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10話~「プライドと練習」~

前回のあらすじ:魔力についての授業があった。


そういうわけで、昨日まで書いた部分の続きです。

読み直して不自然なところは直しました。


変更点:ロベール・ヨーク関連の言葉を変更

 本日最後の授業は魔法演習である。

この授業に関しては、教室ではなくて動きやすい服装で広場……前世で言う、体育館のような場所に集まるよう指示されていた。


 担当はマキュベスとヴァ―ドン。

マキュベスも、ヴァ―ドンも三十代半ばであるがこの学院ではまだまだ若手。

加えて教授力自体、二人とも抜きんでている。

そんなわけで二人とも研究の才能があるものの、授業の配当が非常に多いのであった。


「はぁ、魔法演習担当のアルマ・ヴァ―ドンでーす。

以後よろしく」


「……ヴァ―ドン先生、なぜもう一度挨拶をしたのですか?」


 ため息をつきながら、やる気なさそうにもう一度挨拶するヴァ―ドン。

それに突っ込むマキュベスだが、


「うるせぇ! 何となくだ何となく!

……とりあえず、説明はグラマー先生、よろしくお願いします」


 と挨拶だけ丁寧にして後ろに下がるヴァ―ドン。

先生、と言っておきながら敬意よりも親しみを感じる態度。

イサマはこの二人はどんな関係なんだろうと思っていたが、マキュベスが前に出たためにいったん思考を打ち切る。


「自己紹介はもういいですよね。

この授業では、皆さんに実際に魔法を使ってもらおうと思っています。

厳密には魔法というより、魔力の扱い方の練習を体で覚えてもらおうという授業ですね。


成績に関しては、十月ぐらいに行われる魔法武闘会で決定します。

ただ、この授業でどれくらいできたかである程度判断しますので、ぜひとも本気を出してくださいね」


 と、さらりと説明する。

色々と聞き逃せない情報があったためか、頭に疑問符が湧く魔石学部クラス。

それを察知したためか、マキュベスが質問があるかということを聞くと一人手を挙げた。


「ちょっと、待ってください!

我々が魔法を使えるというのは、本当なのだろうか!?

他の方はわからないが、私は少なくとも貴族の血を引いているわけではない!」


 メリーナ・ザンダーが吼えるように質問する。

彼女……というより、この国の常識として。

魔法と言うのは、貴族あるいはその血を引き継いだものしか使えないものとされている。


 騎士家という、身分に厳格な家で育った彼女にとってその違いについては見逃せないものであった。

他はともかく、自分は魔法というおおそれたものを使えるはずがないと、彼女自身は信じ切っている。

なぜなら、そういう家ではないから。それが常識なのだ。


 他にも、その疑問はスメラギ皇子以外の全員が思ったようで、顔を曇らせていた。

だがイサマはその顔から一転、最終的には何か閃いた顔に変わる。

マキュベスが少し呆れた顔をして、答えていく。


「もしかして、まだ皆さんは魔法理論学でそのことを教わっていないようですね……

ヴァ―ドン先生」


「仕方ないだろう、今日は魔力の定義だけで精いっぱいだったのだ。

貴殿が渡した授業日程は厳しすぎる!」


 責めるマキュベスに、それに悪びれもせずに弁明するヴァ―ドン。

生徒であるイサマからするとため息ものであったが、言い分に関してはヴァ―ドン先生の方が正しいと感じている。


 今日行った魔力の定義と言うのは、恐らく魔法をこれから取り扱う上で非常に重要なものである。

その定義の説明だけで今日の授業は十分なほどに密度がある。

それ以上を行え、というと恐らく生徒側が消化不良を起こしかねないほどに。

ゆえに彼はその内容で納得していたのであった。


 そんなわけで、大人げない二人の言い合いをただ見ているクラスメイト。

言い合いが終わったのか、盛大なため息をつきながらマキュベスが説明を始める。


「わかりました、わかりました。

細かいことは、このヴァ―ドン先生に来週以降なりに聞いて下さいな。

今は簡略に説明します。


先ほど質問が出てきた魔法、というものは所謂貴族……それも個人の魔法に関してです。

例えば、四大公爵家の方が使う魔法というのはその区分に入ります。


さて、今回皆さんに行ってほしい魔法はそちらではなくて、一般人でも使えるとされている魔法についてです。

この魔法は、身体能力を強化する魔法と言われています。

その練習として、この授業があると思ってください」


 色々と説明を端折り、目的と事実だけを述べただけのような説明であった。

それゆえに一部の人を除いて理解するのに時間がかかっていた。


 具体的には、貴族組の人達は口をあんぐり開けて、ショートしている。

未知の事実に、貴族社会の前提となる魔法についていろいろと崩されてしまったから。

庶民組の方が、最初こそ動揺していたが今はすんなり理解していた。


 ちなみにまったく動揺していないのは、隣国からやってきた二人とアデレードとイサマぐらい。

それも無理はなく、このような今までの常識を覆す話をされて、呆然としない方がむしろ珍しい。

隣国二人やいろいろと特殊なイサマはそのような常識を持っていないがために、理解を示していた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!

そんな魔法、聞いたことがないぞ!」


 といつにもなく切迫した表情をする貴族組のロベール・ヨーク。

授業がない時は寝ていて態度も悪い彼が、このように取り乱して誰かに聞くというのは非常に珍しい光景である。

マキュベスは、それに頷きながら


「でしょうね。

最近判明した……というより、定義したものでありますから。皆さんの勉強した教科書には載っていないでしょう。


 そこら辺の細かい話は、この横の先生に任せるとして。

とりあえずは、その証明がてら実演を行いましょう。

というわけで、ヴァ―ドン先生、お願いします」


 はいよ、と言いながら彼が前に出る。

そして目をつぶりながら腕を等間隔にすこし広げた。

生徒たちが何が始まるのだ、と思っていると急に先生の方向から反対側に体内から力が生じ始める。


 イサマも一度体感したことのある力がこの場で再現されたことに、少し驚いている。

血液が体外に溢れ出すような力というのは、例の実験の時に感じたものと似ていると思い出す。

しかしさらにその力が大きくなっていくにつれ、過去のことを考えている余裕がなくなっていた。

最終的には、体を守るように腕を前に出して中腰のまま耐えていた。


 そして、ふとした瞬間に先ほどの先生と反対側に作用していた力が消えたように感じた。

終わったのかと彼が思った瞬間、ふと先生側へと少し引っ張られる。

それに疑問を持っていたが、すぐにその力は消えてしまう。

何だったのだろうか、と思ったものの記憶にメモをしていったん思考を閉じる。


 他のメンバーがどうなのか、が気になった彼はあたりを見まわすとアデレードと留学生の二人は直立不動で立っている。

しかしエルドゥアンが少し汗をかいているのに比べると、二人は平然として立っていた。


 貴族組は、まるで運動した後かのような体調であった。

しかし、それでも手を膝に付けているが立ち続けている。

特にロベール・ヨークは茶色の長髪に汗をにじませながらも、多少息が荒くなる程度。


 もっと極端なのは、ジュリアン・メーアとメリーナ・ザンダーの二人。

二人とも、まるで喘息症状を示すかのような息の荒さ。

その顔には、大粒の汗が絶え間なく生じている。


 庶民組は、全員腰を下ろしていた。

否、立っていられなかったといえる。

精一杯空気を吸っており、とてもではないが立つことなどできやしないと、イサマは観察していた。


「やれやれ……今のでこれだけ尽きるとはな。

これじゃあ武闘会はどうなることやら」


 そうぼやいたヴァ―ドンに、マキュベスはその頭を軽くはたく。急な衝撃に驚いているヴァ―ドンへ


「ヴァ―ドン先生、やりすぎです!

彼らの中には魔力になれていない生徒もいるのですよ! そんな人たちにいきなりそれなりの魔力をぶつけたら立っていられないでしょう!」


「あのな! お前が俺に頼んできたんだろ!

これでも調節してやった方だ! というかこれぐらいに耐えられないと、とてもじゃないが魔法武闘会に間に合わないぞ!」


 と、再び騒ぎ始める二人。

その最中に体力を回復するクラスメイト。

イサマも多少体力を消費していたので、ある意味ちょうど良いタイミングと言えた。

そんなコントのような言い合いを終えたのか、ヴァ―ドンが先ほどの説明を行う。


「まあいい。

今、お前たちの内側から力を感じただろう。それが魔力だ。

詳しいことは来週にでも話すから、とりあえずお前らは体内に魔力があるということを認知しておけ」


「補足ですが。

多くの貴族の方もこれで魔力を認知しています。


今回はこのヴァ―ドン先生が荒っぽく魔力を使ったために、疲れているようですが本来はもっとうまくやります。

とりあえず、魔力を認知できた人はそれを動かす練習をしてみてください」


 と、二人とも息の合った説明をする。

そして実際に動かそうとするクラスメイトだが……それを実際に行っている人は貴族組とアデレードとイサマだけであった。

庶民組は、目をつぶって動かそうとしているらしいが全く変化がない。


 それを見たヴァ―ドンとマキュベスは肩をすくめながらその人へ向かう。


「魔法を使うにあたって、一番基礎なのがこの魔力の感知だ。

体内に魔力があることを理解して、動かす。でなければ、使うなんてまた夢の夢。

ただ、この段階で躓くやつも多い。


 お前らみたいな年齢のやつが一番目覚めやすいといわれている。

だからこそこういう教育を組んでいるわけだが……とりあえず、できる奴はそのまま動かす練習をしておけ。

今から俺たちはできない奴をできるようにしてやる」


「できない方たちも落ち込む必要はありません。

貴族でも感知だけで何年もかかった、という話はよく聞きます。

ただ前期中にできてもらわなければ、皆さんに単位はあげられません。


今日の感覚を覚えたら、毎日意識してください。そしてどんな時でも使うように訓練してください。

そこまで出来て初めて、後期で魔法のことについて勉強する権利が得られます」


 と、先生二人が中々厳しいことを言う。

実際、貴族の場合は幼い時からこの練習を行っている。

本来は十五ぐらいがちょうどよいのだが、この後の訓練を考えると若ければ若いほど良いために、早めに訓練を積むケースが多い。


 それに二人とも無理を言っているわけではない。

事実、もしこの段階で躓くような人であれば、入学試験で落とされている。

あの魔石試験の意図として、この訓練を半年間でできるような人材を選出したといえる。


 イサマも、庶民組の方を傍目で確認しつつも魔力を動かす練習を始める。

本来動かすといえどもどのように動かせばよいのか、わかるはずもない。

貴族組は、その練習を幼いころから積んでいるためどのようにすればよいかはわかる。


 しかし、イサマは庶民。

マキュベスに育てられた……のだが、実際のところは彼に魔力の扱い方については教授してもらったわけではない。

言ってしまえば、感覚派ともいえるのだがそれでも動かし方を知っている。


 体内の血液をイメージして、循環するように動かそうとすると……見る見るうちに体内から力があふれてくる。

どことなく、心もどんどん高揚していくように感じる。

このまま循環させるとどうなるだろうか、と彼が思っていると横からクラス全員に声がかけられる。


「おやおや、これは魔石学部の皆さん。

ごきげんよう」


「……ええ、ごきげんよう」


 イサマが挨拶する前にマキュベスが現れた。

声の下方向を見ると、カールしたような部分が前髪である灰色の不気味な大人が立っていた。

容貌だけならまだしも、なぜか微笑を浮かべているためにイサマは近寄りがたく思えていた。


「グラマー先生、困りますな。

ここで練習なさっては。この時間は貴族クラスの授業で使うはずでしたが?」


「? そんなはずは……」


 というが、その先生が取り出したものを見るとマキュベスは目を大きく見開く。

そして丁寧に返した後に生徒達へ


「……すみません。今日は撤収です」


 そう言い放つのであった。

なんでもダブルブッキングであったそうだ。

そのために自分たちがその場から離れなくてはいけないようで。

せっかく良い調子であったのに、ということで全員が暗い表情になって動こうとするが、リュシアンが


「待ってください! あともう少しでできそうなんです! もう少しだけ……」


 と言うのであった。

彼は大粒の汗を流していたが、その顔は必死で何かにすがるような表情であった。

それを見た先ほどの先生のそばにいる生徒が


「ふん、庶民が……。

はぁ、それにしても私には理解できない。

庶民に加え、貴族のくせに魔法の才能がない人達に税金でわざわざ教えるなんぞ……」


 庶民組と、そしてスメラギ皇子以外の貴族組を一瞥した後、捨てるような発言をする。

それを聞いて、庶民組よりもむしろ貴族組の顔に青筋が立っていた。

そして、ロベール・ヨークが爆発したようで


「おい、あんたたち。今俺たちが練習中なんだ。後にしてくれ」


 というのだが、彼の生徒はやれやれと言わんばかりに肩をすくめてから


「はぁ……やはり、お坊ちゃまは礼儀も知らないようだ……

これだからアデレード・チルコット令嬢やルラナイト・スメラギ皇子と言った大物以外の寄せ集めと話すのも嫌なんだ」


「ええ、彼の言う通りです。

そもそも、学校では身分制度よりも実力の方が重要。

今の貴方に敬意を払うだけの実力はあるのですか? あなたのようなさぼってきた方に?」


 と、生徒にも先生にも完膚なきままに言い負かされるロベール・ヨーク。

実際この国では、実力がないものが権力を振りかざすことほど嫌われることはないとまで言われる。

今回は彼らの言い分に一理あるのであった。


 何も言い返せずに、下を向いてしまうロベール・ヨーク。

その様子を見た先ほどの生徒は鼻を鳴らし、踵を返そうとするのだがそこにマキュベスが声をかける。


「……はぁ。うちの生徒が面倒をかけて申し訳ありません。

ただ、一つ撤回していただきたい」


「ふむ? なんですかな、グラマー先生」


「魔法の才能がない、とおっしゃりましたがそれは彼らへの侮辱です。

撤回してください」


 マキュベスにしては珍しい、柔らかな言い方ではなく有無を言わさないような言い方。

彼にとって魔石学部と言うのは念願の魔石研究のための学部。

その生徒も、決して適性が高いとは言えないが、だからと言って魔法の才能がないといわれるのは心外。

ゆえに撤回を求めるのであった。


「お言葉ですが……グラマー先生、これに関しては彼の仰る通りなのでは?

貴族の方に関しては、魔法学部に入れなかった方の受け皿として実質的に機能しております。

庶民は言わずもがな、そもそも魔法の才能について議論するという方が無駄なのでは?」


「ええ、確かにそのようなことは事実としてあります。

ですが、それは入学した時点の実力の話であって、才能と言うのはまた別の話でしょう。

それともあなた方はたかが入学した時点の実力だけで、才能をお決めになるのですか?」


 その先生がマキュベスのことを煽るついでに、マキュベスも煽り返す。

貴族社会と言うのは、なめられた態度を取られて言い返さないと、レッテルにもなる。

ゆえに彼もいつになく強気で言い返すのであった。


「……ふむ、以前から思った通り私とあなたは相いれないようだ。

それにいくら口で話しても平行線のままでしょう。

ですから、実技で決めませんか?」


「それは、魔法合戦のことでしょうか?」


「しかり。貴方がそれだけ才能がある、と言い張るのですからもちろんお受けしますよね?」


 再び煽り返す先生。

これまでの話の流れから、この話を受けざるを得ない。

ゆえに条件を付加して受けることにした。


「……いいでしょう。とりあえず、お受けしましょう。

条件についてはまた後日」


「その返事をお待ちしていました。それでは、魔石学部の皆さんごきげんよう」


 と低い声で笑いながらその場を立ち去った。

例の貴族生徒も鼻で笑いながら元の場所へ戻ろうとする。

こうして、クラスの人の意志関係なく戦いに巻き込まれるのであった。

お読みいただきありがとうございました。

ちょっと最近事情があって、不定期更新になりそうですが……しかし頑張って投稿していきたいと思います。

それではまた。

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