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111. アトリア到着

到着しました。

 午後8時10分。


 列車は定刻に終着駅に到着した。

 ホームには「アトリア西」の駅名表示があり、対面にはライトグリーンとライトブルーに塗装された列車が停車している。


「皆さん、お疲れ様でした。切符と通行手形は大丈夫ですね? これから、この駅の西口にあるジーニア区ギルド支部の宿舎に入ります」

 ユイナは、全員が下車したのを確認して説明する。


「そういえばユイナさん、入境審査は、ここで受けるの?」

 通行手形、と聞いてか、晴美がユイナに尋ねる。


「ああ、そういうのは、アトリアにはありません」

 ユイナは、満面の笑みとともに答える。


「え? ないの?」

「ええ。人口2500万のアトリアで、いちいちそんなことしてたら……時間も人手もいくらあっても足りませんよ」


 ――ユイナにとっては、出入りの厳しいセントラの環境は、煩わしく、かつ滑稽だったのだろう。


「宿舎の手続きでは通行手形の確認がいりますので、それは注意してください。あと、切符は自動改札機に入れると回収されますので、それもお忘れなく」


 そう言って、ユイナは一行を連れて歩き出す。

 階段を降りて、人が行き交う通路を進み、正面の自動改札機に切符を通すと、大きなホールに出た。


 その賑わいは、ベルシアの神殿はもとより、王都セントラにもなかった。

 見上げると、「冒険者ギルド支部 200m」と記された看板が目についた。その示す先を見ると――


「あ、あれがギルドの支部ですか?」

 先に気づいたらしい和葉が声を上げる。

「はい、それです」

 ユイナが頷く。


 ホールの一角に掲げられた「アトリア冒険者ギルド ジーニア区支部」という看板、そしてガラスの回転扉。


「ギルド支部って、入ったら屈強な冒険者が『なんだ坊や、ここはガキの来るとこじゃねぇ』とか言って絡んできたり……」

 愛香が妙なことを言い出す。

「大丈夫だよ愛香ちゃん。ほら、うちには『さすゆま』ちゃんがいるから。投げ飛ばして魔法で黒焦げにして、『あれ、僕またなんかやっちゃいました?』ってオチだよ」

 和葉が応じる。特急の旅の間で、二人の「ノリ」が通じるようになったらしい。


「あの、こちらのギルドは、一般のお客さんから依頼の受け付けもしますし、冒険者さんはちゃんと監督されてますから、支部の受付で絡まれるとかそういうことはありませんよ」

 二人のやりとりに、ユイナが苦笑混じりで口を挟む。


「とにかく、早く中に入りましょう」


 そう促されて、一行はギルド支部の入り口に向かう。

 その回転扉は、地球のそれと同じ要領で、12人が4人ずつのグループで中に入ることができた。


 中は、「ロビー」だった。


 丸テーブルをソファが囲むセットが12組据えられていて、いくつかは談笑する人々で埋まっている。

 奥にはカウンターがあり、受付窓口が8箇所設けられている。うち、正面の3箇所には、若い女性が立っていた。

 ユイナに先導された一行は、そのうち1人に相対する。


「神官ユイナ・セレニアと同行者11人、今夜から予約しています」

「はい……っ、セレニア神祇官ユイナ猊下! お待ちしておりました! お連れ様は……ナスティア城伯ユマ様っ! それに、アイザワ子爵様、カツラギ男爵様、センドウ男爵様……」

 笑顔で応じた相手は、手元の名簿を確認したのか、とたんに声が裏返る。


「セプタカを陥とされた皆様ですか! ようこそジーニア支部へ! どうぞ、ごゆっくりお過ごしください!」

 ――ナスティアの衛兵たちとは異なり、純粋に「顔ぶれ」に驚いただけらしい。


「それでは、皆様、通行手形を確認させていただきます」

「ということですので、皆さん、通行手形を出してください」

 そう言われて、由真も、他の面々も通行手形を出す。

 ユイナの手を経て、いったん受付の手に渡されたそれは、簡単な確認を経て、鍵とともに返却された。その鍵は、地球の一般的なそれに、木の細長い棒が結ばれている。


「それではご案内いたします」

 今度は若い男性が来た。


 階段を上り、2階の廊下を進む。途中が渡り廊下になっていて、道路をまたいだ先に石造りの建物があった。

 そちらに進むと、左手には階段、それに続いて左右に廊下が伸びる。それは内廊下になっていて、両側に扉が並んでいる。


 案内されるままに、全員が右に折れる。右側の扉には「2C-AC01」、左側の扉には「2C-SE01」という札が付されていた。

 由真が手にした鍵を見ると、棒の箇所に「2C-AC03」と記されている。


「鍵に書いてあるのが部屋番号で、扉にも同じ番号があります」

 ユイナに言われて、他の面々も手元の鍵を確認する。


「食事は、この建物の1階にある食堂でとれますし、お部屋の中にある札を扉に差し込んでおけば、明朝扉の前まで配膳してもらえます。朝ご飯はつけていますので、配膳は無料ですし、食堂も、自分の部屋の鍵を見せると無料で使えます」

 日本のホテルと同程度のサービス水準だった。


「それでは、今日はこれで解散です。明日は、今日受付をしたあのロビーで、9時集合です」

 その言葉で、一行は解散し、各自の部屋に入った。



 その部屋は、入ってすぐにクローゼットとユニットバス、進むとベッドに机と椅子という構成――日本の典型的なビジネスホテルと全く同じだった。


 机の上に、「朝食配膳希望」と記された札と「清掃してください」と記された札が載せられている。「清掃してください」の方を裏返すと「休息中、入室しないでください」と記されている。


(これ、絶対召喚者がリクエストしてるな)


 日本人が想定する「ホテルのサービス」。その基本がそろっている。「召喚者」は少なからず冒険者となったのだろうから、そのリクエストに沿って宿泊施設のサービスが整えられたとしても不思議はない。


(朝ご飯は……ルームサービスにするか)


 由真は、扉の通路側にあった差し込み口に「朝食配膳希望」の札を入れる。これで、明日の朝までゆっくり休息できる。



 久しぶりにシャワーを浴びて、程なく床に入り、気がついたら夜が明けていた。


 扉を開けると、すぐ脇に台車が固定されていて、ふたが載っている。

 開けてみると、トレイの上に昨日の夕食と同じ焼きパンと豚肉・ネギ、それに野菜スープと茶葉があった。

 そのセットを机の上にのせて、部屋に備え置かれたやかんに水を入れて魔法道具にかける。

 顔を洗って身繕いをしているうちに、お湯は沸いた。


 お茶を淹れて、朝食を取る。


 野菜スープはしっかりと具材が入っていて、出汁もきちんときいている。

 肉とネギをサンドイッチにして食べる焼きパンも、昨日同様十分おいしい。

 そして、アルコールの入っていないお茶――「緑茶」だった――も身体に心地よかった。

お宿は定番の「ギルド支部」。ただし、サービスはホテル並です。

受付嬢さんも、実質ホテルのフロントです。

「冒険者ギルド」には「宿」の機能もある―というより、初日の一行は、純然たる宿泊客ですね。


そして、次回から、久々のステータス判定になります。

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