12話~「基本魔石五種類『研究用』」
前回のあらすじ:決闘の約束の後に、MAによって魔力保有量を調べた。彼は研究室の申請をしていたが、其れの獲得をした。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
新学期が始まってから数週間がたった。最初は授業についていくのに大変そうだった魔石学部のクラスも、漸く余裕が出てくる。イサマもその例にもれずに毎日の予習復習をこなしていた。
「はい、HRですよ~皆さんにお知らせがあるので、席について下さい」
マキュベスがそういいながら入室して、流れるように教壇の上に立ち
「さて、お知らせです。例の決闘の件についてですが……ついに来週実施することになりました。規則に関しましては相手方は魔法のみ、こちらは手に持って持ち込めるものであれば、魔法関連のものに限り持ち込んでよいということです」
ということだった。
他の生徒はマキュベスが言わんとすることに頭をかしげていたが、イサマはなんとなく見当をつけていた。しかし、とりあえずは話を聞いてからだということで待っていると
「さて、条件面については以上です。何か質問がある方はいますか?」
「ちょっと待ってください! それだと、魔力やその扱いに差がある我々に不利ではありませんか?」
と、決闘に参加するロベール・ヨークがマキュベスに不満……というより、弱音を吐く。一見みっともないものに見えるが、事実として彼の言っていることに間違いはない。なぜなら、そもそも魔法の実力が貴族クラスに匹敵するのであればそちらのクラスに所属しているから。
これが教育を積んでから、というのであればその牙は喉元に届くかもしれない。しかし、まだ授業を受けて一か月程度。それだけで貴族クラスを倒せると思うほど、自分たちが成長したとは思えないという意見から出たものであった。そしてその事実は正しいためにマキュベスは補足を加える。
「はい、良い質問です。現在の能力は確かにロベール・ヨークさんの仰る通りです。今の貴方たちでは、逆立ちしてもかなわないでしょう。
ですがそんな皆さんのために、あるモノを用意しました。
今回の授業ではそれについて扱おうと思いますので、少々お待ちください」
といって、いったん教室から出ていくのであった。
イサマは何を持ってくるか大体予想していたが、数分後マキュベスがやってきた際に手に持っているものを見て案の定、とまで思った。
彼の手には、大量の様々な色を持っている石を持っている。
「はい、改めましてこんにちは。今回は、この石について学びましょう」
まずは、マキュベスが手に持っている石をクラス全員に配る。イサマにわたされたものは、紅い色をした小さな石であった。さらに手袋も渡してくる。
「今渡された石に触れないよう手袋をお付けください。さてこの石ですが、まずは前をご覧ください。皆さんもご存じでしょうが、このように……」
手元にある紅い色の石をマキュベスが触れる。そして数秒経過すると彼の手元から光を放ち、目の前に轟々と燃え上がる炎を浮かべた。それだけではだれも驚くことはなかったが、その炎をいったん消して違う石を用意する。
その横にある水色の石に触れてから再び力を込めると、今度は握りこぶし程度の大きさの球体で、薄い青色をした水球が掌に浮かんでいた。その現象には、先ほどとは打って変わって全員の顔が驚きに染まっている。
「これが、この石の効果です。通常魔法は一種類しか使えないことは一般常識だといわれていますが、その理由に関してはあまり知られていなかったです。
しかしこの石によって説明できるような解釈が生まれました。まあ、それは後で触れましょう。
今ご覧になった通り、この石をつかえば複数の種類の魔法を扱うことができます。使える魔法の種類自体はそこまで多くないですが、重要なのは今まで使えなかったものが使えるということです。
魔法と言うのは非常に汎用性が高いものです。例えば火を出すことができればすぐにものを温めることができますし、水を出せれば食用の飲用水をすぐに調達できる。ゆえにこの石の名前は魔石と言われます」
と、流暢に喋るマキュベス。自身の専門分野ということで、舌の回転が速いのだ。さらにマキュベスの授業は続く。
「さてこのように非常に汎用性の高い魔石でありますが、その構造について説明しておきましょう。魔石の構造はその内部を調べた人が先行研究のおかげで、今のところ、大きく二種類に分けられることが判明しています。一つ目は魔石の魔法構成部分。二つ目はその構成したものを運ぶ管です。
一つ目の、魔法構成部分についてですが。基本的に基礎魔法を除いた魔法というのは、魔力だけでは発動できないと考えられています。なのでそれを構成するための器官が、体内にはあると考えられています。
具体例を挙げると先ほど見せた炎の魔法と水の魔法ですが、これも魔法構成部分が違うからこそ全く別の魔法になります。人によって使える魔法が異なるというのも、これが理由と考えられるようになりました。
そういう意味では、非常に面白いと思いませんか?」
と、笑顔で周りを見渡すマキュベス。しかしその汎用性に理解が追い付いていないクラスメイトが多かったためポカンとしている。なお、イサマについては学校に入る前に教えてもらった範囲なので特に反応の仕様がない。精々、うんうんと頷くぐらいである。
あまり反応がない生徒に、マキュベスもややポカンとした顔になりながらも説明を続ける。
「まあ、その面白さや汎用性については後々学んでいくと面白いと思えるようになるでしょう。
さて魔法の構成についてお話しましたが、ここで一つ疑問に思ったことがあると思います。それは魔法の構造部分で構成したとして、魔法は構成した部分で発動するのかという疑問です。もしそうであれば、魔法は魔石内部で発動することになります。
しかし、皆さんご存じの通り魔法は魔石の外側で発動しています。
これを合理的に説明するために、先ほど申し上げた二つ目の部分である管というものがあると考えられています。
この管の役割は、構成された魔法を魔石外部に運ぶことです。
その詳しい機構は未だ解明されていませんが、条件として外部からの魔力による作用によって構成した後の魔力、すなわち魔法が押し出すことで外部に運ばれると考えられています。
……こんなあいまいな説明で申し訳ありませんが、これについては先行研究のものを取り上げているので、ご了承ください」
といって、マキュベスはクラス全員を見渡すのだがほどなくしてイサマと目が合う。彼は視線で言いすぎだと訴えかける。
マキュベスは最初視線の意味が分からずフリーズしていたが、漸く自分の言ったことに気づいたのか咳払いをしてごまかそうとした。
魔法学院に外国人の人が教育を受けても大丈夫と考えられている理由は、この学校内では一般常識についてしか教えないと決めているからである。実際のところ、自国の貴族……百歩譲っても王国民のための学校であるため、実際はそれでも問題であるが大人の事情で解決されたとしか言えない。
そして、先ほどの魔石の内部構造については最先端に近い話である。隣国では内部のことについてはすでに研究が始まっているらしいが、それでもまだわかっていることの方が少ない。少なくとも、マキュベスの言ったことは常識からやや外れる程度には解明されていない。
だからこそ無理やりごまかそうとしたのだが、幸いにして今の話を理解できている人はほとんどいなかった。それも考えてみれば当然といえる。素人にいきなり研究のような話をして、すぐ理解できる方が異常なのだから。そのため、イサマ的にはギリギリセーフだと考えていた。
「さて発動方法は大きく三つあることが確認されています。
一般には発動させたいと思う意思が重要と一般的には知られていますが、実際は魔力が原因という説が今の魔石研究において考えられています。その意志が魔力に関連しますが、ひとまず置いておきましょう。
一般に魔法を使っていない時でも体内には魔力があると考えられていますが、その魔力による作用が一つ目です。なんでも、使うという意思によってさらに体内の魔力が増えるために起動できるそうです。これは所謂市販魔石を起動させる手法です。
二つ目は、一部分に魔力を集中させることで発動させる方法。これは所謂魔石を触っている部分に、魔力を集めることで魔石を発動させる手法です。とはいえ、こちらの手法は高等な技術が必要です。貴族の方にとっても難しい手法なので、あまり使われることはありません。
三つ目は、体内の魔力を増加させること、すなわち基礎魔法を用いることによって発動させるものです。基礎魔法の理論によると、魔力を体内中に循環させることが魔法を発動するための条件と考えられています。その循環している体内の魔力による作用によって、魔石を起動できるという考えです」
これについてはすでに知れ渡っている事実……というより、むしろ現実にある現象を理論づけている内容であるため、特に問題ないとマキュベスが判断したためである。
イサマからすると微妙に正しくない、というより誤解させるようなニュアンスが混じっているように思えたが、それをあえて突っ込むほど野暮でも矛盾した行動をとるつもりもなかった。とはいえやはり曖昧な点が多いために、今後のことも考慮してメモを取る。
「さて、その手法を紹介したところで魔石の種類について基本的なもの、具体的には次の決闘時に使うことのできる魔石の種類を紹介します。さて、今我々に使用が認められている魔石は五種類です。
火の魔石、水の魔石、土の魔石、風の魔石、そして雷の魔石のご種類です。ほかにも種類は数えきれないほどありますが、とりあえずこの基本五種が使えれば今年は構いません。
ちなみに、この五種類だけでもいろいろなレパートリーの魔石がありますがそれは後々に。
決闘に出場する人は今日の放課後にこの魔石のことについてより詳しく説明しますので、該当者全員で授業が終わり次第職員室に来てください」
何気に事務報告も終えるとすぐにチャイムが鳴った。ほかにも授業はあたが、彼が決闘のことと魔石の授業のことについて考えを張り巡らせているうちに放課後になってしまった。
マキュベスが集まれと言ったために、とりあえず職員室に出場者であるエルドゥアン・カニ―ス、ジュリアン・メーア、ロベール・ヨークの四人がいるのだが……非常に重い空気が形成されていた。イサマからするとエルドゥアンとの関係性は悪くないのだが、ジュリアンとロベールの二人とはほとんどしゃべったこともないために気まずい状態であった。
ついでに言うと、そもそも彼自身……ついでに言えば、エルドゥアンも貴族にそこまで良い思いをしていないことに加えて、彼ら個人の態度と言う積み重ねもあって余計にこの二人とは距離を取りたくなると思う庶民組二人。そんな状況の中ようやくマキュベスが現れる。
「お待たせしました。それでは、演習場へ行きましょうか」
そうして、マキュベスに連れていかれて演習場に到着した。そこは地面はむき出しの土とあまり装飾の無い石壁という、何とも殺風景な広い場所だが実技ということで真ん中にぽつんと立っている五人。彼らは手に一つずつの魔石を所持していた。横にマキュベスが立ちながら、説明を始める。
「それでは、授業で説明した通り魔石を発動してみましょう。それでは、火の魔石からあの石へ気へ向けてどうぞ放ってみてください」
といって、イサマが前に出て手に持った火の魔石を身体の前に出す。
そして、数秒後に石が光を放射すると、目の前に顔から胸に達する程度の大きさである紅い火が生成されて、それが速度を持って目の前から発射された。
当然、それを止めるような障害物はこの場にはないため壁へと直進する。その火が壁に衝突する直前、ガンッと何かが当たるような音がした。そのすぐ後にはいつの間にか火は消え去っている。残ったのは、先ほど火がその場にあったにもかかわらず、何事もなかったようにたたずんでいる壁と地面。目の前の現象に全員が驚いていた。
「今のが火の魔石です。頭より少し大きな不定形の火を生み出して放つことができます。これは所謂放射系の魔石なので、普通の魔石とは少し違いますが所謂基本的な魔石の一種と言えるでしょう。
ちなみにこの火も含めてですが、この学校内で扱う魔石は基本的に殺傷能力があります。魔法をたしなんでいる人であれば大して傷を負わないと思いますが、間違っても一般庶民の方にこれらを向けてはいけません。宜しいですか?
なお、この壁は魔法の影響を受けにくい……というより、無効化する現象があります。
これも所謂振興の発明ですが……その話は後回しにしましょう。なので、この壁があるときはこの魔石程度であればいくら使っても大丈夫です」
と、いつになく真剣な……というより、声に脅しのニュアンスを含めて警告を放ったマキュベス。
実際のところ現状では魔石によって人にどのような影響があるのかと言うのはあまり研究されていないために、このような脅しになっていた。それに頷いた全員の顔を見てから、マキュベスは笑顔で進める。
「理解すればよろしい。それでは、次に水の魔石をお願いします」
そして、ジュリアンが不満たらたらの表情で前に出てくる。イサマと同様の挙動をすると、再び光を放つのだが今度はやや淡い色の光であった。そして、今度は直径が身長の半分程度である球状の水が出てきて、そして火と同じように直進して壁にぶつかって消滅する。
「今のが水の魔石です。これもいつものものより少し火力は高めですが、火のものと比べると落ちてしまいます。移動速度も火よりは遅いため、うまく使いどころを考えることが重要になります。
それでは、次に土の人」
ロベールが同様の挙動で光らせると……おおよそ彼から十メートルほど先の地面がいきなり隆起した。面積は人一人分ぐらいで、高さもせいぜい一メートルぐらいであるが、今までのように火や水を放つものではないだけに見慣れていない面子は驚いている。
「今のは、市販ではあまり使われていない土の魔石です。この魔石の特徴は一度生み出すとしばらくの間、土が隆起した状態になります。そのため、急な地形変化によって面白い戦術を組むことができるでしょう。ちなみに、距離次第ではもっと高く隆起することも可能です。
それでは風の魔石の方を、あの隆起した土に向けてお願いします」
そしてエルドゥアンが土の壁に向けて放つと、瞬く間に掌大の白い刃のような生成されるや否や、土の壁の方へと向かい壁を両断する。その後、土の壁は消えてしまい風の刃も壁に届く前に消えてしまった。
「今のが風の魔石です。こちらも市販で使われることの無いものですが、発動速度及び攻撃速度が高い魔法です。その分火力や持続時間は水や火に劣りますが、他二つに比べると使い勝手は悪くないでしょう。それでは、最後に雷の魔石を扱います」
マキュベスが前に出て、少し時間をかけて魔石を起動すると目の前に小さな白い稲妻がビリっという音と共に一瞬だけ現れ、そしてあっという間に消える。この魔石はイサマも見たことがなく、周りにつられて思わずおおという声がこぼれてしまっていた。
「今のが雷の魔石です。発動までに多少時間がかかりそして持続時間は非常に短いですが、攻撃速度は風の魔石を超える……というより、避けるのは学生レベルではほぼ不可能です。その分攻撃力は低く、精々麻痺させる程度ではありますが足止めには使えます。なので、他の魔石と組み合わせることで効力を得られるでしょう。
これで以上となります。私はここから去りますが、しばらく時間を確保しているのでここで作戦会議でもしてください。なお、決闘中に持ち込める魔石は三つまでです。種類がかぶっていても構いません。それではまた明日」
と言って、マキュベスは立ち去ってしまったために残ったのは雰囲気がよろしくない四人。そして、ロベールとジュリアンの二人は、すぐその場から立ち去ろうとしていた。それに気づいたイサマが急いで二人の前に周って、進む足を止めようと前に立つ。
「お待ちください。お二人とも、なぜこの場から立ち去ろうとしているのですか?」
「ああ? こんなもの、意味がないだろ……それに、作戦会議なんて必要ない」
「……認めたくないけど、そこの人には同感よ。作戦会議をして、何ができるというのかしら?」
冗談だろと言わんばかりに顔がとぼけるイサマであったが、二人の表情は真面目なもの。ロベールはいつものように気だるげ、ジュリアンはいつものように冷たい表情を向ける。二人とも、興味がなさそうなのは明らかであった。
「だから、魔石をうまく使うことでどうにかしようという話ではないのですか?」
「うるせえ、庶民。そんなものお前らでやっていろ。俺は、俺のやり方でやる」
といって、一瞬でイサマの後ろを取ってその場を立ち去ったロベール。その後姿を呆然と見ていると、ジュリアンもいつの間にか彼の後ろへと歩いている。
「あなたたちと作戦会議するより、私にはやらないといけないことがあるの。邪魔しないでもらえる?」
そう言い捨ててその場から声をかける間もなく立ち去って行った。まさに取り付く島もない。
残された二人は互いに呆然としている。まさか、あそこまで協調性がないとは思わなかったからである。
「……ごめん、エルドゥアン」
「俺は何もやっていないから謝る必要はないぞ。それに、あそこまでやる気のない面子だったら俺たちだけでやった方がいいだろう。さて、作戦とかどうする?」
「それなんだが……俺たち二人で、確実に一人ずつ倒すのはどうだ?」
イサマの考えたこととして、魔法学部の下位クラスとはいえ魔法の取り扱い方……仮に基礎魔法だけに関してもあちらに一日どころか千日以上の長がある。なので、真正面から戦っても勝てる可能性は薄いだろうという意味でこのように声をかけた。
「確かに、相手の魔法がどの段階は未知数だが……一人ずつ相手するよりも、複数で挑んだ方がやりやすいだろうな。それで、魔石についてはどう選択する?」
「それについては、すでに考えがある。
~~だが、どうか?」
とイサマが作戦内容を話した後に評価を求めると、にやっと笑うエルドゥアン。
思った以上に辛辣……というより、あくどい方法ではあるが確実に仕留めることができるものであるからだ。
その内容に是非もなく良い、とエルドゥアンが答えたことで作戦会議を終えるのであった。
一緒に寮へと戻る最中、エルドゥアンはふと疑問に思ったことをイサマに聞いてみる。
「なあ、イサマ。差し支えなければでいいが、聞きたいことがある。確か、イサマは入学式の時に魔法について知りたいといっていたよな? その後、確か魔法を再現したいとか。
それって何故だ?」
「? なぜとは?」
「この学校に来て分かったことだが、貴族は魔法を使えることを誇りに思っている。そんな中魔法を研究したいと庶民のお前が言ったら、真っ向から貴族と対立することとなる。そしてここは本来貴族が通う場所であり、イサマにとっては敵地同然。
そこまでして、イサマがここに来た理由がよくわからなくてな。もし趣味で魔法を研究したいのであれば、態々敵がいる場所ではなくて違うところで研究した方が良いだろうと思ったのだが、どうだろうか?」
エルドゥアンの発言に、イサマは思わず目を丸くする。
彼の言い分はもっともで、もし趣味の範疇だけであったら確かに敵地に行く必要がないからだ。なのでどう答えたらよいだろうかと言い訳を少し考えるものの、うまいものが思いつかないことと、彼にはあまり不誠実でいたくないということから諦めて本音を語ろうと心に決めた。
「エルドゥアン。あまり人に聞かれたくない話でもあるから、ここだけの秘密にしてくれるなら話すが場所を移したい。それでもいいか?」
その発言に首肯したために、急遽イサマの研究室へと向かうこととした。その中で、イサマは一息ついてからゆっくりと口を開く。
「俺がどうしてこの学院に来たかだったな。実は、俺は異世界の研究をしている。具体的には、異世界に渡る魔法がないかの研究だ。幼いころに両親を亡くしたときから、ずっとその研究をしてきた。だが、それに該当する魔法がないために、研究もやりつくしたということからこの魔法学院に来た」
イサマが非常識なことを語ったために、今度はエルドゥアンが目を丸くする。どこかで聞いた話として死人は生者と別世界に行くという説はあるものの、そこに行くという魔法まで考えたことがないからだ。しかし、一つ疑問が生じたために、イサマに質問する。
「……そんな魔法、あるのか? 少なくとも俺はそれを聞いたことがない」
「ああ、俺もないさ。だけど見たことも聞いたこともないからといって、ないと断ずるのは早合点だと思う。人間は今まであり得ない、存在しないと思ったものを解明してきた生物だ。だから、異世界に渡る魔法もあると俺は考えている。
だからこそ今の魔法がどのような法則で成り立っているのかを知りたい。魔法の種類は何が要因で決めるのか、聞いたことの無い魔法はどのように作られるのか、そもそも魔法を発動させるのには何が必要か、それを調達することはできるのか、などなど。
それを手っ取り早く知るために、俺はここに来たんだ」
内緒にしておいてくれよ、とエルドゥアンに声をかけるイサマ。
だが、エルドゥアンにとってはそれどころではなかった。彼の態度は一言で言えば異端である。誰もできなかったことを研究して、今まで考えつかなかったことを実現しようとしている。それは常識の枠から外れているとしか思えない、と言うのがエルドゥアンの率直な感想である。
しかしイサマの目つきを見るとそれが不可能だなんて微塵も思っておらず、むしろ可能であるという意志さえ感じる。エルドゥアンにとって、彼のその目標はばかげているという気持ちよりもなぜかワクワク……いや、興奮が生まれていた。彼なら、何か成し遂げてくれるのではないかという期待の。
それがなぜかはエルドゥアンにとってもわからない。理屈ではなく、本能。あるいは心。
エルドゥアンはイサマのことについて少し振り返る。まだであったばかりのクラスメイトだが、彼は色々と非常識なところが多かった。自分が留学生ということを加味しても、である。
庶民にも関わらず担任の先生から前に授業を受けているところもそう、作戦会議時の頭の回転の速さもそう、そして魔法について妙に詳しい所も。
一つ一つであれば、ありえないということはない。それは常識の範囲であるから。しかし、今回はそれが積み重なっていた。ゆえに、彼の存在自体がどこか異端に見えていた。
「ぶしつけに聞いてすまなかった。そして、聞かせてくれてありがとう。
……イサマ、お前ならやれそうだ。俺も力になれるところがあれば手を貸そう。これからも、頑張ってくれよ」
と言って、エルドゥアンはその場から立ち去ったのであった。イサマの、そんなことを言われるとは思わなかったという表情を背景にして、ドアから出ていく。
彼の興奮を同じく共有して。今夜は眠れそうにないと思いながらも顔がにやけていた。
お読みいただきありがとうございました。一つの部に書きたいトピックが何個か詰まっているために、長くなりましたがテンポの良さのためにご了承いただければと思います。
次回、決闘編です。できる限り早めに投稿したいと考えていますが……しばらくお待ちください。
【補足】研究用、とサブタイトルにもありますが実際に研究用魔石と一般用魔石は異なります。基本五種類でいえば、一般用はある一定の量の水を出す水の魔石と火の魔石の二種類が主です。同じ火の魔石、水の魔石のグループなのにどうして違う効果なのかについては後に説明する予定です。
今の段階では、取り扱う魔石が違うから(種類が同じだけで、実際には異なる魔石と言ってよい)だと思っていただければ問題ないです。




