1話~「門出」~
新章開幕!
今回は魔法学院に入学する理由と背景を説明した話になります。
二章、解明編をお読みになった方でも新しい情報が多いのでお楽しみに。
コリオダ王国歴三百年。
ある山にある小屋にて、二人の男性が会話している。
一人はやや長い髪の毛と眉毛や髭も金色であり鋭い目つき、とんがった鼻など端正な顔立ち、そして筋肉隆々であるところが際立っている三十代半ばの男性。
もう一人は少年と青年のはざまの年であり、短めの茶髪でやや大きい目に顔のパーツが全体的に小さく顔の輪郭もやや角ばっている。
先ほどの男性と比べると身長や体格はやや小さいものの、比較対象が悪いだけで彼の前世よりもずっと体格も良いと彼自身が自覚していた。
彼の名前はイサマと言うのだが、彼は自身が転生者であることを自覚している。というより、この異世界【プランシュ】にてもう一度赤ん坊から人生をやり直した。
二人に血縁関係はないのだが、奇妙な運命に導かれたのか先ほどの中年男性であるマキュベスと共に生活を送っている。
「イサマ、貴方は十五になりました。今年から魔法学院に通っていただきます」
「はい? 一体どういうことですか?」
マキュベスが魔法学院に通うようイサマに要請したのだが、当然イサマは混乱している。
魔法学院。その存在を一言で言えば、貴族生徒のみが通える教育機関。
この世界でもすでに教育の重要性は認められているがゆえの学院である。
では、なぜイサマは混乱したのか。
その答えは単純で、イサマは貴族の生まれでもなんでもない。
先ほども言ったように彼は転生前の記憶や知識があるというだけで、ただの村人生まれである。
貴族以外にもこの学院に通えないのかと聞かれると二十年前までは不可能であった。
なぜならこの学院の主な目的は、魔法が使える貴族に魔法の講義および一般常識を授けることだからだ。
そしてイサマは貴族でない以上、当然魔法は使えないからお呼びでないのだ。
「質問なのですが……
まず私が魔法学院に通うことが可能なのでしょうか?」
「それについてですが……本来は不可能ですが、今年は色々ありまして。
まあ今年から庶民の人も受け入れることになりました。
枠組み等もいろいろ変わったのですが……まあそれは後で話しましょう」
マキュベスはこのように語る。
事実、魔法学院の表の存在意義は自国の貴族へ教育を施すことであったのだが、様々な事情や影響が絡まり貴族以外も受け入れることになった。
しかし、イサマからするとどうして通わないといけないのかと思ったため再び質問した。
「庶民も受け入れる、というのはわかりましたがどうして私が魔法学院に通うことに?」
「まずはそこからですね。
理由は大きく分けて三つあります。
まず一つ目は、貴方が魔法研究者になるのであれば魔法学院に通わなければならないからです」
このマキュベスの説明の前に先にイサマの境遇についておさらいしよう。
先ほども言った通りイサマは転生者である。そして、その最終目標は自分の世界に帰ることだ。
彼からすれば、特段前世に不満を持っていたわけでもなくむしろ充実していた。
友達にも恵まれ、両親にも愛されて、勉学で自身の能力を発揮できていたのだ。
今も転生の原因は不明だ。
なにせ彼にとって前世で自室で眠りについた後、気付いたら前世で見たことのない部屋に赤ん坊となっていたのだから。
で、当然ながら前世でうまく生きていたイサマは戻りたいと考えている。
そして当然ながらどうやって異世界を渡ったのかと言うのは不明だ。
なのでまずはこの世界がどのような体系なのか、を調べてみた。
結果だけを言えば異世界でも前世と同じような物理体系が成り立っているように思えたのだが、彼の目には一つだけ大きく異なる体系が存在している。
それが【魔法】である。
魔法と言うのは、今のところ手からいきなり炎を出したり水を出したりするものというイメージで構わない。
この現象は所謂彼の前世の体系からはみ出ているものだ。
そして、彼はこれに可能性を見出した、というより転生の原因だと考えた。
なぜならイサマは一応前世では研究をしていた学生であり、少なくとも彼の知る限りでは異世界を渡る方法なんて解明されていなかったから。
ゆえに前世にない魔法に魅入られたのだ。
そのためイサマは魔法研究に文字通り人生をかけてきた。
まさにご飯を食べたりなどの生きるために必要な時間以外の多くを魔法に費やしているのだ。
もちろん、この国の歴史についてやらあるいは一般常識についてもある程度は学んでいたが熱量が目に見えるほどに異なる。
五年ほど一緒に過ごしてきたマキュベスはそんなイサマの姿から、これからも魔法のことを研究するのだろうと思っていた。
そして王国公認の魔法研究者になるためにも魔法学院を卒業しなければならないため彼を通わせようとしている。
言ってしまえば、イサマの目的とマキュベスの目的は少しずれているのだがどのみちイサマにとって必要なことであるため間違ってはいない。
ちなみに庶民が魔法研究者になれるのか、という話については可能である。
その理由についてはまた後で説明する。
「二つ目は、私から教えられる内容や授業では限界があるからです。
私も一応魔法研究者ではありますが、魔法のすべてを知っているわけではありません。言ってしまえば私に教えてもらったこと以上に知りたいことがあるのなら、魔法学院に行くのが効率的です」
前提として、今まではマキュベスが魔法のことを授業していた。
イサマの熱心な態度と才能を見出したから、と言うのが大きな理由であり事実彼はとんでもない発明を一つしていた。
その才能を伸ばしたりということもあり、彼を魔法学院に通わそうとしている。
実際マキュベスも博識でありその専門の一つは魔法発生原理についての第一人者でもある。
ゆえに彼以上に魔法についての知識が欲しいとなると魔法学院ぐらいしか残る手はない。
そこでは彼の領域外の分野を研究している先生もいるからだ。
なおここで一つ疑問に思っただろう。
「貴族であるマキュベスが、イサマに貴族しか使えない魔法のことについて何故教えたのか?」と。
その疑問は正しいし、イサマも一度ぶつかった疑問だ。
それに関しては後に述べよう。
「三つ目は今まで同年代の子供と碌にかかわったことがないでしょう。
今のうちに人脈やら他人から影響を受けておいた方があなたにとって好ましいと思います」
というおせっかいである。
一つ目、二つ目は比較的マキュベスのための理由であったのだが最後の理由に関しては彼の親心によるものだ。
彼は五年前に村を盗賊に滅ぼされている。
そこをマキュベスが保護したのだが、そこから今に至るまで彼はマキュベス以外と会話をしていない。
厳密に言えば人外と会話したことはあるものの、とにもかくにも対人関係のスキルが低いことは否めない。
人が会話する理由は相互理解が鉄板なものであろう。
にもかかわらず対人経験が少ないというのは才能云々の前に人として致命的であるということから、マキュベスはこのようなことをしたのだ。
他にも、若いころというのは多感な時期であり以後の関心や研究内容に大きくかかわる。
マキュベスも似たような経験があり、若い時に大きな影響を与える研究内容や人がいたからこそ今の立場や研究があると思っている。
ゆえにイサマにも同様の経験をしてほしいということで、このようなことを行った。
「……一つ目、二つ目はともかくこういうことを言われるのは少し心外といいますか。
一応幼いころは子供ともそれなりに話せていましたよ」
というと呆れたようにマキュベスは
「……はぁ。今まで貴方のことを見てきましたけど、とてもじゃないですが話せるようには思えませんでしたが」
という感想を持っていた。
それを言われたイサマはギクリと震えてしまう。
残念ながら彼の嘘は一瞬でばれてしまった。
前世に関してはコミュニケーション能力は可もなく不可もなく、といえたが今世に関しては残念ながらお世辞にも高いと言えない。
それは異言語だから、というのも理由としてあるがそれ以上に彼が異世界に来た当時は魔法研究ばかりやっていて怠っていたからである。
そのせいで彼の身に悲劇が起きたため、今ではある程度マキュベスと会話するのだがその内容もほとんどが魔法関連のもの。
精々数年前のマキュベスに頼みごとをした時が魔法に直接は関連しなかった内容である。
だからこそ人脈……もう少し俗的な言い方をするなら、友達を作った方が良いと言ったのだ。
一つ目二つ目だけならイサマももう少し悩んだだろうが、三つ目の理由を聞かされてマキュベスに心配されているということを知ってしまい魔法学院に行くことを決心した。
最後に確認のため、一つ聞いてみる。
「一応聞きたいのですが、私以外に庶民の方は通いますか?」
「はい、もちろん。周りが貴族の方でイサマ一人だけという状況ではありません。
それにイサマには庶民だから、といって変な扱いをしないことも約束します。
学院長ともそういう約束をしましたので」
これで完全に逃げ道は防がれた。
イサマにとっても、確かに今の部分で研究が一息ついた状況のため通わない理由を探す方が難しい状況。
それに学校に通うのはちょうど十五年ぶりということも含めて、懐かしいということもある。
「……はぁ。
わかりました。通えばいいのですね?」
「はい、わかればよろしい。学校は三年間です。
一年、二年は基本的に座学が中心で三年が研究になります。
ただ申請すれば恐らくですが研究室を得られるでしょう」
と説明していく。
ちなみにイサマには述べなかった理由がもう一つある。
四つ目はイサマが隣国、スメラギ皇国へ逃げないようにするためというのもある。
先ほどさらっと説明した通り、イサマは魔法……正確に言えば研究に関する才能にあふれている。
マキュベスとしても、自身を超えた何かを発明するだろうと期待していた。
なぜなら出会ったばかりのころに、植物の魔法的利用について研究しておりすでに実用化もしていたのだから。
マキュベスも今まで植物のことを研究していて、魔法と関連があることは把握していたもののその実用化や応用方法までは発見していなかった。
加えて、彼にとって最も驚くべきことは植物由来の魔法と貴族の使う魔法の関連性を正確に見出したことだ。
この二つだけでも、研究者としていかに有能なことか。
事実この研究成果の一部をマキュベスは借りた。そのおかげで学会でも非常に好評であった。
そんな素晴らしい研究成果を、何も専門的な教育を受けておらず魔法も使えない十歳の少年が導き出した。
これを天才といわずになんといえばよいのか。
マキュベスも天才と呼ばれているのだが、彼からすれば天才なんて言葉では生ぬるいほどの能力を秘めていると見抜いている。
だからこそ、マキュベスは興奮した。
もし彼が我々と同等の教育を積めば、魔法界はどれだけ進化するのだろうかと。
いずれイサマが魔法界を、もしかしたらコリオダ王国そのものを揺るがすような大発明をしでかすのではないか、と。
本来貴族はこのようなことを考えない。
自分よりも才能を持っているが、地位が低い相手がいたら自分の陣営に所属させるか潰しに来るかの二択。
イサマが村人であることを考慮すると、普通の貴族であれば彼を処分していただろう。
マキュベスはイサマと出会えたことを人生の三つ目のターニングポイント、あるいは運命とまで考えているが、マキュベスの思想を考えるとあながち運命という言葉は誤りでもない。
現にイサマは今でも研究を続けているのだから。
以上が、イサマに魔法の教育を施した理由である。
早速その成果が出ており、その時点でコリオダ王国を揺るがすものだろうが彼自身は全く納得していないのが末恐ろしいとマキュベスは考えている。
いったん、マキュベスは思考を打ち切り最後にどの学部に入学するかを伝える。
学部と言うのは所謂大学の学部のようなもので、要はどの分野を専門的に勉強するかを決めるものだ。
これは入学時に決定するものである。
「ちなみにあなたが通う学部ですが……今年新設の魔石学部というところに通ってもらいます」
お読みいただきありがとうございました。
三章からお読みになった方でも、十分ついていけるように話を構成しましたが如何でしょうか?
解明編をお読みになった方は色々と楽しめるかと思います。




