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7話~「一歩先へ」~

前回のあらすじ:自己紹介終わった。


誤字報告、ポイント評価ありがとうございます。

テンポよく進める、と言っておきながらあまり進んだとは言えませんがとりあえずどうぞ!

 そして、ホームルームならぬクラスでの自己紹介が終わった後。

紅色の髪をした少女、アデレードからお呼びがかかる。


「ねえ、イサマ君。これから私の家で入学祝をやるのだけど、一緒にどうかな?」


「え…と? それはチルコットさんのご家族で行うものなので、私が参加するのはどうなのでしょうか?」


「あ~問題ないよ。入学祝っていうのは、いろんな人が集まってやるものだから!

せっかく一緒のクラスメイトになったし、親睦を深めるという意味でも!」


 と、ぐいぐい来る彼女。

アデレードの言い分としては、入学祝というのは魔法学院に入学した庶民の子供が主に集まって行うものであるという。


 庶民中心のものであるため、貴族は来賓であったり庶民人気の高い人物が来るという。

そのため、イサマもどうかというものだった。

確かにそれならば参加しても問題ないなと彼は思ったのだが、それ以上に頷かないと退かないだろうということで


「はい、わかりました! 私も参加します。

服は正装の方がいいですよね?」


「問題ないよ。いつもの服で大丈夫! 

お偉い方とか来るけど、その人達は服なんて気にしないよ!

それに主役は私たち学生だから!」


 どんどん逃げ道をふさぐアデレード。

そこまでして参加してほしいのか、と呆れの果てに苦笑いするイサマ。


「あと、イサマ君!

同じクラスメイトなのに、なんで敬語なの?」


「えーと……いや、ほら。

私と皆さんだと育ちとか教養とかいろいろ違うと思いまして」


 とどこからか持ってきた理由を持ってくる。

急に聞かれたためにとっさに思いついた答えをしていたが、実際のところは他人に壁を作る気満々であった。


 そのせいで、勘違いをしたアデレードはしまったという顔のまま黙ってしまう。

適当な理由をでっち上げただけで、彼女を黙らせようと思ったわけではないイサマはこの雰囲気は気まずいと思い、


「あ、でもチルコットさんって私と同い年ですよね?」


「え? あ~……」


「でしたら、敬語じゃない方がいいですよね?」


 と、自分から譲歩に動くイサマ。

彼からしても積極的に人と距離を取りたいわけではなく、それにこのまま誤解させてしまうのも不都合ということでこのような発言をした。


「それはもちろん!

良ければ、あだ名呼びでもいいよ! アレードとか、レードとか!」


「さすがにそれは馴れ馴れしすぎるから、最初はアデレードにしておくよ」


 彼女がいきなりあだ名呼びで良い、というために困惑するイサマ。

彼は前世でそれなりに友達がいたのだが、彼女のコミュニケーション能力に圧倒されてしまう。

人との話し方を忘れているな、とどこか見当違いなことを考えているイサマ。


「……ふーん。イサマ君って、最初見た感じよりもずっと真面目なんだね。

私の友達とかは、すぐにあだ名呼びしてきたんだよ~イサマ君もそれでいいのに~」


「それは相手も庶民だったからじゃない? 今は一応魔法学院内だし、あまり親しくすると勘違いされるとも聞いたから」


「ああ、確かにね。まあいいや、じゃあイサマ君!

夕方の時間に学校の門の前で集合だよ! またね!」


 といって、違う人に話しかけるアデレード。

彼がざっと目で追って確認できた人は、歴史オタクのリアン・モンテインとリュシアン・メニルの二人。

リアンの方は自己紹介の時の流れもあって、割と納得していたが予想外なのはリュシアン。


 彼は常識には疎いが、空気を読む能力自体は決して低くはない。

自己紹介の時にリュシアンはアデレードのことを一方的に敵対視していたように見えていた。

そのために話しかけづらいだろう、と思っていたのが一切臆することなく話しかける彼女に驚嘆さえ覚えるイサマ。



 そして、夕方。

マキュベスに何か正装用の物はないか、と聞いたのだが生憎と貴族用の服しかないと言われて仕方なく制服でやってきたイサマ。


 制服も確かにセンスが良いのだが、こういう歓迎会に制服でわざわざ来るのも恥ずかしいと思いながらも、普段服の方がより恥ずかしいということで比較の都合上そちらを選んだ。

まさか庶民用の歓迎会に貴族の服を着るなんて空気の読めないことをやる訳にはいかないからだ。


 待ち合わせ場所にたどり着くと、すでにそこには数人いた。

一人はやはり見たことのない服装をしている、留学生のエルドゥアン。

他にはきっちりとした一張羅を着ている件のリュシアンや、白いワンピースのような衣装をしているリアンがいた。


「えーと、お待たせ致しました?」


「……君のそれはツッコミ待ちなのか?

まず、我々もここに来たばかりだ。あと、なぜ疑問形なのだ。

最後に、なぜ敬語?」


「えーと、確かさっきレードちゃんとの会話の時の『自分には教養とかがないから』でしたっけ?」


「とりあえず、メニルさんはありがとうございます。

……なぜモンテインさんがそれをご存じなのですか?」


 リュシアンが律儀にもイサマの突っ込みどころのある発言に過不足なく突っ込み、リアンがアデレードとの会話を聞いていたかのようにさらっという。

ゆえにイサマはツッコミよりもそっちについて言及した。


「まー、レードちゃんとの話は良くも悪くも目立ちますから!

あ、私には敬語じゃなくていいですよ。それに、リアンって呼んでください」


「そうだ、お主の発言通りとすると俺も教養が無いから敬語を使わないといけないからな。

だから俺にも敬語でなくて構わん。エルドゥアンとでも呼んでくれ」


 と、さらりと混ざる留学生エルドゥアン。

何はともあれ、リアンもエルドゥアンも敬語を使わない方がいいといったためにイサマも


「わかったよ、よろしくな。リアン、エルドゥアン」


 あっさりと崩すことにする。

彼の目的は学問を修めることであるが、クラスメイトと仲良くなった方が良いだろうという判断によるもの。


 それにアデレードだけ壁を崩しておいて、他の面子にはそういうことをしないというわけにもいかないという理由によるものである。

実際のところ、彼もせっかくの学生なのだからいろんな人とふれあっていきたいと思っていたからであるのだが。


「そういえば、僕にも敬語を使っていたな。

僕もリュシアンで構わない。君は貴族でもないようだしな」


 そういって、手を出すリュシアン。

彼は見かけによらず……いや、割と真面目な青年であるためかこのようなことが比較的好む傾向にあるようだ。


「ああ、わかったよ。よろしくなリュシアン」


 と、握手する二人。

最初の自己紹介の時は一切お互いのことが分からなかったが、直接話してみると思ったよりも話しやすく性格も良い人物だとわかった。


 まあもちろん、自己紹介が無ければそもそもこういう機会に恵まれなかっただろうから、決して無駄ではないだろうが……

マキュベスも遠回りをしている、と遠巻きながらイサマは感想を抱く。


「あ、そういえばエルドゥアン君。

貴方もレードちゃんが付けたあだ名で呼んでいいかな?」


「構わんぞ、たしか『エル』だったか?」


「わかった、よろしくねエル君!」


 と、エルドゥアンとリアンの二人も話がまとまったようである。

庶民と言うのは特別仲がいいわけではないのだが、やはり魔法学院という閉鎖空間の都合上庶民同士は結束が結びやすいのだろうか。


「あ、みんな揃っている! おーい!」


 と、そのようなことをしていると遠くから声が届く。

そちらへ目を向けると、アデレードが真っ赤なドレスをなびかせながら近づいてくる。

夕の時で太陽が輝いていたためか、ドレスの光の具合につい目を奪われてる四人。


「お待たせ! ……しかし、服装で各々の個性が出ていますな!

ま、歩きながら話そうか!」


 アデレードが先頭に立ち、それに四人が後ろについていくという形。

彼女が積極的に話題を振るため、この集団が話に詰まることはなかった。


「リアちゃんは清楚なお嬢様だね! いやーかわいいよ!」


「えへへ、ありがとうレードちゃん!」


 褒められたことに素直にはにかむリアン。

あの異様な雰囲気の自己紹介の時から仲がよさそうにしていたのもあって、波長が合うようだ。


「リュシアン君は、想像通りすっごく決まっている衣装だね。

中も外もしっかりしていて、かっこいいよ!」


「……それは、どうも。君の家も楽しみにさせていただくよ」


 と、先ほどのイサマとの和やかなものとは全く違う雰囲気を醸し出す。

どうやら、リュシアンには何かアデレードに思うところがあるのだろう。

根は悪い奴ではないのだから、お互い仲良くすればいいのにと思うイサマであったがことはそう簡単ではない。


「そして、エル君!

見たことない服だけど……エル君の金髪もあって似合っているよ!」


「ふ、ありがとう。アデレード殿。

そういってもらえて何よりだ」


 他二人に比べると淡白な様子のエルドゥアン。

一応顔には笑みを浮かべているのだが、笑顔も言葉もそれ以上でもそれ以下のものではないとイサマは判断していた。

喜んでいない理由は、服装にこだわるタイプではないからだろうとイサマは納得していたが。


「そして……イサマ君は……

うん、いつも通りだね!」


「…レードちゃん、無理にほめようとしなくていいよ」


「あんまり私服は持っていないもので……それに、この制服は結構機能性が良いから」


 イサマがフォロー替わりに制服のフォローをするのだが、この場では悪手であった。

どうやら彼には私服のセンスもないようである。

それを見かねたリュシアンが、


「さすがに制服一着では不便だろう。替えを二着ぐらい買ったらどうだ?」


「そうしたいのはやまやまだけど、お金も仕事もないからなぁ」


「……良ければ、仕事を斡旋してやろうか? 稼ぎがいいわけじゃないが」


 そんなイサマにあきれ顔になって、つい声をかける。

彼の事情を考慮すると、恐らく本当に金がないのだろうということで自分の知っている仕事を紹介しようとするリュシアン。


「え、いいの? ……今更だけど、今日であったばかりで信用できるかわからないんじゃないの?」


「まあ、そうだな。それに、仕事自体も今すぐできるわけでもない。

しばらくしたら僕の家で仕事が生まれるから、その時の君次第だ。

僕の家も労働力を確保できて、君は金を獲得できる。利害関係というやつだだ」


 目をそらしながらそんなことを言うリュシアンだが、助ける言い訳にしか聞こえなかったようで。

自分のどこを信用してくれたのかわからないが、仕事をもらえるためありがたい話には違いないと思ったイサマは、その時になったらぜひともという返答をしておいた。


「お二人さんとも、仲がいいね~。

さ、着きましたぜお客さん。どうぞどうぞ!」


 というと、アデレードはあるホールともいえるような建物の前に立つ。

というのも、学校で使った入学式のホールよりも大きくそれでいて、絢爛豪華であったから。

ここが彼女の家の一部で、会場……ということで全員が舌を巻いている。


「さて、改めまして……。

ようこそいらっしゃいました、皆様。

ここがチルコット商会の誇る館でございます」


 アデレードが改めて、流れるように華麗なあいさつをする。

先ほどの気さくで人懐っこいという態度は鳴りを潜め、今はチルコット商会の娘に変身していた。

自分は良くも悪くも、そういったことはできないなと彼女のひらひら舞うドレスを見ながら思うイサマであった。

お読みいただきありがとうございました。

人間関係の方はじゃんじゃん進みましたね。

まあここら辺はサクサク進めたいところではあります。


あ、次回は明日投稿します。それで次の話に行きたいと思います。

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