解明編⑭:魔法学院⑧ テオ殿下の研究
前回のあらすじ:ドロシーがマキュベスをテオ殿下の研究室へ連れていくことにした。
構成の組みなおしのせいでいろいろと困惑させてしまい申し訳ございません。
この話は新しいものです。
中は検査道具、およびラベルの付いた溶液、さらにはマキュベスから見てもなにかよくわからないものが置いてあった。
特段マキュベスは道具マニアと言うわけではないにしろ、幼いころから実験をしているためかそれなりに詳しかったのだが、そんな彼でも見知らぬものである。
この異質の空間の中で最も目につくのは、机の上に仕分けられている光っている石。それらの石は赤、青、緑など様々な色の種類があったがどれも共通しているのは若干透明であること、そしてうすぼんやりと輝いていることであった。
しかしマキュベスにとってはこの石だけはとてもなじみがあり、むしろ追い求めていたものである。
なぜなら、その石の名前は一般的に言えば魔石と言うものであったから。
それでもマキュベスには研究していて飽きるほど見たはずの魔石さえ違和感を覚えた。
というのも、それらの種類もそうだが最も驚くべきことなのはその数。
マキュベスにとっては魔石と言う存在自体が貴族的には好まれないということを父から聞いており、事実王都の寮にも王都にさえもなかった。
また、たとえ彼の実家でも魔石は貴重品でありこのように山積みにあるものではなくむしろ節約して使うものであり、加えて種類も精々赤いものと水色の物でどちらも火と水を出すものであった。
しかし、この場では数も種類もどちらも今まで彼が扱った量よりも多かったのだから異質と言わざるを得ないだろう。
「どうかしたのかな? ドロシー・ゴールディング令嬢」
彼がしばらく呆けていると、テオ殿下の方から来訪者へ話しかけてきた。
実際、この光景にマキュベスは口をあんぐりとあけていたのだから仕方ないだろう。
「あ、テオ王子! この方、マキュベスさんがテオ殿下に用事があるということで連れてきました。
研究室にも行きたいと言っていたので……」
と言うと、王子の目線がマキュベスに移った。
「ふむ、お主、我に名を告げることを許す。名を名乗れ」
「お初にお目にかかります。我が名はグラマー魔法爵家の三男である、マキュベス・グラマーです。
この度はテオ・パワー・グローヴァ―殿下に挨拶をと思い参上した次第です」
先ほどドロシーと会話していた時の彼の雰囲気は優し気で、身分を考慮しないのであれば好青年と言えるようなものであったが自己紹介の後のマキュベスを見る目は非常に鋭く、まさに獲物を見定めると言っても過言ではない。
それも当然の話であり、研究室と言うのは彼の根城であり懐ともいえる。
では、そこに初対面の人が立ち入ったらどうなるか? もちろん誰でも警戒するだろう。
一応その意味を理解していたものの、彼女に入室を許可したことから大したものはないだろうと高をくくっていたのだが全くそんなことはなかった。
(なんで入室を許可しておきながら、こちらを射抜くような視線で見るのですか!)
など、その理不尽さに困惑と怒りを抱いていたのだがその状況を助けてくれたのは意外な人物だった。
「テオ王子! この人だったら大丈夫だと思って連れてきたのにそんな目で見たらかわいそうですよ!」
「しかしだな、いろいろと事情があってだな。
特にマキュベス・グラマーと言うのは、かのトマス家の子息が所属しているクラスであってだな……」
「むぅ、確かにそうかもしれませんが……ただ、この人は下心はありましたが王子についての害意はなかったですし、ただの興味という線が濃厚ですよ。
あと、学院内ではそういう身分差は考慮しないと言ったのは王子ですよ!」
テオ殿下とドロシーが仲良くというか、むしろドロシーの方が優勢な会話をしていた。
そもそも、ドロシーの声で研究室に入れた時点でそれなりに彼女のことを信用しているのだろう、と今は思っているが、だからと言ってこれほどまでに親しいのはマキュベスにとって予想外である。
ちなみに、この学院内では確かに身分差はあまり考慮しないと言っている。
だが、それは少なくとも全員建前として受け付けているものであり生徒会長であるテオ殿下でさえ、マキュベスにあのような態度をとった。
何が言いたいかと言うと、学院の中でも当然身分差がありそれを覆すことは不可能である。
つまり事実上学院内でも遵守しなければならないものである。
にもかかわらず彼女らはここまで親し気に、例えるならば幼馴染のように接し合っているのだ。
もはやこの空間はマキュベスの理解の範疇を超えてしまっている。
これを例えるならば、そこらのスラムの少年が偶然神の声を聴いて王族さえ超えるような魔法を使えるようになり無双してハーレムを作る。この唐突さと同じぐらいである。
ちなみに、この小説は一度発売されたが貴族の怒りを買い今は絶版だ。
「あー、マキュベス殿。先ほどは威圧するような真似で申し訳なかった。
それで、私に用事があるということで話を聞こうか」
と、ようやく話が進んだ。マキュベスもこの状況を理解することを諦め、頭を切り替えることにした。
とはいえ、先ほどまで話そうと思っていた建前の話が全て消え去って彼の心に残ったものは。
「あの! あそこにおいてあるものは魔石ですよね! 一体どうやって集めたのですか!?
そして、赤と青以外の魔石はどのような効果がありますか!?」
であった。話すことがぶっ飛んでしまった彼にとってもっとも心に残ったのは魔石についてである。
研究で養った探求心や自負心と言うものがいつもの態度を崩してしまい、このように問い詰めるような状態になってしまったのだ。
今度は逆にテオ殿下の方がたじろぐ方であった。
殿下にとって、要注意の人のメンバーがここに来たということで何の用事なのだろうか? と勘ぐっていたがまさか魔石のことについて聞かれるとは予想外にもほどがある。
ちなみに、ドロシーはこの状況を予想していたのかニコニコし続けていた。
最初からマキュベスが殿下に用事があるということと、マキュベスが魔石のことについて詳しいというのは予想がついていたからだ。ついでに言えば、胸を大きく張り偉そうにしていた。
「わかったわかった、いったん落ち着いてくれ、マキュベス殿。
条件付ではあるが、この研究室について紹介しよう」
「本当ですか!?
その条件に付いて、詳しく聞かせてください!」
と、前のめりになっている。全然落ち着いていないマキュベスだった。
ちなみにこの空気にのまれてしまったのかドロシーも落ち着くどころか王子に自分の手柄をアピールしている。再び場がカオスに包まれた時であった。
「あー! 君たち! いったん黙りなさい!」
それと同時に王子の沸点も超えてしまい、ついに爆発してしまった。
なお、このシーンはマキュベスにとっての黒歴史になるのだがそれはまた後の話である。
お読みいただきありがとうございました。
こういう軽い文体の方が書いていて楽しいですし、筆も早くなります。
書きたいものと違うので、悩みどころではありますが。
次回の更新は土曜日か日曜日にします。




