音順の出席番号で最初にくるような名字を考えたのですが、『スライム倒して300年』の人に引っ張られてこの名字になりました。
名前が「アズサ」になりそうなのをどうにか食い止めた結果、語末「ア行」ではなくなってしまいました。
和葉さんは―元々は「勇者様の団に追放されてからアスマに移ってこちらに合流する」構想でした。
しかし、由真ちゃんに負けた辺りからどうにもこの子が気の毒になってきて、セプタカダンジョン編が長引いてきた中で、攻略の途中から合流する流れに変更しました。
S級とA級のうち「魔法が使えない女子」の枠として、AGI(敏捷性)の高い戦士→スポーツ少女という方向で作られています。
ギフトの「~の呼吸」は、「全集中の呼吸」が大流行していた頃に流れでつけたものです。
なお、「アスマにはバドがある」という「救済」は、元からの予定でした。