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10. 「ゼロ」

いよいよTS主人公もクラス奉告に入ります。

 クラスの手続きや意味について相沢晴美が手本になったため、続く3人は順調にクラス奉告を進めた。


 桂木和葉は、敏捷性に優れているということで、クラス「遊撃戦士」・レベル23となった。

 嵯峨恵令奈は、風系統と雷系統の魔法に特化しているらしく、クラス「魔法導師・風系統魔法・雷系統魔法」・レベル21となった。

 度会聖奈は、全属性の魔法が使用可能になったということで、この条件においてのみ選択できるクラス「賢者」をとり、レベルは13となった。


 以上のSクラスとAクラスの面々が終わり、後は「ギフト『ゼロ』」の「劣等生」由真(よしまさ)のみとなった。


「済みません、お手を煩わせてしまって」

 席に着きつつ、由真は女神官に謝罪してしまう。

 全員のギフト判定を行い、エルヴィノ王子から下問を受け、ここでは上位陣の手続きに当たっている彼女。おそらくは若手の気鋭であろう相手が、なぜか由真の手続きも行うという。そのことに、由真は早くも萎縮すらしていた。


「いえ、とんでもありません。その前に……『風よ語らう我らの言葉を止めよ』、【音の壁】」

 女神官が呪文らしき文言を唱えると、周囲に透明な「壁」が出現した――と由真は感じた。


「あなたに関しては、非常に気がかりでしたので、審査を私があえて志願しました」

 女神官は、そういって由真を見つめる。

「実は、あなたの『ギフト』として示されている『ゼロ』、これは……我々の歴史上、一度も現れたことがないものです」

「歴史上……一度も?」

「はい。司教猊下からお話のあったとおり、この世界で『ギフト』をもって生まれるのは全体の1割程度。それ以外の一般の者の場合、ギフト判定には何の反応も示されません。奉告前のクラスの項と同じ状態になります。

 しかし、あなたの『ギフト』には『ゼロ』という文言が明確に示されています。これは、『ゼロ』という名前の『ギフト』である……そう考えざるを得ないのです。

 ですが、そのような名前の『ギフト』が示された、という例は、大陸全体でも見られたことがなく……」

 女神官は、当惑をあらわに目を伏せる。


「加えて、レベルの『0』、これも……この世界に人として生を得た者は、たとえ新生児であっても、レベル『1』になるのです。身体系の4要素も同様で、これらに『0』という数値が現れることは、あり得ないはずなのです」

 初見では「最低のステータス」と見えたそれ。しかし、「ゼロ」という数の持つ不思議な地位は、この世界においても同様であるらしい。


「おそらく、アイザワ様が指摘したように、異世界召喚の際に男性から女性に変化した際に、何かが起きたのであろう、と、そう推測されます。本来ならば、きわめて希少なケースとして、慎重な保護と観測が求められるところ……なのですが……」

 そういって、女神官はため息をつく。


 今回の「召喚」。

 横紙を盛大に破って強行されたそれは、アルヴィノ王子の強い影響の下にある。エルヴィノ王子も、執行された後に介入するのが限界だった。

 アルヴィノ王子は、大規模に召喚された彼らを、手持ちの兵力として使うことばかり意識している。戦力として使える者は重用し、使えない者は容赦なく切り捨てる。そういう方向でことが進む可能性が高い。


「私が推測するに、クラスについても、『ゼロ』のような形が現れることになろうかと思われます。その場合、あなたは……『異世界ニホン』でいうところの『人権』すら保障されない可能性が高くなります」


 ノーディア王国では、ギフトを備えるなどして一定以上の力量を持つ「臣民」にはある程度の人権があるのに対して、その他の「住人」はそれより劣る待遇を受ける。日本人の感覚に照らすと、「住人」は「奴隷」も同然であるという。


「『住人』は、名字を持つことを許されていません。異世界から召喚されたとしても、異世界における名字を王国で名乗ることはできない、ということになります」

「つまり、僕は『ヨシマサ・ワタラセ』ではなく、ただの『ヨシマサ』になる、ということですか」

「はい……あの、ただし……」

 女神官は、そういって顔を上げる。

「『住人』として生まれ、名字を持たない者も、努力によって一定以上の『力量』を認められれば、『臣民』に格が上がり、名字を持つことが許されます。そういう場合も、あの、それなりにあります」

 女神官は、両手の拳を握りしめる。

「あの……実は、私自身が、そうなんです! 私、セレナ神殿の孤児院で育った『住人』なんです! けど、神殿で勉強して、あの、神官になって、『臣民』に昇格して、『セレニア』の名字を持てるようになったんです!」

 そういって、女神官は由真の両手を握る。

「ですから、ここで、残念な結果が出ても……あきらめないでください! あの、あなたは、必ず、認められるはずですから!」

「……はい、ありがとう……ございます……」

 その力強く真摯な言葉に、由真は素直に感謝で応じた。

長くなりすぎるので、ここでいったん切ります。続きは明日予約投稿します。

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