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才能戦  作者: 材料箱
4/7

Number-3

灰原が友人の春近守を自身の技能、「分析」を使用し、記憶を覗いた。

その記憶には守の兄、攻が桐瑠璃花というものに殺害されたことが刻まれていた。

 海崎に協力してもらってなかったらこの恐怖を制御できていなかっただろう。


 守のお兄さんの攻さんとは面識がある。

前に守の家で遊んでいたときにあって、俺の技能を披露した記憶がある。

その時に確か攻さんの記憶を分析して見せたんだった。


 しかし、知っている人がいきなりいなくなってしまうということはなかなか信じられない。


「仁、俺は今見えた記憶をそのまま話す。しかしあまり大きな声を出しちゃいけない」

「なんで?」

「守をあの状態にした奴がまだここにいるかもしれないからだ」


 そう、今はあいつに気をつけなくちゃならない。


一番まずいことは、今起きたことを話している間にあの桐とかいうやつに見つかることだ。

もしもそのことを話している間に奴が来たら問答無用で攻撃されるだろう。

そうしたら、わざわざ俺の分析を信用して守だけを全力で守った攻さんに、

申し訳が立たないじゃないか。

 俺は仁に記憶を伝えながら、奴の能力について考えてみた。


「そんな…攻さんがやられるなんて…」

「ああ、俺も信じられねえ。まさかあの攻さんが負ける相手がいるなんて」

「でもよ、なんで、なんで攻さんのタレントは通用しなかったんだ?」

「それは俺もわからん。なんなら、それが今最大の疑問なんだよ」


 そう、何故攻さんは相手の攻撃を防げなかったのか。攻さんは

相手のタレント性を下げる力があったから、空気で攻撃してきたところまではいい。

しかし攻さんが攻撃できるような距離まで行った。さらに、あれは確実に効果が相手にも

及んでいた。それでも攻撃を受けてしまった。

 ということは…


「攻さんの能力が弱かったのか?」

「確かにその可能性もある」

「じゃあ奴が強すぎたのか?」

「いや…」

「じゃあなんで攻さんは負けたんだ!」


 驚いた。仁は怒りとか悲しみとかそういった感情はあまり表に出さないほうだと思っていた。

自分の体が完璧に扱えるから、感情の操作もある程度まではできるのだ。それなのに激しい

とまではいかないが、怒りが表に出ている。


「!」

「…」

「どうして…」

「…」

「どうして、俺らのほうに近づいているんだ!」

「は?どういうことだ?」

「何かは分からない。けど、確かに何者かが上の階でこっちに向かって走っている!」

「それは桐の足音か?」

「知らん。俺は直接春近の記憶を見たわけじゃないからお前に見てもらわなけりゃいけねえ。

だから、それが本当に桐なのか確かめてくれ。」

「なるほど。なら、肩につかまれ」


 仁に肩をつかんでもらい、俺はまた頭にコンピューターみたいなものが現れるのを感じた。

そして、聴覚に意識を集中させた。そうすると、かなり遠くに誰かの足音みたいな音が

聞こえてきたが、


「大丈夫だ。あれは桐の足音じゃない。しかも、相当遠いところだ」

「違う!俺がお前に足音を聞けって頼んだんじゃないぞ。俺はあいつが桐なのかを

確かめてくれといったんだ!」

「どういうことだよ」

「確かに俺も足音が遠いような気がしていた。だがよ、音じゃなくて、人の目を感じたんだ」

「だから、どういうことだよ」

「なんか執念のこもった目を感じたんだ。だからもう一回見てくれ」

「いいだろう」


 なんでいきなり偉そうにすんだよ!と海崎が言っているのを無視してさっき足音がしていた

方向を見ようとした。海崎のタレントのおかげで、視野もかなり広くなっている。

さらに、普通の反応も反射と同じくらいはやくなっている。

だからこそ反応できたのだろう。


「危ない!」


 桐はほぼ俺の真上から飛び降りてきた。右手を手刀にして軽やかに降りてきた。

だから、回避しようとした。しかし左に避けたら、仁の腕が切られてしまう。

そうなると右に避けるしかない。

そうすると、


「うわ!」


といいながら仁は俺が避けた時の衝撃で俺の肩を放してしまう。

さらに、サクッという音を立て、俺の左腕は肘の少し肩側のところで別れ、

俺の胴体から離れていった。


「あ゛あ゛ーーーーーーーーー!!!」


仁が離れていったから神経からの痛覚の情報を遮断することもできなければ、

出血を止めることもできない。切られる直前にそれらをしている余裕はなかった。


「あら、頭を狙ったのですが、外してしまいましたか。残念です」

「お前が…桐だな…」


左腕を抑えながら、すでに答えのわかっている質問を投げかける。


「そうですとも。何故知っているのかは疑問ですが、私こそが桐瑠璃花です。

あなたこそどなたで?」

「俺は…灰原尺時だ…」

「あなたじゃありません。私はその奥の方から『敵意』を感じたので訪ねたくてね」


…え?っていうかそれなら俺を攻撃するなよ。ただでさえこっちは左腕持ってかれて

痛いというのにさらに心にダメージを与えてくるとは。


「俺か、俺は海崎仁だ。そしてお前に対して大いなる敵意を抱いているのもこの俺だ!」

「あら、そうですか。てっきり私の知っている人なのかと思えば全く

心当たりがございませんね…どうしてあなたは私に敵意があるのでしょうか?」

「攻さんをお前が殺したからだよ!」

「あなたはどこでそれを知ったのです?」


 本当にわずかだが、桐に動揺が見られた。


「お前なんぞに答えてやる義理はねえ!」

「…まあ、どちらにしろあなた方も殺してしまえばよいというわけですか。

ならば遠慮はしません。もとよりするつもりはありませんでしたがね!」


 そういうと、桐は仁に切りかかった。それを仁が回避していく。俺の肩から離れたから

仁はまたタレントを使えるようになったからかなり早い攻撃も回避できている。

しかし仁だけでは攻撃ができない。せめて、逃走経路は確保したい。


ガシッ


「これは…!?」

「見ての通り、俺の切り落とされた『左腕』だ」


 俺の切り落とされた左腕は桐の右足首を掴んでいる。

まるでトカゲのしっぽのように勝手に掴んでいる。


「何故こんなことが!?」

「腕の神経細胞を利用して、すごく単純なことしかできないような小さな脳を作ったのさ。

しかし、組み込んだプログラムはいたって簡単。手のひらに衝撃があったら、手を握る。

それだけを組み込んだ。」


 これをするためにはかなり集中する必要があるから、そこ以外は普通の人と変わらなく

なってしまう。だから、腕の止血も、神経細胞の遮断もできなかったのだ。


「しかも、それは離れても俺の体。お前を掴んでいるから、俺のタレントも発揮できるんだ

ということで、天才さん。その才能、拝借する!」


 そういって、俺は桐瑠璃花のタレントを借りた。


「これで君の能力は一時的に俺のものとなった。では、さらば」


 そういって俺は仁を連れて壁を切り、外へ出た。さらに門の外まで行った。

そこには驚いた顔をした守がいた。


「今、壁を切ったところから来たよね?」

「ああ、桐瑠璃花とか言うやつと戦ってたんだよ。

それで逃走経路の確保に奴のタレントを借りたんだ」

「え!灰原君たちは桐と戦ったの?」


 すでに驚いた顔をしていた守がさらに目を丸くした。


「ああ、左腕を持ってかれちゃったけどな」


 と言って背中の後ろに隠していた左腕を出した。


「…」


 なんか黙り込んだ守を置いといて、俺は仁にいった。


「とりあえず止血したいからいったんタレント貸してくれ」

「いいけど…」


 仁は俺の肩に腕を置いた。そして、左腕の切断面の筋肉をかなり緊張させ、取り合えず

流血を仮止めした。


「お前、無理しすぎるなよ。出血量多すぎて死んでたかもしれないし」

「ああ、気を付ける。それよりもさ、これで切れた左腕を回収できないかな?」

「さすがにそれはやったことないな」


 さすがに左腕をなくした状態で帰ったら、途中で誰かに見つかって騒ぎになってしまうかもしれない。

まあ、物は試しと思い、俺は左腕を手を使って移動できるか試してみた。

じゃんけんのグーとパーの形を交互に行う感じで、移動させた。

ある程度移動させてみたら、少し姿が見えてきた。


「…あれは…」

「えぐいな…」

「うわ!」


 腕だけが独立してこちらに這い寄ってくる姿は完全にホラーのそれだった。

さすがにあれは自分の腕でも、若干の恐怖を感じる。


「…ところで、腕が戻ってきたから、くっつけられないかな?」


 しかし、何度かつけようと試みたが、どうやら上手く治せないようだ。

切り離されてしまった腕というのは、自分の体ではあるが、海崎のタレントだけじゃ治せない

らしい。


「まあ、俺のタレントは自分の体を上手く扱えるようになるっていうだけだからな。

でも、くっついてるように見せかけることならできるんじゃないか?」

「それでもいいや。どうしたらいい?」

「とりあえず、左腕の手首がある方の出血を止めろ。それで右手で抑えろ」


 あ…そういう…原始的な方法で行くんですか…


「とりあえず出血は一時的に抑えられたし、病院にでも行こう」

「いや、いったん止めれたんなら俺の家に来なよ。俺の母さん、医者だからよ」

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