6話~「今日への一歩」~
前回のあらすじ:自己紹介が始まった。
遅れてしまい、申し訳ございません。
ブクマ、ポイントありがとうございます。
二人の自己紹介……というには、あまりにも覇気がなくやる気が見られないものであったがとりあえず続けていく。
次の生徒を促すマキュベスだが、本人が反応しない。
「次、ロベール・ヨーク、自己紹介してください」
「……なあ、マキュベス先生。俺は自己紹介したくないのだが」
「ダメです。その場合、貴方がどれだけ良い成績を挙げようとも単位をあげませんよ。
少なくとも一年はこのクラスに所属してもらいます」
とナチュラルに脅すマキュベス。
イサマの前世のように単位……要はその授業を受けてきちんと理解しているか否かの基準となるものが存在する。
端的に言えば、その単位が無ければ卒業できないため生徒は必死となって勉強する。
さて、マキュベスにそんな権利があるのかと言えば実は存在する。
彼が魔石学部のクラスの担任であるため、言ってしまえば彼の裁量一つで進級の可否が決定する。
そのためこういった脅しも使えてしまうのである。
とはいえマキュベスも学院生時代の時、このように単位で脅すというのを好ましく思っていなかった。
生徒の実力だけで合否を決める先生を好んでいた彼だが、成長して先生になることで単位で脅す方法もあることを理解してしまった。
実際、マキュベスが命じたことは理不尽な要求でも個人的な事情があるわけでもないため、それを守れないとなるとそもそも根本的に問題があると言われるだろう。
彼に事情がないわけではないが、それは個人のモノであって学院が遠慮する必要がないものであるからだが。
そのため露骨に嫌そうな顔をして口調も怠そうに自己紹介を始めるのであった。
彼はさらさらとした薄い茶色の長髪をなびかせている。
顔立ちも整っており、貴族であることをうかがわせるがそのすべてが猫背と目つきの悪さで台無しである。
「ロベール・ヨーク。
特技はない。抱負は今年で魔石学部を卒業して、魔法学部に転入すること。以上」
と雑なあいさつで締めた。
質問がある人、とマキュベスが聞いたものの彼の面倒そうな雰囲気にやられてか誰も手を挙げることがない。
そのため次の人に移ることになった。
「まぁ……いいでしょう。
次、リアン・モンテイン、よろしくお願いします」
そうして、肩位まで黒髪を伸ばした少女が前に向かう。
やや大きな瞳をしているため童顔と呼ばれるが、肌もきれいな麦色の肌をしているため貴族ではないことを考慮すれば、十分美少女の範囲に入るだろう。
「はい!
私はリアン・モンテインです! 好きなものは本と歴史です!
特技は速読です! 今年は魔石の歴史に関する文献について制覇していきたいと思います!
これからよろしくお願いします!」
と、今までの人の中で最もはきはきとしたあいさつをする。
その声も明るく、今までに漂っていた自己紹介への倦怠感が薄れていくようであった。
質問はあるか、ということをマキュベスが聞くと
「はい!
リアンさんは歴史と言いますが、どこの部分が好きですか!?」
先ほど手を挙げていた紅色の髪の少女が再び手を挙げて元気よく質問する。
その質問を待っていた、と言わんばかりにリアンは
「そうですね!
やはりコリオダ王国が建設された後も良いと思いますが、一番興味があるのは魔国との戦争部分でしょうか!
未だに分かっていない部分も多く、中々浪漫が広がりますよね!」
高速に返答していくリアンにタジタジになってしまう紅髪の少女。
心なしか彼女の顔はその返答を聞いたとき、一瞬大きく歪んだがリアンの熱意にやられたからだろうか。
「リアン・モンテイン! わかりました!
後は二人でゆっくりと話してください。それでは次行きます!」
マキュベスがそれを言うまで、ずっと熱弁を振るっていたためそれも仕方ないといえるだろう。
そういわれてしぶしぶと前から立ち去っている姿を見て、イサマは
(どうやら彼女は夢中になると周りが見えなくなるタイプのようだな……)
と他人に評価を下していたのだが彼も大概であるため人の事は言えない。
不思議と同族嫌悪ではなく、親近感が彼の中に沸いていたのだが。
「はぁ……まあいいでしょう。
次、エルドゥアン・カニ―ス」
疲れた様子で次の人の名前を言う。
彼からすると、やる気のない生徒かやる気がありすぎる生徒かという極端な二択でしかなかったため精神的に大変であったのだろう。
一応、補足すると魔法学部では貴族しかいないのだが基本先生の言うことには忠実である。
それは教師の実力を認めているからであり、ゆえに上下関係がしっかりしているからだ。
なのでこのように極端な生徒ばかりという方が異例と言える。
そうして、次の人が前に来る。
彼はコリオダ王国にしては珍しい外見である。
例えば淡い金髪で、縮れている毛。浅黒い肌に金色の瞳。
「あー……俺の名前は、エルドゥアン・カニ―ス。
隣国、スメラギ皇国からの留学生だ。趣味は剣を振るう事。
今年は魔石のことを多く知って、それを武器にすることか。
ま、よろしく頼む」
というわけで、そそくさと終えた後質問ある人と声をかけると二人の女性が手を挙げる。
そのうち一人は例の紅髪の少女であるが、もう一人はまだ自己紹介していない濃い赤髪をした少女である。
そのためマキュベスは先に後者の女性を指名する。
「待っていただきたい!
この魔石学部はコリオダ王国の財産! 我々のような庶民が入学するだけならまだしも、外国の方が入学するのはおかしくないだろうか?」
「確かに、その意見は一理ありますが……残念ながら、学園側が決定したことです。
その理由として起訴の魔法理論のみ勉強していただいた後、魔石について独自に学ぶからということだそうです」
マキュベス、というか学園側の言い分は。
魔法学院の魔法はコリオダ王国だけのものではない。
厳密に言えばコリオダ王国独自の体系があるのかもしれないが、それは文化の違いととらえられている。
隣国にも一般に魔法と言うのは知られている。
そのため基礎の理論に関しては外国も同じであるから、どちらで学ぼうと大きな差はないというのが理由の一つとなっている。
よって、応用の部分をやらなければ問題ないと判断しているという。
もちろんそれだけではないのだが、その言い分自体は間違っていない。
マキュベスも、隣国の研究発表を見る限り基礎の部分に関してはコリオダ王国のものと概ね同じと認めている。
加えて、留学生には応用の魔法学については学べないようにしている。
貴族との接点も貴族側から接触しなければ最低限、という風にしていう配慮がある。
それを含めても、あまりに強引な話と言わざるを得ないのだが。
(……なんというか、魔石学部というのはきな臭いな。
もしかして、入学したのは間違ったか?)
イサマも当然疑問に思う。
魔石学部という新設学部に、貴族以外も入学させて、そして留学生も受け止めている。
この中の一つだけでも大きな改革であるのに、それらすべてを一度に行っている。
これを不審に思うな、という方が無理な話と言える。
(……だめだ、わからない。俺を消すため……とか考えたが、貴族がいるというのはよくわからない。
篭絡、と考えてもこのクラスの面子から明らかに人付き合いが面倒そうに感じている人もいる。
何より、マキュベスがそういう選択肢を取るというのは考えづらい)
イサマ曰く。
コリオダ王国の事情はよくわかっていないが、これまで見た中で大体魔法がどのレベルまで使われているということは理解した。
そして、自分の研究が如何に問題になるかというのもおおよそ理解した。
そのためそれに対する処方としてこのような回りくどい方法をとったのか、と考えたがそれにしてはクラスメイトに違和感を覚えている。
そうなると、彼としては思いつかない。
これは自分のことを軸に考えたために、推理を間違えているのだがそれには気づいていない。
ただこれは仕方ない側面もある。
魔石学部が胡散臭い、ということと自分が入学を薦められたということをつなげたからである。
まだ彼はその背景の事情も知らないために、推理するにも材料が少なすぎる。
事実彼の研究は下手をしたらコリオダ王国の根本を揺るがすものであるため、部分的には間違えていない。
彼がひとりで考え込んでいるとき、先ほど手を挙げた赤色の少女は渋々納得したようで手を下げた。
しかし顔は全く納得しておらず、不満が表に出ていたがマキュベスはあえてそれを見なかったことにする。
そうして、次の人を指名した。
「はい! エルドゥアン・カニ―ス君はどういう魔石について深めたいと思っていますか?」
「ふむ、難しいな。とりあえずは、雷だとかあそこらへんか。
やはりかっこいいしな」
と挙げる彼。
雷という珍しいチョイスにマキュベスは多少顔を変えてしまったが、幸いにもそれに気づいた人はいなかった。
彼女もそれに納得したようですぐに質問を終える。
「質問は以上のようなので、次の人に移りますか。
メリーナ・ザンダー、よろしくお願いします」
といって、先ほどの濃い赤色の長い髪をした少女が前に出る。
その目つきは非常に鋭く、顔立ちもやや面長気味である。
庶民らしくない白い肌をしているものの、やや焼けているようだ。
「メリーナ・ザンダーだ。
趣味は槍を振るう事と言った鍛錬。抱負は、自らの体を鍛え上げて基礎魔法と同じ程度の精度にすることだ」
最初の方に比べれば、やる気は感じられるものの相も変わらず人と仲良くする気はないようなそぶりである。
質問はないか、と聞いても誰も手を挙げなかったため次の人に移ることとなった。
「はぁ……では、イサマ。
自己紹介お願いします」
と、マキュベスがため息をつきながらイサマの方をちらりと見る。
その瞳は頼むから、自己紹介としてまともなものを行ってくれというもの。
イサマ、という体では自己紹介は初めてだがその程度のことは前世で何度もやっている以上、さすがに心配されるのは心外だと思っているようだが。
「名前はイサマです。
趣味は魔法について調べること。好きなものも魔法現象を見ることです。
今年の抱負は魔法のことを深く理解して、魔石の時に応用できるようにすること。
それではよろしくお願いします」
簡潔に言い切ったイサマ。
残念ながらマキュベスの肩は下がったままであったが。
あまりやりたくない、と思いながらも質問を促すと案の定、二人の生徒から手が挙がった。
「二つ質問がある。
一つ目は、趣味は魔法について調べることというのはどういうことだ?
あれは貴族の方のみ使える代物だろう。貴殿が調べたところでどうするつもりだ?
二つ目は、どうして名前しか言わない?」
先ほどエルドゥアン・カニ―スの時と同様に、メリーナ・ザンダーが質問をする。
実際、一つ目は完全に貴族に対して快く思っていないことを表明しているも同然だから。
二つ目は純粋に名前には性と名があるにもかかわらず、名しか言っていないからである。
「一つ目ですが、言った通り最終的には魔石にも活かす予定です。
二つ目の方は……俺には性がわかりません。なので名前だけ言いました」
と、返答するイサマ。
一つ目の返答を聞いたときにあまりいい顔をしていなかったものの、二つ目のものを聞いてやや申し訳なさそうな顔をするメリーナ。
無礼な奴、と思っていたがまさかの親なし、ということにコメントを返すだけの余力が彼女になかったのだが。
ちなみにイサマはそのことについてはもう引きずってはいない。
変な雰囲気になっている中、もう一人の紅髪の少女も手を挙げる。
「はい! どうして魔法に興味を持ったのですか!?」
「……幼いころ、家族と一緒に魔法を見たとき不思議に思いました。
どうしたらあれを再現できるか、と。
今もその気持ちが主で取り組んでいます」
正直に答えてしまうイサマ。
彼の研究の原点を知ることになったマキュベスは納得したような表情をする。
しかし質問をした少女以外は全員呆れたような顔つきである。
当然だが、魔法を再現するというのは不可能に近い。
今では魔石というツールがあるものの、それは単純なものだけであるから。
魔法の完全再現は魔石ではいまだにできないと考えられている。
「へ、夢物語だな……」
「そんなこと、できるわけないのに……」
と、周りの声がしたのだが彼はあえて無視した。
そんな声は今までさんざん聞いてきたが、それを気にせず進んできたから今のものがある。
ゆえにやってもいないのに、できないなんて意見は聞く必要はないと考えているからだ。
そんなイサマにため息を漏らしながらも
「次、アデレード・チルコット。お願いします」
呼ばれて、次の人が前に出る。
彼女は長い紅髪に、黒い瞳。貴族と見間違うほどに白い肌、そしてつんとした鼻に薄い色素の唇。
イサマの中では、今まで見た女性の中で最も美しいといっても過言ではない。
「アデレード・チルコットです!
好きなものは食べること! 特技はポジティブなところ、そして魔石の扱いにはそれなりの自信があります!
今年一年でみんなと仲良くなれること、そして魔石のことについて深く知ることが目標です!
よろしくお願いします!」
明るい笑顔で、今までの中で最も明るい挨拶をする彼女。
今まで質問してきた人はアデレードであるのだが、この明るい挨拶を聞くと確かにそれも頷ける話だとこの場にいる全員が思ったのである。
その笑顔はある一人を除いて全員を巻き込むだけの綺麗なものであった。
そして、質問の時に珍しい人が手を挙げた。
最初に自己紹介をしたリュシアンである。
「質問だ。君の実家はあの大手魔石商人である、チルコット商会で間違いないか?」
「はい、父のことをご存じなのですね」
「……その割には、あまり似ていないように思えるが。
まあいい、質問は以上だ」
聞きたいことだけ聞いて、すぐに座ったリュシアン。
チルコット商会、という言葉が出た時点で教室に動揺した雰囲気が漂う。
しかし、他に質問はなかったためマキュベスは次の人に移った。
「最後です。ルラナイト・スメラギ皇子、お願いします」
「ああ、承った」
と言って、前に出る。
堂々とした雰囲気に、濃い金色の長い髪を漂わせて大きな金色の瞳をしている。
「紹介させてもらう。
私は隣国、スメラギ皇国第三皇子、ルラナイト・スメラギだ。
都合上、護衛もそばにいさせてもらうことを許してもらいたい。
特技は本を読むことだろうか。今年一年の抱負は、ぜひともスメラギ皇国にないものを取り入れていきたい」
堂々と知識の盗用について言ってしまった彼。
その態度のせいで、本来ならば突っ込むべきのメリーナも口を出せない。
それだけ威風堂々としているからと言える。
質問も、さすがに身分が違いすぎるためかアデレードもできないようであった。
他の人も動揺していたのだが一部の人は我関せず、という態度のままであったのだが。
こうして、漸く長い自己紹介が終わることになった。
授業は明日から、ということでようやく解散を宣言するマキュベス。
これからどのような学園生活が始まるのであろうか。
お読みいただきありがとうございました。
ちょっとテンポが悪すぎるので、次回からガンガン話を進めていきたいと思っています。
来週までお楽しみに。




