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才能戦  作者: 材料箱
3/7

Number-2

灰原尺時は海崎仁のタレントを借り、

自身の技能、分析の精度を上げ、

春近守の記憶を覗いた。

………


『姉さん!』

『咲良!』

『まもる…おさむ…はや…く…にげ…さい…』

『あら、あなた方も逃がしはしませんよ?栗木さん、この咲良さんをとりあえず「隠して」頂戴』

『…』


 その無言の男は静かに姉さんに近づいた後、腕を下げたままゆっくりと手を開いて

そして小指から順にこぶしの形に戻した。その直後、姉さんはあの桐 瑠璃花とかいう

奴の手から消えていた。


『き、貴様、咲良をどこへやった!』


 攻兄さんがそう叫んだ時には、その栗木というやつの姿はなかった。


『安心なさってもいいのですよ?ただ隠しただけで「まだ」何もしていないので。ふふふっ』

『くっ…』

『兄さん…』


 僕はこの時、きっと直感で感じていたのだろう。そう、なんだか、兄さんも「自分から離れ

て」しまうこと。それを感じたのだろう。それからくる寂しさが、この時の恐怖を越えていた。


『しかし咲良は何もできずにつかまっていったわけではない。お前にタレントを使わせた。

それは咲良が「俺ら」に残してくれた、ヒントだ。』

『ほう?』

『それを俺は守り抜く!』

『しかしこれから死んでしまう君にそんなことができるのかな?』

『兄さん!』


 兄さんはタレント性をかなり下げる能力があったはずだから、

自分を守ることだけに集中すれば、2、3回は切断の効果が薄くなるだろう。

しかし、そのあと、はどうするのか。すると、


『よく思い出しておけ、今のうちに。』

『何を?』

『あいつに遭遇してからのことをだ。ざっくりでいい。相手の能力と使い方だ。

何ができて、何ができないのか。何に長けていて、何が弱点なのか。』

『…わかった』


 いわれたままに、桐 瑠璃花の能力を全力で思い出した。

えーと、能力は切り離すこと。どんな固さでも切れて、で、えーとなんだっけ。

そうだ、人の技能も切り落とせる。その場合、もともと所有していた人が能力を

使えなくなるだけで本人が使えるようになるわけではない。

…しかし思い出してどうするんだろう。


『遺言はその程度でいいでしょうか?では行きますよぉ?』


 そういうと奴は兄さんに向かって走り出した。と思った。体勢こそ走り出す動きだったが、

一歩踏みこんだだけだった。


『うっ…』


 そして、少しして兄さんの体が胸のあたりで大きく切れた。

赤い線が肩から腰のあたりにできている。


『兄さん!』


 兄さんは唸りながらも耐えていた。


『あなたのタレントのことはすでに知っていましたから。だからわざわざ直接切らず、

空気を切ったんですよ。』

『…今のも…覚えとけ…守…』

『…』


 もう何も言うことができなくなっていた。僕はあいつに言葉を切り落とされたのだろうか?

逃げることを提案することもできない。そして、自分の足もまた地面にくっついてしまった

かのように動かなくなっていた。


『では、もう一度』

『させるか!』


 兄さんはあいつに向かって走り出した。


『やめてくれ…兄さん…これ以上誰も僕の前からいなくならないでくれ…』


 自分ではそういったと思っていたが、実際は声になっていなかったようだった。

小さいころに両親を失ってから兄さんと姉さんは僕にとっては両親のような存在だった。

だからこれ以上いなくなってほしくない。

しかし兄さんはあいつに向かって走った。あいつの攻撃を何発も受けながら。


『今お前は俺から半径5m以内に入った。』


だから…


『そしてお前の切断能力を下げる!』


もう…


『ふふっ』


やめてくれ…!


 バキン!という音とともに兄さんの肩は消えていた。あいつが殴り飛ばしたのだ。

そこからもう一回ズバッという音を

立て、兄さんの影は縦に二つに割れた。


『…』

『なんだ、あまり切れ味が変わっていないじゃないですか。

まあ、ただの手刀でもさす程度の力はありますがね』

『!』

『私はね、お兄さんのほうは確実に殺しておけと命令されているのですよ。』

『何故だ!なぜ兄さんなんだ!』


 やっと声が出せてきた。


『もちろん決まってるじゃないですか。そのタレント、強いんですよ。強すぎて対処しづらいのです。

だから私のような間接的にタレントで攻撃できるものが選ばれたのです。

まあ、少しばかり油断してしまいましたが、あまり問題なかったようですね。』


 きっと次は僕だろう。そう身構えていたら、


『あなたはあまり強くないと聞いたので記憶を切り取るだけにしておきます。』


 そういって奴は僕の額を強めにつついた。

すると、平衡感覚が失われ、僕は後ろに倒れた。


 頭の中でプチッという音が鳴った。


『よし、これで記憶も消えたし、しばらくは起き上がれないだろう。栗木、行くぞ。』

『…』


 そして無言の男が再び現れ、二人は去っていった。


 しかし、記憶は消えていない。


 ならば、強いやつに、奴を倒せるような強いやつに、これを伝えなくてはならない。

その方法をゆっくり考えるためにも、僕は家に帰り始めた。


 しかし誰だ?そもそも僕は強い能力を持った人をあまり知らない。

あいつを倒せるような強さを持った人は絶対にどこかにはいるはずだ。

どのようにして強い人を見つけ出せばいいのだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、


『お、春近じゃん』

『ほんとだ、おーい春近ー』


 僕はいきなり名前を呼ばれた。少し驚きつつ振り向いたところ、そこには少し

体格のいい、僕の友人、海崎と灰原がいた。


『…ああ、海崎と灰原か…』


…正直に言うと、この時あいつを倒すために強い人に助けてもらうため、

強い人がいたらいいなと思っていたのだが、特別とても強いわけではない人だったので、

少しがっかりしてしまう気持ちがあったことは否めなかった。


『春近、なんかあったのか?言いずらいなら言わなくてもいいけど』

『いや、特に何もないよ…じゃあ僕は用事があるから帰るよ』


 ここでもしあの事を彼らに話してしまったら、彼らを完全に巻き込んでしまうだろう。

だから僕は何も言わず、帰ろうとするのだった。

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