解明編㉓:魔石についての歴史 人類の進化
前回のあらすじ:魔法武闘会が終わり、研究に励むマキュベス。
あるとき自分の研究している魔石についてどこから得ているのか疑問に思った。
今日も読んで頂きありがとうございます。
「……貴殿も、魔石を研究しているのならば、いつか直面するだろう。
今のうちにこたえておく。この魔石だが……入手源は、ある商人と魔族が元々住んでいていた土地だ」
テオ殿下は多少もったいぶったような言い方であったが、このように答えた。
この情報を知っているのはテオ殿下を含む王族、そしてごく一部の、それこそ公爵家の当主といったごく一部の貴族のみ。
マキュベスもこの情報は知らなかったため、自分で考えていたのだが……
「順を追って説明しよう。
そもそも、魔石というものは何か? という話に遡る。
魔石とは見た目状では、我々が起こせる現象を再現するための道具である。
しかし、本質は初代勇者が起こした現象を再現できる道具と考えてよい」
と魔石について話し始めた。
テオ殿下の言っていること通りであり、さらに補足すると勇者時代からあった道具と見なされている。
「しかし、それがどのようにできたかという情報は残っていない。
なんでも、自然にできたものであるという主張もあれば昔の魔族が作ったという主張もある。
どちらにしてもこの国では作成は不可能という結論は出ている」
ここまでの説明を聞いたマキュベスの頭には一つの疑問が湧いた。
それは、人工的に作れないのであれば魔石は貴重でなくてはならない。
言い換えれば、貴族はともかく庶民にまで潤沢に使えるもののはずがない。
「すみません、一つ質問です。
先ほども、魔石のことをあまり貴重であるような言い方ではありませんでしたが……
自然から大量に得られる物質なのですか?」
「いい質問だ。まさに、その点について説明しようと思った。
魔石があまり貴重といわれない理由は、まさにそこにある。
まず、魔石は旧魔国跡地にてそれなりの数採取できるらしい。これが先ほど挙げた一つ目だ。
ただその多くは今も教会で保存されている。いくつかは王家に融通してもらったり保管していたりもしているが、流通できるほどの数はない」
この魔国というのは以前歴史の授業で出てきたコリオダ王国と魔国の戦争に出てきた国と同名である。
あの後そこに住んでいた住民は違う場所へ逃げてしまい、残った土地を王国が確保したとされている。
その時に魔石なるものが見つかったということらしい。
ちなみに、魔国の住民がどうして逃げたのかは明らかになっていない。
有力な説は、戦争終了時締結した条約で彼らの立ち退きを要求したともいわれたりする。
しかし最近の研究では戦争が終わる前に立ち去ったとも言われており、その理由は確かではない。
とはいえ、マキュベスもテオ殿下も有力な説の方で考えているのだが。
話は戻って、
「で、流通している分をどのように確保しているかというと、ある商人から得ているとされている。
正確に言えば、隣国の商人から個々の貴族が買ったものを売ったりあるいは輸入そのものを禁止していたりもする。
魔石そのものは、隣国から広まったとされる。我が王国が実際活用することになったのはつい最近だ。
それこそ私が生まれたときぐらいだ」
という。ここまで言われてようやく合点がいったようである。
マキュベスの住んでいた土地では魔石は一般的であったが、この都市の中では実験室の中以外でほとんど見かけなかった。
その原因は魔石の能力による。
考えてみてほしい。魔石というのは、どんな人であっても殺傷力の高いとされている火の魔法を扱えるも同然。
態々武器を渡すような真似はしないだろう。
他にも、貴族のプライドという面もある。
貴族の定義は「魔法が使えること」。正確に言えば、「主流魔法を使えること」である。
その定義がさらに揺らいでしまう以上、決して許せることではないのだ。
なので大都市にもかかわらずある面においては地方、それこそマキュベスの実家であるグラマー家が納める土地よりも不便なところはある。
傾向としては、公爵などの大貴族ほど魔石を使うことを認めていないという状況だ。
「少し話しすぎたな、この程度にしておこう。
そういうわけでそれなりに貴重だからなくすことのないようにな」
といいつつ、その場を立ち去った。
テオ殿下も派閥の長ということでいろいろと事情があるためだ。
そのためマキュベスは自身の研究に取り組むことにした。
さて、植物の部分でよくわからなかった部位と似たようなところを取り出してもらったのだが。
これを使って何をしようか、という点で悩んでいた。
ひとまずマキュベスの魔法で目視で確認を行ったりしたのだが。
「うーむ、だめだ、組織なのかよくわかりませんが細かすぎて私の魔法では何が何だかさっぱりわかりません」
と手を挙げてしまった。
その部位は親指の爪ぐらいの大きさしかなく、そこに大小さまざまな突起があるということまでは魔法で判明した。
では、この突起が何をするのかということがよくわからない。
次に一応密度についても調べてみたのだが……その結果、面白い事実が判明した。
それは普通の物体……所謂魔法を含まない水よりも、密度が大きい事である。
これは中に何か物体が入っていることを示しているのだが。
「その物体が何か、わからないのですよね……」
はぁ、と息をつく。
息がその物体にあたったのだが……その瞬間、器官が赤く輝いた。
なにか危ない事でも起こるのか、と思ったのか距離を取ったが一瞬輝いたっきりまた動かなくなった。
結局、あの後いろいろなことをしてみて別の反応が起きないか試してみたのだが、結論は息を吹きかけることが最も反応が見られる行動であった。
その原因についていろいろと考えていたのだが、皆目見当がつかないようである。
実際、マキュベスはまだ魔法学についてあいまいな理解である。
正確に言えば、教科書レベルの知識に留まっておりそれ以上の知識がない。だから学校にいるのだが、まだ習っていないのである。
そのため、自分の呼吸が何かの反応の元になるということはわかったのだが、吐息がどうして反応に関わるのか、あるいは吐息に何が含まれているのかについて不明である。
なので他の人に聞くべきであるのだが……残念ながら、それも難しい環境にある。
まず、この内容については確かに学校内で知っている人はいるがその方は先生である。当然、貴族出身であるがその先生がこの研究を良く思っているはずがないのである。
隠すにしても、教科書に載っていないことである以上この内容は機密情報である。
なので教えてもらえないだろう、と彼は考えていた。
なので再び窮地に陥った。
そのため、どうしようかと次の作戦を考えているうちに睡魔に襲われる結果となってくる。
寮に帰らねば、と思って足を動かそうとするもまともに動けないほど疲弊していたらしく、椅子から立ち上がれない様子である。
結局、盟友とはいえ他人の研究室で一晩を過ごしてしまうマキュベスであった。
そして彼は久しぶりに夢を見た。
その夢の内容は、炎の世界に包まれる金属の部屋という奇妙なものである。
最初はその世界は鈍色に包まれていたのだが、炎が広がるにつれどんどん赤色に染まっていく。
しかし炎が増えるにもかかわらず、その世界は熱を持たない。
何故そんなことが分かるかというと、炎に包まれても彼は熱さを感じなかったからである。
次第に大きくなってくるのだが、ついに金属の部屋と同じくらいの大きさにまで大きくなった時。
遂に金属と炎が一体化した。
最初は金属が溶けたのではないか、と彼は考えたのだがそうではない。
炎も金属もまるで液状のように混ざり、そして新しい部屋を一つ作っていく。
最終的にはできたものは元の鈍色の世界に戻ってしまった。
しかし、その中で大きく異なるのはその鈍色の世界に赤く鋭く輝いている炎が存在していること。
そこまで見届けて、目が覚めた。
あたりを見ると大量の魔石とよだれがついてしまったと思われる机。
どうやら研究室にいると彼は判断したのだが、その中で一つ違和感を持っていた。
「……! ない! あの魔石の部分がない!?
どこにいきました?」
そのことに気づいてからはぼやけていた頭がクリアになったようで焦って探してみるも見当たらない。
確かに昨日は机の上に置きっぱなしにしたはずでその後動かしていない、と彼は判断する。
一応研究室内のすべてを探したようだが、見つからなかった。
他の可能性……例えば誰かがこの研究室に入ったのか、ということを彼は考えたのだが……しかしその可能性も低いと否定する。
なぜなら、研究室と言うのは一部の人しか入れないし入ろうともしない。
その理由は、研究室は秘密の宝庫とも言われるからである。たとえ目上の人でも、不用意に入った結果襲われても文句は言えないという風習があるほど。ついでにいえば、この部屋には罠が仕掛けられている。
だからスパイであっても入ろうとはしない。
実際、テオ殿下が出かけた後は鍵を閉めていた。
あの後マキュベスは研究室の外に出ていない。なので、研究室内にあることは確定している。
つまり、他者の介在を考慮するならばテオ殿下しかいないのだ。
そしてタイミングよく彼が戻ってきた。
「おはよう、マキュベス殿。どうやら徹夜だったようだな。
何か良いことはあったか?」
「おはようございます、殿下。
その、お聞きしたいことがありまして」
マキュベスがそのことについて聞いてみるが
「いや、わからないな。あの後、私は研究室に寄っていないからな。
……もしかして、なくしたのか?」
白い目で見られるマキュベスであった。
これに関しては言い訳の仕様もないため、素直に彼が謝ると
「……まあいい、なくしたものは仕方ない。
そういえば貴殿の様子が昨日と少し違うような気がするが……私の気のせいか?」
という。確かに、と思って自分自身のことを見ると昨日と調子が少し変わっているようであった。
どこか体がポカポカしており、まるで体に力があふれているように思えた。
何故だろうか、と考え込んでいるうちに
「なんだかつらそうに見えるな。
とりあえず、訓練場で発散でもするか?」
このように貴族には、体内の魔力が暴れまわるような感覚に襲われることがある。
所謂魔力暴走と言われており制御が不安定な時の症状だが、寝た直後に良く起きるとされている。
寝ているときは体内の活動が休止するからといわれている。
じっとしていれば治るものの、魔力暴走の時は動き回りたいという欲望にかられる。
なのでそのために訓練場が用意されており、そこで発散することで暴走を抑えることができるというものだ。
マキュベスも少なくない回数この症状にかかったことがあるのだが。
「いえ、これは魔力暴走ではないように思えます。
体内に魔力があふれているというより、体に何か他のものが混じったように思われまして……」
「ふむ……
そこまで言うなら、小さく魔法を使ってみるか?」
という。なので、いつも通り魔法を使おうとするのだがここで急に何か頭の中に言葉が思いついた。
マキュベスがよく使う魔法であればこのようなことは起きないのだが、つい声を出してしまう。
「I R F!」
このように言うと、マキュベスに適性のないはずの魔法、すなわち炎魔法が小さく彼らの目の前に現れたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
後もう一つで魔石についてのお話は終わりにしますかね。
もうほとんど魔石についてはストーリーで出したい情報は出し終えたので、ぜひとも推理してみてください。
次章以降でまた説明すると思いますが。
あと三回……も必要ないかもしれません。次回投稿は未定ですが、すぐ上げると思います。




