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8話~「相対文化」~

前回のあらすじ:新入生歓迎会に招かれて、会場に着いた。


誤字報告、ブクマ登録ありがとうございます。

投稿が遅れ申し訳ございません。

 そうして、アデレードの案内に従って中に入ると。

中に受付を終え、パーティ会場へと進む。

その会場にはまさしく輝くような彫刻品、シャンデリア、そして普段お目にかかれないような絨毯などがあった。


「な……なんだこれは……」


「なんというか、この空間だけで疎外感を感じる」


「ここが今日の会場だよ!

さ! もうそろそろ開会式だから待っていてね!」


 といって、案内したアデレードがそばから離れる。

そうして取り残された四人。

場違いではないだろうか、とそわそわしているイサマとリュシアン。


 なお他の学部の庶民生徒もいたのだが、さすがに一緒のクラスでもない人に話しかけるだけの勇気はこの面子にはなかったようだ。

彼らもあまり落ち着いている様子ではなく、イサマたち同様そわそわしていた。


 一方、目を輝かせてあたりをうろうろしているリアンと、壁に寄りかかってじっとしているエルドゥアン。

まさに対称的な二人の姿のせいで周りから余計に目立っていたのだが四人に知る由はない。


「随分冷静だな……」


「ああ、この場所は初めてだが、こういう場所には何度か来たことがあるからな。

こんなもの慣れだ慣れ」


 とあっさり言うエルドゥアン。

留学生で見知らぬものが多いがゆえに、そういう対応に慣れてしまったのだろうか。

あるいは実は隣国の貴族なのだろうか、と考えるイサマ。

だが、その思考はいったん打ち切られる。


「これで…冷静だなんて…いられるわけがないじゃないですか!?

見てください、これ!

魔国時代の技術が使われた彫刻品がここにあるのですよ!」


 そう言いながら、指をさすリアン。

その先には対称性のある彫刻が飾られていた。

ちょうど中心で、鏡を映したかのような作品に芸術に詳しくないイサマも驚いている。


「これは魔国時代に流行していたシメントリーというものですよ!

今のコリオダ王国では主流ではないため、非常に珍しい文化です!

こっちも見てください!」


 次は絵画の方を指す。

繊細なタッチと生き物のありのままをかいたような図であり、生命の息吹を感じさせるものである。


「これは、当時魔国にいた狐のようなものを描いた絵ですよ!

これもコリオダ王国では見られない動物です!」


「あ~ちなみに、リアンさん。

これもコリオダ王国に……」


「もちろん! 無い文化です!

チルコット商会ってこんなにも魔国の文化に精通している人がいるなんて……はぁ~夢のようです!」


 とうっとりした目でつぶやくリアン。

確かに歴史好きの彼女からすれば、このような歴史…しかも今ではみられない芸術、というのであれば魅了されるのも頷ける話ではあるのだが……


「なあ、リュシアン。彼女って歴史以外にも芸術とかも好みなんだな」


「らしいな……ただ、あの姿を見る限りそうなのだろうな。

守備範囲が広すぎやしないか?」


「ふ、いいことじゃないか。それだけ教養があるということだ」


 各々ボヤく。

そうこうしていると、あたりが暗くなり壇上部分が明るくなる。

どうやら始まりの挨拶のようだ。


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。

今回は皆さまの入学を祝ってこのような回を開かせていただきました。皆さまの成長を願って……乾杯!」


 壇上には、白髪のやや切れ目で恰幅の良い男性が短く挨拶をした。

笑顔になった時はそれとなく信用できるような雰囲気を醸し出している。

なお、イサマはこの人が誰だかわかっていなかったがとりあえず拍手していた。


 そして本格的にパーティが始まる。

その形式は立食形式で、好きなものをとりあえず取っていくというスタイル。

あまり食べ物に興味があるメンバーではなかったのだが、


「おお! またもや……!」


「またかい、リアンさんや」


「ええ、そうですよ! これも由緒ある料理です!

昔の料理はやや濃い味が多かったと思うのですが、時代が進むにつれ特徴的な味が出るようになりました!

今の時代では出せないものなのですよ!」


「……君は食事にも詳しいのだな」


「ええ、当然です! 歴史と言うのは、政治とか国だけじゃなくて文化とか文明とかも重要なのですよ!」


 と胸を張るリアン。

彼女の言う通り歴史と言うのは様々な要因が積み重なってできるもの。

一つの物事を取ってしても政治的な都合、科学力、および外交関係などそれらが複雑に絡み合う。


 それらをすべて把握するというのは土台難しい話である。

言うなれば魔法を科学的に見ようとしているのがイサマであれば、それを他の視点で見ようとしているのがリアン。

ゆえに彼女の教養の深さに全員尊敬の意を示すのであった。


「まあ、確かにこれ美味しい……」


「そうだな。俺の村でもこういう料理は珍しいな」


「……悔しいが、確かに美味だな」


 その料理に留学生のエルドゥアンも、そしてあのリュシアンさえも舌鼓を打つ。

余談だが、彼らの使っているものはフォークと箸。

二刀流であり、それらを巧みに使いこなしている。


「気に入ってもらえて何よりだ、魔石学部所属の諸君」


「実際にこの料理は非常に優れていると思います。魔国の文化を忠実に再現しつつも、現代の味に合うように調整されている」


 四人が食べているさなか、近づいてくる二人の大人の影と二人の女性の姿。

声の方向を向くと、リアンとリュシアンは目を大きく開ける。


「こ、これはお二人とも、ご機嫌麗しゅう!」


「ど、どうも! 魔石学部のリアン・モンテインです! 招待していただきありがとうございます!」


 一方エルドゥアンとイサマの二人は他の人がこのような態度をとることから、それっぽい対応をするのだが、傍から見れば何もわかっていないということがバレバレである。

事実二人とも目の前の人物が良くわかっていないため、エルドゥアンがリュシアンに小声で聞いていた。


(なあ、リュシアン。目の前のお二方は何者なんだ?

片方は多分チルコット商会の挨拶をした人で、もう一人は貴族の方だろうが……でも、アデレードが貴族の人はあまり来ないって言っていたしな)


(まさか、知らないのか!?)


 と、こそこそ話しながら再び驚いたような顔をするリュシアン。

本来は目上の人の前にこういうことをするのは失礼なのだが、あまりの衝撃に忘れてしまっていた。

なおその話の内容は目の前の相手に聞かれており、


「ははは、これは失礼した。改めて紹介させていただこう。

私が、チルコット商会の長を務めさせてもらっているジョゼフ・チルコットだ。

そして、この方が……」


 先ほど壇上で挨拶をした男性が再び挨拶をする。

見た目はあまりアデレードに似ているわけではないのだが、笑顔になった時は似ているなと心の奥で思ったイサマ。

そうこうしているうちに、


「お初にお目にかかる、魔石学部新入生諸君。

水の公爵家、イアン家の長を務めているトーマス・イアンだ。

これからは君たちに授業でしばしば顔を出すことになるだろう。よろしく頼むよ」


 トーマス・イアンと名乗った、蒼い腰まで伸ばした長髪の線の細く端正な男性がゆったりと挨拶をする。


 二人とも新入生の無礼な態度に腹を立てることもなく笑顔で挨拶をするあたり、大人の余裕を感じられる。

それに影響されてなのか、イサマもリュシアンもぎこちないもののできる限り余計な感情を見せることなく挨拶した。


 そしてトーマス公爵の後ろで顔を背けている、青いドレスに長髪の少女。

一方食べ物片手に隠れている少女へあいさつしよう、と声をかけているアデレード。

そんな仲のよさそうな二人にニコニコしながら、トーマス公爵は


「アンナ、あいさつしなさい」


 アンナと呼ばれた少女は前に出る。

トーマス公爵に似て、線が細く白い肌。

違う点はややおっとりとした目つきなのと肩位まで伸ばしている蒼髪。


「……アンナ・イアンです。どうかよろしくお願いします」


 と挨拶すると、すぐアデレードの方へと行く。

その様子にトーマス公爵は苦笑いで


「いや、私の娘がすまない。どうやら人見知りのようだ。

貴族なのだから、本当はもっと社交的でなければならないのだがな……」


 そうこぼすトーマス公爵。

その顔は困ったな、という顔よりもあきれ顔であったが。


 アデレードと並ぶと紅と蒼の髪もさることながら性格面も対称的。

それでも二人の仲が良いのはアデレードの天性の能力なのか、あるいは共通の趣味でもあるのだろうかと思ったイサマであった。


 その後、大物二人が立ち去った後。

よくわかっていなかった二人は、リュシアンにこっそりと話を聞いていた。


「なあ、なんでトーマス公爵がこのパーティに参加した?

彼も庶民派の貴族なのか?」


「ああ、そうか。君は知らないのだったな。

……はぁ、まあいいだろう。

トーマス・イアン公爵。彼は数多く存在する貴族の中でも屈指の親庶民派の貴族だ。


先見の明がある方で、魔石を国内に取り入れるために動いていた第一人者だ。

グラマー博士が魔石を研究して基礎理論を確立した人ならば、トーマス・イアン公爵はコリオダ王国に魔石文化を導入した人物だといえよう。


魔石は、隣国ではすでに主要に取り扱われていて生活にも使われている。

コリオダ王国も昔から魔石を使っている地域もあったが、どの地域にも使えるようなものではなかった。それを覆したのが公爵の主な活動の一つだ」


 リュシアンの言うことに補足を加えると。

魔石というものは、貴族の特権を脅かすものであるために禁止されていた地域もある。

それを撤廃したのもトーマス公爵……厳密には、トーマス公爵一派の親庶民派の活動だ。


「では、そのトーマス公爵やらが魔石の大手であるチルコット商会と親密な中なのもそれの一環か」


「……まあ、そうだな」


 エルドゥンのセリフに、渋々ながらという雰囲気を隠しもしないリュシアン。

突っ込むか、突っ込まざるか迷っていたイサマであったが……結局は控えることにした。

色々と複雑そうな事情が見え隠れしていることと、まだ出会ったばかりのために話してくれるかわからなかったから。


 とはいえ、この雰囲気のままでは重苦しいために違う話題を探すイサマ。

何となく、というか直感で


「そういえばリュシアン。

不勉強で申し訳ないのだが……他に魔石の商会というのはどういうところがあるんだ?

一社だけ、ということはないだろう」


「ああ、もちろんあるぞ。

基本的にチルコット商会が取り扱っている魔石は四大貴族が使う種類のものが多い。

具体的には火、水、土、風の四つだ。


一方、研究用やある特定の場面……例えば、空間に影響するものではまた別の商会が輸出入を担当している。

そういう意味では、一強ではないな」


「確かに、俺の村でも違う商会がいくつかあったな……。

効果の違いは、やはりとれる場所によるものなのか?」


 エルドゥアンが自分の時の思い出を振り返りながら発言する。

彼の村にチルコット商会の手が届いていないために聞いた質問なのだが、


「……一般にはな。チルコット商会は最大の発掘場があるらしい。

まあ、どこかまではわからないが。

一応さっき言った商会も国内や国外にそういった発掘場があると聞いている」


 と、スラスラと説明するリュシアン。

やはり魔石関係では詳しいのだな、と()()に納得する事実を見ていると……


「ちょ、ちょっと!」


 という女性の声が聞こえる。

そちらの方へ見ると、やや背の高い青年がアデレードへ声をかけていた。


「アデレード・チルコットお嬢様。少々お時間を頂きたい。

コリオダ王国についてやチルコット商会についてなど。いろいろとお話を伺いたいのだ。

宜しいだろうか?」


「え、えーと……申し訳ないのですが、今はお友達と話している途中でして……」


「ふむ、ではそのお友達とも一緒にどうだろうか?」


 中々諦めない背の高い青年。

彼女の言うお友達、というのは例のアンナ・イアン令嬢であるが彼女はその青年をにらみつけている。

しかし、青年は一切動じないあたりそれなりに度胸があるのかもしれない。


 アデレードが視線をうろうろしていると、イサマと目が合う。

そしてアイコンタクトで助けてくれ、というのを伝えた彼女。

なかなか器用なことをするな、と思いながらも見捨てるのも忍びないということで助けようと割り込みに行こうとする彼だが……


「恥ずかしがらずによいではないですか。さあ、こちらへ……」


「きゃっ!」


 と、青年が頭を垂れながら手を伸ばしたのだが……それが偶然アデレードの体にあたってしまった。

イサマの助けを期待したせいで、彼女がそちらの方へ体を動かしてしまったからであるが、とにもかくにも女性に手を出してしまったことになる青年。


 それだけなら、事故で済んだ。

しかし不幸なのは、その場にアンナ・イアン令嬢がそばにいたことであった。

彼女がそれを見た瞬間、その周囲の世界が冷えていく。


 アンナ・イアン令嬢が青年へ殺気を見せる。

体内から魔法の源……魔力なるものがあふれており、それが周囲を巻き込む結果となった。

彼女の近くの食べ物が水分を帯びる。


 これは、彼女の魔力コントロールの甘さによるものと言えよう。

一般に体内に魔力を持つ人は、それを体外へ微量なりとも出しているのだがそのたびに物が燃えたり冷えたりしたら貴族は生きていけない。


 ゆえに幼少期にそう言った操作術を教えてもらい制御するのだが……。

アンナ令嬢の目には、アデレードに手を出した男への怒気しかなくてそんなことが頭に残っていなかった。


 青年も、何が起きたかわからずに尻餅をついてうろたえていた。

彼も一応アデレード嬢に手が当たってしまったことは理解していたが、事故であると思っている。

だから隣の友達がこのように怒気を巻き散らかしている状況がさっぱりわからなかった。


 そういうある意味の硬直状態。

アデレードがアンナ令嬢にやりすぎだ、と声をかけようと思ったその時。


「あー、っと。アデレード! 今、リアンたちが呼んでいたぞ!

そういうわけで失礼します~!」


 といって、イサマが彼女の声に掛けてその背中を押して急いで連れていく。

イサマの行為もアンナ令嬢の逆鱗に触れるものであったが、それを発動させる前に。


「アンナ。何をやっているんだい?」


「……お父様。これは」


「はぁ、()()()()()()()と言ってはしゃぎすぎだ。控えなさい」


「……はい」


 一瞬で矛を収める彼女。さすがに実の父を目の前にして逆らう気もなかったようだ。

そうして彼女の怒りは何とか収まることとなった。

目の前の男性にもトーマス公爵は近づいて


「うちの娘が申し訳なかった。この通りだ」


 頭を下げるトーマス公爵。

なお青年は、もう関わり合いになりたくないということもあって


「こ、こちらこそすまなかった! そ、それでは失礼する!」


 すぐ挨拶してからその場から立ち去ることとなった。

この青年が可哀想な結末であったが、場を収めることには成功したようだ。


 一方、イサマとアデレードは。

彼女の背を押しながらあの場から離れる。

イサマもあの魔力を放っている空間の中に長く居たくなかったからだが。


「も、もういいよ! ありがとうイサマ君!」


 という声も聞こえたためにアデレードを解放した。

色々と慌てていたために二人とも少し服装が崩れていたが、何よりも


「あ、友達のアンナ・イアン令嬢を置いてきてしまったが……大丈夫か?」


「あ~……彼女なら、多分父のトーマス・イアン公爵に叱責を受けているだろうから……まあ大丈夫だよ」


 と濁す。

まさかああいう状況になるとは、アデレードもわからなかったために少し息を整える。

漸く彼女自身の雰囲気に戻ってきた。


「まあ……災難だったな。ああいう輩はもっときっぱり断らないといつまでたっても居座るぞ」


「いや~申し訳ない! 中々良い断り方と言うのもわからなくて。

きっぱり言っていいのかわからないんだよね~」


 てへへと言いたそうな顔で笑う彼女。

チルコット商会の娘ならこういう経験も積んでいるのだろうと思っていただけに、イサマは多少驚きを覚えていた。


「ま、何はともあれ……改めて、ありがとうイサマ君!

私はリアちゃんのところへ向かうから、また何かあったらそっちに来てね!」


 といって立ち去って行った。

その時の彼女の笑顔はまさに()()()()()輝いていたために彼の心にしばらく残ることとなった。


 こうして入学式、および新入生歓迎会という激動の一日が終わることとなったのである。

お読みいただきありがとうございました。

いつもでしたら、この歓迎会だけで四話ぐらい使っていたでしょうがとっとと切り上げました。

では次はまた新しい話になるかと思います。

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