15話~「戦後処理」~
前回のあらすじ:こちらの攻撃が通用せず余裕をかます貴族[ジュダ・フラック]に、一矢報いようと努力する[イサマ]とそのクラスメイト[エルドゥアン・カニ―ス]。
そして、いろいろと作戦を組んだ結果ようやく一撃をかますことに成功した。
ポイント評価、ブクマありがとうございます。
「それで、魔石学部と魔法学部の対決はどうなった?」
「魔法学部の勝利です。彼らが勝利条件を満たしたという戦略的勝利です」
「ほう、魔石学部は魔法学部相手に実力で押し切られなかったのか。やはり、魔石を用いれば貴族にも対等にやり合えるものか」
「感心している場合か、むしろ、それはまずい話だろう。しかし、これだと戦力差が分からない状況だな……いっそのこと総力戦をやらせるべきだったか?」
多くの声がその部屋に響き渡る。彼らはイサマたちの戦いを中継しながら見ていた。それぞれ感想を思いのまま述べている。常識に外れた戦法を取ったイサマたちに首をかしげる人もいる一方で、その作戦に趣向を感じた人もいる。そのせいで人が集まっている場にもかかわらず、大騒ぎの状態になっている。
しかし、その声に共通するのは魔石学部の健闘ぶりをたたえる声。そして、教育や道具次第では魔法学部の子息に届きうるという事実。彼らにとって重要なのはその部分であった。
「静まれ」
と今までの人より高い声がすると、一瞬で場が静まり返る。
それは声の主がこの場にいる、どの人よりも豪い立場であることを示している。静まった場に、彼は一石を投じる。
「魔法学部と魔石学部、生き残った人数はどうなった?」
「は……、なんと!?
魔法学部が生存二名、そして魔石学部が三名!? しかも倒した人はロベール・ヨーク、イサマとエルドゥアン・カニ―スと言う人物です!」
「ばかな!? ありえん! ロベール・ヨークはともかく、庶民に負けるなんて……」
再び騒ぎだす会議場。それも当然で、魔法学部と魔石学部では下地が違う。確かに庶民にしては非常に高い能力の持ち主が魔石学部に所属していると言えど、それでも魔法を扱っている貴族とは蟻と象で例えられるほど差がある。つまり、本来は勝負にすらならないというのが彼らの見解であった。
そして、勝負に負けたということだが、彼らにとって魔法学部が優位なままで終わったと思っていた。具体的には、善戦したが魔法学部の猛攻に耐えられずに地力で押し切られたという見解。
しかし、実際はどうか。
魔石と言うアドバンテージがあったとはいえ、人数を比べるとまさか魔法学部の方が削られていたということだ。
つまり、今まで絶対的と言われた貴族と庶民の間の壁は思いのほか低かったことを意味し……そして、その壁を乗り越える踏み台は魔石によって比較的簡単に用意できるということ。
「静まれ。……面白い情報を得られたな。皆のもの。これを今後の計画に役に立てるとよい。
全ては、コリオダ王国のために」
「はっ!」
そうして、この会議場から次々と立ち去っていく。先ほどの真実がいまだに信じられない方が多いものの、熱気だっていた。彼の声色には不思議と暗さを感じるものではなく、快活ささえ発生した。
「……さて、魔石学部の諸君。お手並み拝見と行こうか」
あの戦いから二週間後。イサマは一人研究室で白い紙を使って今までの授業をまとめていた。その中には、イサマの考えた理論も書いてあるが大きく×の印が刻まれている。
そして、休憩とばかりに違う椅子に腰かけていた。彼は二週間前の試合について再び回想し始めた。
いつも思い出すのはジュダ・フラック戦、その最後の部分。ジュダ・フラックの腹に自らの精魂の一撃が決まって、吹き飛ばすことに成功したシーンから。
「……やったか?」
「やめてくれ、エルドゥアン。それは倒していない時に使う言葉だ」
「おっと、すまないな。だが、作戦自体はうまくいったはずだ。これで敵が倒れないと、こちらとしてももう手がないが……」
先ほどの一瞬の攻防を乗り越えたエルドゥアン・カニ―スは緊張が抜けたのか、脱力するような会話を始めていた。その気持ちはわからなくもない。最初に考えた案に急場の案を付け足したものを実行したために、お互いに負担が大きかった。ただ、その分効果はあったはずであると手ごたえを感じている。
あの作戦を振り返ると、そこまで難しいものではない。ジュダ・フラックの膜を貫通する攻撃はこちらの手札では火の魔石か自分の魔力を込めた一撃のみ。しかし、それも氷の盾で防がれてしまう。
よって、どちらかを確実に決めなければならない。
火の魔石はすでに手札を見せている以上切り札になりにくいということで、イサマは切り札候補をエルドゥアンに説明したのだ。
そして、エルドゥアンが頑張って足止めをする、という案になった。ジュダ・フラックが両手のどちらかを攻撃した瞬間に、火の魔石を仕掛ける。もちろん、彼は確実に避けることは知っていた。よって、その避けた火の玉に剣を当てて、攻撃を仕掛ける。
これが当初の案である。火の玉に剣を当てると剣に火の一部が付加されて、より火力が増える。これはぶっつけ本番ではなく、実験的、および理論的に導き出した事実である。
それがなぜか、というのは難しくなるがとにかく知っていた。
しかし、その攻撃も彼の氷の盾を貫通するには至らなかった。正直予想外な話であったが、そこで急場の案が役に立った。防いだ手の方向から近づき、自分が魔力を込めた一撃を決める。
最後は拳で決めるというなんとも野性的な一撃だが、作戦自体はうまくいった。
後はこれで倒せたか否かという話になるが……そのような話を二人でしていると、再び先ほどの気配が戻ってきた。急いで体勢を整えなおさざるを得ない二人。
「いや~君たち、面白ねぇ、今までなめていてごめんね。
……こっちも本気出すからさぁ、ぜひついてきてね?」
と言って、手から大量の氷を出してきた。その様子を見て、彼が今まで手を抜いていたことを理解した。……思えば、違和感は最初からあった。
此方に一人で攻撃を仕掛けたこと、なめたような態度を取ったこと、そしてこちらの攻撃をあえて食らおうとしてきたこと。
そんな油断があるからこそ、倒せると思っていた。付け込む隙があると思っていた。
だが、実際はどうか。まだ相手は本気を出しておらず奥の手を伏せていただけだ。要は、実力を出すまでもないと思っただけだ。
そして、我々は全力を出させることに成功したわけだ。
此方の切り札をすべて使い切った状態で。
精々自分たちにできることはせいぜい時間稼ぎと言う名の延命作戦。問題は、たとえ稼いだとしてもあまり意味がないことである。
というのも、時間を稼ぐことは他の人……今回は貴族組二人、を自由に動かせる時間を確保することが目的になる。
が今までのこと推しはかると、どうやって連携さえ取れない面子に期待しろと言うのか、という話になる。これ以上の案を考えていないイサマは、どうしたらいいものか迷っていたのだが……急に音が遠くから鳴り響いた。
「試合終了! 勝ったのは、魔法学部のクラス!」
その瞬間に、目の前の敵は舌打ちをしながら手に出していた氷をひっこめた。
そして頭を掻きながら、その場をぶらりぶらりと歩き去っていく。そのあっけない姿にエルドゥアンは拍子抜けと言わんばかりに手をぶらりと下げていた。
「ま、待て!? これで終わりなのか? さっきの言葉は何だったんだ?」
「終わりだよ。いやーホントはもっと戦いたかったし、君たちの本気を見たかったけど終わりなら仕方ないさ。まあでも、魔法武闘会なんてものもある。それまでとっておきにしておこうと思っているよ。
……だから、その時までには、
強くなっていてね、少なくとも僕が楽しめる程度には」
今まで浮かべていた表面上の笑顔ではなく、心から楽しそうな笑顔で言い放った。その様子を見て、本能的に自分の身体に震えの波が走る。最初はマイペース、と思っていたが違う。今まで隠していただけだ。
本性は……戦闘について狂気的なまでに快楽を覚えるバトルジャンキー。
すべてが終わるとマキュベスが出迎えてくれたが、正直何も覚えていない。覚えていることは、ジュダ・フラックが子爵家の息子であること、そしてその実力。
彼はまだ子爵で、しかもまだ子供。当然、親になると彼よりも強いことは明らかであるし、階級が上になるとさらに強くなる。
ああ世界と言うのは広いのだな、と思うと同時に自分のうぬぼれについて恥ずかしくなっていく。
研究したから、努力したから、貴族に匹敵するだけの実力があるのだと今まで思っていた。ゆがんだ形とは言え、幼少期にそれを立証する出来事……男爵家の子息を倒す程度の実力があったからなおさら。
だから、子爵家であれば勝てると無自覚にも思いこんでいた。
しかしそれは甘すぎた。まるで自分だけが努力してきたかに思ってしまった。そんなわけない。庶民も、貴族も努力している。その前提が抜けていた。だからこそ、今のままでは彼に逆立ちしても勝つことはできない。
それはすなわち、自分が魔法について研究するにはもっと実力が必要だということ
このプランシェと言う世界では、力なき意志と言うのは意味をなさない。なぜなら、其れより圧倒的な力……実力も権力も持つ貴族に押しつぶされてしまうから。
別に最強になる必要はないが、少なくとも魔法研究の際に横から口出しされない程度に力をつけなければ、研究さえままならない。自由は保障されるものではなく、自らの手でつかみ取るものであるからその手段として力は必要だ。
だからこそこんな悔しい気持ちを二度と味合わないためにも力を獲得せねばならない。強くなることは、魔法を研究することそのもの。ただし自分のペースではなく、質も量も上げなければ意味をなさない。この敗北を糧により力を尽くそう。
というものであった。彼はここ最近、何度も回想をしているが終わり方はいつも同じ場所である。
より強くなる必要があるというもの。純粋な力だけでなく、知識的側面や権力的側面、そして人脈も。それらをひっくるめて実力。
そんな決意が再び彼の心に灯るのであった。
遅れて申し訳ありません。
ちなみに、火の玉と剣のくだりに関しましては次回より細かく説明するのでよろしくお願いします。
とりあえず多少のストックがあるので、明日も投稿します。




