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解明編㉒:魔石の場所、そして現象の本質

前回のあらすじ:魔法武闘会決勝戦。優勝したのはテオ殿下であった。


ブクマ登録、ありがとうございます。久しぶりの投稿になってしまいましたが、今回は研究回+αです。

 結局、魔法武闘会は大勢の予想通りテオ殿下の勝利に終わった。

観戦していた貴族達からすると、別にモリス公爵子息に期待していなかったというわけではない。

むしろ一部、いや多くの人は「あいつならやってくれるんじゃないか」という期待をしていたのだが、それ以上にテオ殿下が強かったという結果であった。


 違う話で例えるとしよう。

ヒーローと敵がいてその敵がヒーローの強さを超越しているという状況とする。

この話を聞いただけでは、ヒーローが負けると考えるのが妥当だろう。

しかし、その人が負けては話が終わってしまい世界は征服されてしまう。だから、ヒーローが勝たなくてはならない。


 これと話は近いようなものだ。

もちろん、ヒーローがテオ殿下でモリスが悪役というわけではない。これはただのたとえ話であり、状況設定に意味はない。

言いたいことは、「勝つかもしれない」という期待を持たせるだけの力をモリスを持ち合わせていたということである。


 そのため、モリスの勢力は小さくなった……わけでもなくむしろ期待が集まった。

トーナメント方式である以上、他の対戦相手には一回も負けることはなかったのだから。

今までの戦いで彼の力を見せつけていたこと、そして新興勢力ということもあってテオ殿下に負けたことよりも決勝に残ったという影響の方が大きかったと言える。


 予選までは運だけで勝ち残ることもないことはない。事実、観戦者からするとドロシー令嬢がその例だ。

しかし、本選は一対一のため実力が拮抗していないと運だけで勝敗は決まらない。

その本選で勝ち残ったのだから、その評価も当然と言えよう。


 加えて、モリスはまだ一年。言ってしまえば、十五の少年である。一方テオ殿下は二年であり、近頃十七歳になった。

この年代における二歳の差と言うのは恐ろしいほど大きい。なんせ、十代の一歳違いは母数が小さいこともあって積める人生経験が大きく違う。

加えて、魔法は時間をかければかけるほど成果が出るためなおさらだろう。


 それに、準決勝で下の爵位であったとはいえ三年生を見事打ち負かしたのだから実力については満員一致といっても過言ではない。年齢の差で爵位の差を覆すというのはよくある話であるからだ。

だからこそ、「テオ殿下に勝てるかもしれない」と思わせることに成功したのだが。


 さらにいえば、貴族生徒にとってはテオ殿下の思想はやはり過激……取り繕わないのであれば、異端である。

しかし今までそれに匹敵するほどの対抗勢力がいなかったため彼の天下を許してしまったわけなのだが、ここでようやくその対抗勢力になりえるだけの人物が出てきたと言えるだろう。


 なので、上の条件や事情も相まってモリス自身が思うほどモリスへの評判は悪くない。むしろ好意的な評価の方が多い。

まあ、肝心のモリスはあの試合内容について非常に悔しがっているのだが。


 こういう場面でどう取り繕うかこそ政治的な能力が問われる状況である。しかし、最低限取り繕うことができる能力は持っていてもそれ以上のことができないのが彼であった。

本質的には黒白ハッキリつけたがるせいかモリスの性格、言ってしまえば脳筋ッぷりが見えてしまうのだがそれはともかく。


 一方、テオ殿下の方も特に目立ったことはない。

あの戦いのおかげで対抗勢力を削ることができた……訳でもなく現状維持のままである。

テオ殿下の方についていない貴族が、あの戦いを見てテオ殿下の元に下ろうと考えたくなるような戦闘ではなかったというのも理由の一つであるが。


 殿下としてもターゲット層は貴族ではなくむしろ庶民であったのだからなおさらだ。

というのも彼の戦いは、基本的に魔石を中心にして組み立てていたものである。

さすがにモリス戦まではそこまでする余裕はなく彼自身の魔法をいくつか使ってしまったものの、予選では魔石と基礎魔法だけで勝利を収めた。


 まあ、そもそもあの戦いが魔石を用いたものと気づいていないだろうがそれでもかまわなかった。

重要なのは、魔石を使えば貴族にさえ匹敵するという事実。つまりある程度庶民であっても戦うことができるということだ。


 これを後にアピールのための素材として使う予定がある。

庶民に必要以上に貴族へ委縮する必要はないという証明にもなりえる。

今はまだ無理だろうが、後々の庶民活躍への大きな武器になるだろう。


 このように各々自身の勢力について展開をしているさなか。

我らがマキュベスはただ研究に励んでいた。元々、こういった覇権争いよりも研究がしたいというのが大きな理由だからだ。


 これは別にマキュベスだけではなく、振興というのは覇権争いに参加することはほとんどないからだ。彼らの成果が勝手に使われることはあるが、彼ら自身がそれを武器にしたりはしない。

その例にもれず、マキュベスは魔石と植物そして自身の仮説について取り組んでいた。


 ただ、上のように取り組んではいるものの最低限の保身的な考えは確保している。

そのためどの勢力につくか、ということも一応考えていたのである。

その結果として、今の彼の立ち位置がある。これもマキュベスの父の教育のためである。


 そして、ある日。

以前取り組んでいた魔法の発生原理について、重要な発見をした。


「テオ殿下! これをご覧ください!」


 といって、ある実験事実を見せたのであった。

それは植物を介した火についての情報だが、結果として魔石を用いたものと魔法で起こしたものと近似できるという実験結果であった。


 具体的には最初は火としての能力、および時間というものもそれぞれ異なる結果を出していた。

しかし調整することによって、最終的には全く同じといってよいほど性質を近づけることに成功したのであった。


 今まで観察してきた結果から、植物由来で起こる現象と、魔石由来で起こる現象、そして上二つと我々貴族が魔法を用いたときも見えるものは同じのようなものである事実を確認した。

最初は厳密に言えば同じではなかったため、違うものととらえていたのだが仮に性質を近づけてみたらどうなるか? を検証するとほとんど同等といえるほどになった。


 マキュベスの発想を例えるなら、マッチで出す炎と原始的に出す炎、そしてガスコンロから出る炎。

これらすべて炎の出し方は違うが、だからといってそれぞれ全く別の炎かというと違う。

どれも炎と見なされるはずだ。そうでなければ態々「マッチの炎」などと名前を付けるはずである。

彼も直感でこの上と同じようなことを考えていた。


 同じ現象が起こるのであれば、同じ事実に基づかなければならない。

しかし、検証抜きで上三つは過程がそれぞれ異なるにもかかわらず同じと見なせるのか?

言いなおせば本当に同じ炎なのか? 等価といえるならばなぜそうなのだろうか?

それが疑問でならなかった。


 なお、マキュベスのこの発想は、現代の発想で言う「科学」に基づくものだ。

似たような現象をそれぞれ比べてみて、同じであるのかそれとも別の現象なのかと研究してきたのが現代である。


 その手順を今まさにマキュベスは踏んでいた。

このような場合、何が基となっているのかを調べることが最も手早く答えへ近づく方法である。

つまり、炎とは何かという定義に迫るべきだと考えていた。


 しかし、その部分で躓いているのも事実。

それも当然であり炎と言うのは非常に身近なものであるからか、自分でその在り方を疑問に思った人の方が少ないのではないか?

人間、身近なものの方が疑問を抱きにくいものである。


 で、上の内容をテオ殿下に伝えたマキュベスであるが彼は理解はしたようだが呆れたような顔をしていた。


「……なに、マキュベス殿が研究者として優れていること、及び振興である理由がようやくわかったからな」


 という。

今度はマキュベスがとぼけた顔をする番であった。


 殿下の言いたいことをまとめると、火の魔法を使う際に火がどのように発生しているのかを考える人は多少はいるだろう。しかし火とは何か? という部分まで考える人は少ないはずである。

そういう発想に自力で到達したマキュベスに改めて畏敬の念を示したテオ殿下であった。


「その火が何者か、という議論はさておき、だ。

貴殿の頼み通り、魔石のある部分を取ることができたぞ。

全く、これも貴重品とは言わないがいくらでもあるというわけではないのだぞ……」


 と、小言を言いながらもマキュベスへ魔石のある部分を渡した。

殿下にお礼を言いながらも、彼は少しはしゃぎ始めていた。

というのも、以前マキュベスが魔法で魔石を見たときにその内部について不思議な場所があった。

魔石の構造はおおよそ螺旋状の管があり、その中心に何かよくわからないものがある。


 彼はその管に関しては植物にもあった管、と推測を立てていたのだがその中心にあるものが何かよくわからなかった。なので、その部分について取り出してほしいと頼んだことがきっかけである。

最初はあまり色よい返事を出さなかったテオ殿下であったが、マキュベスの押しの強さに負けて一つだけという条件で取り出してあげたのであった。


 ふと、マキュベスの中で疑問が膨れ上がった。

テオ殿下にお伺いを立ててから質問をすると、


「これからは、場所にもよるが質問するときにお伺いを立てなくとも良い。

いちいちそのような気を遣わせるのも心苦しい」


「わかりました。ご配慮くださりありがとうございます。

そういえば、魔石ってどこから得ているのですか?」


 マキュベスがこのようなこと聞くと、いつもは質問にすぐ答えるテオ殿下が珍しくためらいを示した。

彼からすると、殿下は知っているようだが教えるか否かという部分で迷っているように見える。

マキュベスも付き合いが長いからか殿下の様子が分かってきたようである。

やがて決心したのか、ポツリポツリと話し出した。


「……貴殿も、魔石を研究しているのならば、いつか直面するだろう。

今のうちにこたえておく。この魔石だが……入手源は、ある商人と魔族が元々住んでいていた土地だ」

お読みいただきありがとうございました。

この小説の重要な部分に差し迫っています。まあ、三章でもう一回取り上げると思いますが。


次回投稿は……とりあえず金曜日にします。

あと四回で解明編終わらせるのでお楽しみに。

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