解明編㉕:王国の闇 決別
前回のあらすじ:魔石によって今までの常識を覆すだけの発明をしたマキュベス達。
論文発表したのだが、そこにコリオダ王国第一王子トーマス殿下が現れマキュベスを逮捕する。
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取り調べは長きにわたった。
この世界の拷問は、ひたすら体や精神を攻撃するという現世と同じものであるが取り調べでは暴力は用いられない。ただ、精神的に追い詰めるだけである。
ただ現代と一つ違うのは、魔法も使えなくすることである。
実はマキュベス達が入学する際もそのようなものをつけることになっている。
それはケテラーと言われているものだ。
シール状になっているのだが、これを額と足の裏に貼ることで作用する道具だ。
なぜこのようなものを貼っているか、といえば単純で学院内で事故を起こされては困るからである。
これが開発されたのは百年前であるが開発されるまでは魔法で争いもあった。
そのせいで学院の校舎がすぐに壊れてしまう、あるいは死傷数も多く個人の戦いではなく貴族の家の戦争になりかねないなどと、言ってしまえば無法地帯であった。
いくら先生を雇って監視するといっても貴族の子息の静止力となりうる存在は限られており、そんなことに使えないというのが現状である。
なので頭を悩ましていたのだが、ある時に便利な道具がこの国にもたらされた。
それがケテラーという道具だ。
これはロバート・ヤングブラッドという人物が作ったもので、当時も今も非常に画期的な道具として取り扱われている。
この道具だが、原理として植物を用いている。
ざっくりいえば、魔力を滞らせる酵素がその植物に含まれておりそれを道具化したというのがトーマスという人物である。
もともと、植物と言うのはそれこそコリオダ王国建国以前から当然存在するが、その中には今の魔法のような現象を起こせるものもあった。
今でこそ取り締まられているものの、その当時はまだ取り締まりも甘く一般人もその植物を使って研究することができた。
イサマの例は特別というか、その領地を治めている貴族の怠惰という名の奇跡の代物である。
しかしこの道具は教科書では王族が作ったことにされている。
なぜなら、ロバートという人物は平民であったからだ。平民が、貴族の特権を脅かすなんて言語道断ということで彼は作り方を吐き出されてしまい、結果殺されてしまった。
この道具だが、自身の存在を大きく脅かす道具ではあるが一方で他の貴族に大いに優位に立てるという性質を持つ。
なぜなら他の貴族の魔法だけを封じ込め、自身は魔法を使えるからだ。
そのため、王国はこの道具を量産することにした。
そして管理するということで今の王族が中心となって生産に勤めている。
このような悲惨な歴史が背景にあるのだが、残念ながらそのことはマキュベスはおろか、テオ殿下さえ知らない。
さて、マキュベスはこのケテラーに加えて他の道具も服用している。
それがアタシェンという道具だ。ケテラーは学院生活を送るために付ける道具であるが、アタシェンはこのように拷問する際に服用するものである。
どちらも効果は魔法を使えないようにするというものではあるが。
そのせいで魔法が使えずただひたすら心をえぐられてきたマキュベス。
しかしそんなことを一切気にせずに、この事件が誰の原因なのかをひたすら考えていた。
(テオ殿下……はあり得ないだろう。あんな演技ができるのであれば、それこそ諦めるしかないです。
であれば、トーマス殿下か? ……一見ありえそうに見えるが、私のために態々このような手順を踏むか?)
確かにトーマス第一王子がこれを仕組んだ、とも考えられなくはないのだが。
それにしてはあまりにも回りくどい、とマキュベスは考えていた。
逮捕する、といってもそれなりの手間がかかり書類も時間も必要となる。
だったらとっとと殺すなり拷問したほうが早い。
今は取り調べであり貴族としての矜持は最低限保障されているが、拷問になるとそんなものもへったくれもなくなる。
もし彼が本当に強権を駆使しているのであれば、そのように行うはずだが今のところはまだ人道的な扱いは受けている。
つまり彼が原因と考えるには違和感が大きい。
しかしもう該当者がいない……と考えていると、扉から声がかかった。
「やあ、マキュベス・グラマー殿。
その調子を見るとどうやらまだ元気そうだね」
「トーマス・パワー・グローヴァ殿下……
これは見苦しい所をお見せしました」
「いや構わん。しかし、取り調べ官も言っていたが貴殿は強情だね。
さっさと言った方が楽になるものを」
「恐れながら、殿下。
私はそのような罪を犯した覚えはないもので」
「まあ、そうだろうね」
とあっさりマキュベスの無罪について認めた。
その態度に理解が追い付かず、ポカンとしていると
「恐らくというか、私も貴殿がそのようなことを考えているとは思わないよ。
多分あの論文も多かれ少なかれ、この国のために行ったことだろうし」
「……であれば、なぜ殿下は私に容疑があると承認したのでしょうか?」
「この論文はともかく、だ。貴殿たちの会話はいつも耳に入っている。
聞くところによると、この国の魔法や体制についていろいろと話しているそうだ。
天才の我が弟とよく議論が燃え上がっているようでなによりだ」
そこまで言われてハッと思い出した。
彼の中で、テオ殿下やモリス公爵子息とそのよう話をしたことがフラッシュバックされる。
今思えば彼は不用心にこのような話をしすぎたのである。
それが今回このような出来事につながったのだろう。言い換えれば、罪を擦り付けられたともいうべきか。
「今まではそれでも、良かったのだけどね。
貴殿たち若者の意見と言うのは貴重だ。なにせ、我々が未来を作り上げるのだから。
しかし、ことを急ぎすぎたな、マキュベス・グラマー殿」
と、あくまで朗らかな態度を崩さずマキュベスに話しかけるトーマス殿下。
どうやら彼もどういう状況にあったのか気付いたようだ。
「もしかして、今回殿下に我々のことを告げた相手と言うのは……」
「おっと、待った。
これから先は口にしてはいけない。本格的に目の敵にされるぞ。
今までは小僧扱いで済んでいたが、これ以上踏み込むと研究者としての生を諦めなくてはいけなくなる」
マキュベスの発言を食い止めてしまった。
今回の逮捕の理由はそのような政治的にもセンシティブな発言によるものだが、直接的な原因はもっと単純だ。
それはあの論文である。
もし、あの論文が発表された場合一番困るのは誰だろうか?
答えは多くの貴族、そして既得権益を持っている人達。
そのプライドのために提案者をこのような形に取ったのである。
「まあ、貴殿たちの発明は私が保証しよう。一度他の人で確かめてみたが、同様の現象が見られた。
確かに君たちは革命の火種を発掘した。しかし、貴族たちと言うのはそんな単純な人種でもない。
だからしばらくは落ち着くがよい」
ここまで言って、トーマス殿下はその場を立ち去ろうとする。
「お待ちください! 一つ、質問をしても宜しいでしょうか?」
それをマキュベスが必死に食い止めると、彼も立ち止まった。
そして質問を許可すると、
「何故、殿下は我々の発明に友好的な態度なのでしょうか?」
「それは単純さ」
とにっこりした顔から一転、真顔になって
「貴殿たちはこの国を進歩させるのに必要な人材だからだ」
今度こそ、マキュベスの頭は真っ白になった。
敵だと思っていた人物からこのように言われたため、理解ができていない様子であった。
「さて、ここからは取引といこう。
マキュベス・グラマー殿。今後コリオダ王国に忠誠を誓い、そしてグローヴァ王家へ力を捧げると宣言するというのであれば、貴殿を解放することを約束する」
いきなり畳みかけられたマキュベスは、この状況へ必死に適応しようとしていた。
よくわからないが、トーマス殿下は自分へ友好的でありそして研究も認められている。
加えてこの取引……すなわち、王族に優先的に研究成果を発表しろということ、も彼にとっても益がある話。
ようやく、彼の中ですべての線が一つにつながったようである。
その答えは。
「は、不肖マキュベス・グラマーは今後、グローヴァ王族へより一層の忠誠を。しして、王国の発展へと粉骨砕身で励みたいと思います」
そうして、彼は現代で言う一週間ぶりに外に出るのであった。
ただ、出る際。
「一つ忠告だ、マキュベス殿。これからは我が弟と関わらない方が良い。
少なくとも、共同研究の体制は解除することだ。でなければ、二の舞になる」
そう言って立ち去ったのであった。そして、すぐに彼の元へ二人の影がやってくる。
テオ殿下とドロシー令嬢であった。どうやら、二人ともマキュベスのことを待っていたようである。
「マキュベス殿! ご無事か!」
「マキュベス君!」
特にテオ殿下の方はやつれてしまっており、見るも痛々しい様子である。
そのため不用意なことをしてしまった、と改めて後悔するのであった。
「ご心配をおかけしました。何とかトーマス殿下から潔白を勝ち取れたようです」
「……今回の件は、すまなかった、マキュベス殿。私が貴殿を巻き込んでしまった」
「いえ、もともとといえば私があの論文を発表しようといったからです。なので、テオ殿下が原因ではありません。
それに、王族はそんな簡単に謝ってよろしいものではないですよ」
それを指摘すると、テオ殿下は恥ずかしそうに黙りこくった。
「マキュベス君は相変わらずねー。せっかく感動の再開なのに、そういうことを言っちゃって」
「こういう礼儀は大事ですから。それに、ドロシー・ゴールディング令嬢、貴方の矯正も諦めていないからですね」
というと、ゲッといいながら顔を真っ青にする。研究ばかりのマキュベスではあるが、こういった礼儀という面にも厳しいため口うるさく指摘していたのである。
「まあいい。これからは判明しないように研究することにしよう。
さあ、マキュベス殿。次は何を研究しようか」
意気揚々にマキュベスに声をかけたテオ殿下。しかし、彼の頭にはトーマス殿下の忠言が頭に刺さる。
本当はもっとテオ殿下と研究していたいが、今回の事件の経緯を考えるとそれをしただけでまた逮捕されかねない。
今回はトーマス殿下がかばってくださったものの、次回の保証はない。
そこまで思い当たったマキュベスは、まずはやんわりと断絶の言葉を彼にぶつける。
「その……テオ殿下。
これからは私は植物のことについて研究したいと思っております。なので、別々の研究室を頂ければと」
「それでも良いが……しかし、このようなことが起きてしまった以上、貴殿へそのような待遇を要求してももらえるかはいまいちだと思われる。
であれば、今まで通り行った方が良いと思わぬか?」
しかし、テオ殿下はこの言葉をうまく受け止めてもらえなかった。
少なくとも彼の中ではマキュベスは盟友であり、同年代で研究のことを語り合える唯一の人であった。
だから引き留めようとしてしまう。
それがマキュベスをより苦しめてしまうとはつゆとも思わずに。
これからも同じようなことを言ったのだが、どれも簡単に論破されてしまう。
様子がおかしいことに気づいたのか、テオ殿下が
「もしかして、もう魔石の研究をやめたいと言いたいのか……?」
と勘づいてしまう。それに応えないでいると、急に今までの雰囲気がぴたりとやんで、一気に緊張感が漂う。
どうやら盟友の態度が信じられないようである。
「どういうことだ、マキュベス殿!
もしかして、怖気ついたのか? それでも貴殿は研究者か!」
「そうではありません! 私もこれからも研究していこうと思います。
しかし、魔石だけでなく植物についても研究していきたいと当初から考えていたのです」
「まだ貴殿の仮説、『適性がないとされる魔法も扱うことができる』は実証されていない!
使用可能な人と不可能な人がいる中で、それをいったん放置してまで植物のことを研究するのか?」
そう、この仮説はまだ成り立っていない。
正確に言えば、まだ原理について解明し終わってなくこのままでは論として中途半端である。
だからこそこれからも研究していかなければならないのだが、それを突かれるとマキュベスは弱いのであった。
だからそれについてどう返答したものか、と考えていると
「テオ殿下。マキュベス君にもいろいろと事情があると思います。
それに研究する意思はあるそうですよ」
と代わりにドロシー令嬢が答えていた。
こちらの言い分をしっかりと汲んだ意見であり、かつ研究するという話においてもきちんと踏まえられていることから驚いていると
「くっ……もういい!
好きにするがよい!」
といって捨て台詞を吐いてその場を立ち去った。
ドロシー令嬢も彼へ一礼して殿下へ着いていくことにしたようでひとりぼっちになる。
「……これでいいのです、これで。
テオ殿下一人であれば、奴らも手を付けがたいですしトーマス殿下はテオ殿下を愛しているように思える。だから……」
この時期にもかかわらず、寒い風が彼の体にしみわたる。
ようやく外に出れたはずだが、彼の体はいまだに鎖が結びついているようであった。
お読みいただきありがとうございます。
あえて今回はマキュベスが捕まえられた背景をほのめかす、という程度にしましたが……如何でしょうか?
わかりにくいのであれば後で説明を本文に加えようかと思います。
あと、次の話で終わりそうにないのでもう二話ください。
解明編に入ってからおんなじことばっかり言っている気がしますが、どうかお許しを……。




