解明編②:魔石について、及び魔力の代表的な性質①
魔石に疑問を抱いてから、マキュベスは魔法の練習に特に集中しようと心に決めていた。
補足だが、イサマの「魔法石」と先ほど出てきた「魔石」は別物である。
前者はただ石に植物を巻いたものであり、あくまで植物由来の魔法しか使えない。石に細工もない。
そもそも、これはイサマが名付けただけであって正式名称ではない。
一方で後者の魔石は正式に国が認められたものである。
種類も豊富であり、例えばマキュベスが見た火に関するものや水を出す魔石などもある。そして、魔石は植物を巻いておらず見た目はやや色づいた石である。
火の魔石であれば薄紅色、水の魔石であれば水色、など。
ついでに言うと、家庭教師の説明も間違ったものではない。
厳密に言えば、魔石由来の魔法は魔法扱いされない。しいて言うなら、「魔石による現象」である。これは一般常識であり、イサマの国の言葉で例えるならば「物が下に落ちる」のと同様の認識である。
そこになぜをはさむ人はそこまで多くないのと同様に。
なぜこんなことになっているのかというと、あくまで魔法の定義は「貴族が扱う現象」であり、魔石とは関係がないとされてきたから。
しかしマキュベスは、「魔法を使えない人が魔法のような現象を扱っている」と考えたからこそ、魔法に対してもっと勉強しようと思ったのである。
さて、話が戻ってマキュベスは別の家庭教師から授業を受けていた。
その周りには彼の兄弟もいた。
「魔法の定義に関しては前回やったため良いとして、今回はどのように魔法を発動させるかについて授業しましょう。
結論から言うと、魔法は体内にある魔力から発動するとされています」
と、いうことだった。確かに定義通り魔法は体内から出すものであれば、そのための何かが体内に必要になる。それが、魔力なのだろう、と彼は考えた。
「しかし、今皆さんの体の中に魔力があるにもかかわらず、魔法は使えません。
それはなぜか。複数理由がありますが、もっとも根本的な理由は魔力を体内で感知できていないからです。
なので、まずはそれを感知する練習をしましょう」
といって、家庭教師は彼らの元へ近づく。そして、彼らの目の前で魔力を感知する実践を行おうとしている。実はこれに関しては実技でしかできないこととされていた。
理論で追究できない以上、このようなことをする必要がある。
「それでは行きます」
といって、教師が静かに目をつぶる。すると教師の方向から彼ら兄弟に向かって圧のようなものが生まれてくる。次第にその圧は大きくなり、周りは何も異変がないにもかかわらず彼らはあたかも暴風にあおられているようである。
マキュベスは最初こそ何とか耐えようとしていたものの、ますます強くなってくるため次第に当てられてしまい倒れそうになる。しかし、ちょうど見計らったのかその一歩手前で終わった。
彼の兄弟は倒れていたものの、マキュベスだけは立つことができていた。その光景に教師は驚いたようだ。
「なるほど……マキュベスさん。今体内に意識を向けてください。何感じ取れるものはありますか?」
と聞かれたため彼は内部に意識を向けてみる。すると、体内に何かがあることを感じていた。
おおよそ胸あたりに石のような固形物がいきなり現れた。幸いにして呼吸が詰まったりはしないものの、いきなり何かが入ってきたようで気持ち悪い。
が、今は質問されていることと恐らく答えをもらえるだろうということで、とりあえず答えることにした。
「はい、何か体内に石にあるような気がします。そこの部分だけ熱い食べ物を飲み込んだようで気持ち悪いです」
というと、ほうと感嘆の声を上げる。
「ふむ、それが魔力です。実は生まれたときから体内にあるものでしたが、あることが当たり前すぎて感知できなかったのです。
一度感知できればいつでも何度でも、今の感覚を思い出すことで体内の魔力を感知できるようになりますので練習しておいてください」
ということだった。彼が、一度実践として体内にできた胸あたりにある石に意識を向けてみる。
気付いたら先ほどから熱かったものが急激に冷えてどんどん崩れ去っていくようであった。なので、もう一回先ほど感じたものを意識すると、またそれが熱くなり固まったように思えた。
なんとも不思議な現象と彼は感じていた。
マキュベスの兄弟たちも起き上がったが、体調に異変はなくまた特に違和感などもない。
なので教師としてはこれで終わらそうとしていたが、マキュベスから質問が飛んでくる。
「先生、質問ですが……先ほどなぜ我々にあのようなことを?
あれが魔力感知のきっかけですか?」
というと、マキュベスからの質問に待ってましたと言わんばかりに食いついた。
「結論からいえば、そうです。
なぜ、と言われると魔力と魔力はひかれあうとされています」
というと、なぜか教師はうっとりとした顔になった。それが妙に恐ろしく後ずさりした兄弟たちだが、教師は言葉を続けていた。
「なので、私の体内の魔力を活発化させて体外に放出しました。それによって、貴方たちの体内の魔力が影響されて、活発化するといった次第です」
である。確かに筋は通っていると考えていたが、肝心の答えが返ってきていないためそれをぶつけていた。
「確かに、マキュベス君の言う通り君の兄弟はまだ魔力を感知できていません
それは単純に私の放出した魔力が届かなかったからか、あるいはいまだに感知できるような段階にないからかもしれません。
たとえば、体内に入る前に防御されてしまったり、あるいは固まるほどの影響を彼らの魔力へ及ぼせなかったか。まあ、どちらにしても年月と練習さえあれば解決しますよ」
と軽く言っていた。ちょっと不安になったのか、マキュベスが兄弟を見るとそこにはきらきらとした目が合った。
「なあ、マキュベス!
どうやって感知したのか教えてくれよ!」
「そうそう、感知するとどんな感覚なのかも教えてくれ」
と、二人がかりで質問攻めにされているマキュベスの姿があった。
なお、この時に不安になったのは末っ子のみが魔力を感知できたことに対する不安であったが、この兄弟に限ってはその心配はなかった。
兄弟たちがさっぱりとした関係なのもあるが、家族自体が才能を認められたことで爵位をもらえたようなものなので実力主義的な風潮が特にこの家では強かったのもある。
とにかく、こうして魔法の講義が彼にとって成功という形で終わったのであった。




