11話~「真から作る嘘」~
前回のあらすじ:いろんな人がマキュベスに絡んだ。
そして、今残っているのはマキュベスがお世話になった土を司るハリー公爵。
彼に、自身が発表した技術の元は隣国の発表だと伝える。
遅くなって申し訳ありません。
「つまり、これと似たようなものが隣国に存在します」
というと、ハリー公爵は表情を隠すことができないほどに大きく驚いたようです。
確かに、このような植物を本当に発見できたら私も動揺します。
軍事力的な観点でも、産業的な観点から見てもあまりに重大なものと言えますから。
もちろんこれは嘘です。正確に言えば、イサマから得たものをより厳密に調べたものを発表しました。
ではなぜこのような嘘をついたかというと、端的に言えば危機感をあおるためです。
そもそもの私の目標は、魔法という技術をできる限り広範化することで、いろんな人の手に触れることで総合的な研究力を伸ばすこと。
隣国のスメラギ皇国はコリオダ王国よりもずっと長い歴史、土地、人口を誇ります。
幸い、あちらも一枚岩にまとまっていないようですが進歩の勢いに関してはこちらを上回っているといっても良い。
その理由は、より多くの人が研究に携わっているからと考えました。
なので、このような嘘をついたわけです。
前にハリー公爵にはスメラギ皇国の科学技術が発達しているか、という相談をした時に一番危機感を持っていただいた方でした。そのおかげか、ようやく理想に多少なりとも近づいてきています。
その最たる例が例の四属性魔法……公爵たちが司る属性が、非常に基本的なものであれば誰でも使えることの発表です。この事実でさえ、発見自体はもっと前とされてきましたが明るみになったのはごく最近です。
今でこそ学院の教科書に載り体系化されていますが、私の時代では異端とされてきました。
ではなぜ闇に葬られていたのかというと、一言で言えば公爵家の方にとって不都合だから。
公爵家の方々もこれについて技術を持っているわけです。それを何の対価もなしに公開するなんて、それこそ死んでもやらないことでしょう。
実は公開した経緯には、適性がないとされてきた人が使える事実があったこと、そして王族の方が使えること、そして当時の公爵家の方が請求したこと、という事実と様々な騒動によって、最終的に公開することになったというものです。
それはさておくとしましょう。自分の思考をいったん区切り、違うことを考えます。
そして、これを知ってからある仮説を立てました。
所謂公爵家の血に影響された魔法は、少なくともその内容は同じような血を受け継いでいる人であればだれでも使えるのではないか、というものです。
もっと一般化すれば、四属性魔法はその亜種も含めて我々魔法を使える人であればだれでも使えるのではないか、と言えます。
しかし、この考えは間違いなく危険です。
基本的な四属性魔法の一般公開でさえ非常に長い年月がかかったのですから、この仮説の立証には何百年かかることやら、という次元です。
最終的な目標はその仮説に達さずとも、せめて貴族がどこまで魔法が使えるのか、という限界を知ることです。
ただ、しがらみや思想もさることながらそもそも危機感がないため絶対無理でしょう。断言します。
なので、私が採用した方法は他国をダシに使うという形です。
普通の貴族には信じてもらえないだろうと思っていますし、正直そちらには期待していません。
お目当ては、ハリー公爵です。ハリー公爵が危機感を抱いて下さって、動いて下されば目標は達成です。
私が動くよりかは権力の構造上、公爵家の方に動いてもらった方が早いです。
ちなみにイサマが鋭い指摘をして驚きました。
その内容は、「どうして、スメラギ皇国と偽る必要があるのですか?」というものです。
その場では国だから信用できる、と返しましたがあれは嘘です。
確かにイサマが出典では信用なりませんが、スメラギ皇国であっても信用してくれません。
なぜなら貴族の方たちは隣国を見下しているので、そこが出典と言っても鼻で笑われます。
とはいえ、この事実を知らないため隠して説明したら納得してくれました。
将来的には私みたいな悪どい貴族と渡り合ってもらう以上、知識と練習に関してはもっと詰め込むようにせねば、と思いましたがそれはともかく。
「それは、例の技術が絡んでいるのですか?」
ハリー公爵が尋ねてきます。例の技術とは、隣国が用いている技術のことを指しています。
「……はい。皇国の技術によって、この内容と似たようなものはすでに発表されています」
少し悩みましたが以前あちら側の発表に参加した時、より強く火を出す研究の発表がありました。
比べると、あちらの方が単純なものでしたがまあ問題ないでしょう。
我ながらかなり危ない橋を渡っているためか、手に汗がにじんできました。
しかし、それを顔に出さずに真剣な顔で顔を合わせます。
「……わかりました。私の眷属にも、派閥にも声をかけておきます。
他の公爵家にも働きかけてみましょう。その間は隣国についての研究を調べてほしいのですが、よろしいですか?」
なんとか、ごまかすことに成功したそうです。自分の研究と兼業することになりますが、想定の範囲内なのでまあ問題はないです。頷いて了承の意を示します。
「ところで先ほど発表から得たと言っていましたが、発表者の方と連絡を取り合うことは可能でしょうか?」
……ふむ。今すぐ返答しなくとも差しさわりはないでしょうしごまかしておきましょう。
「いえ、まだ行ったことがないためなんとも……。
一応、論文掲載の際に連絡を取ってみましたがうまくいかなかったです」
と言うとハリー公爵はその場を立ち去りました。
面会が終わって帰宅準備に入りますが、その場で大きなため息が漏れました。
思えば、ずいぶん危ない綱渡りをしたものです。貴族社会で嘘は厳禁なので、余計に疲れました。
しかし、イサマはあの提案をよく受け入れてくれたものです。
確かに私の方が利益が大きいものでしたが、一応イサマにもメリットはありました。
一つ目は、コリオダ王国の教会に目を付けられないこと。
今だからわかりますが、あの研究をそのまま提出すると非常にまずいです。
昔は私も似たようなことをして、父になだめられたものです。
なぜなら、私もイサマもこの国の魔法至上主義を壊しかねない結果を出しているのですから。
私の場合はまだ微弱ながらも後ろ盾がありましたが、イサマの場合はせいぜい私ぐらいしかいない。
しかも、私自身もそこまで権力を持っていない以上、不甲斐ないことに庇うことは不可能です。
そのため、あのような手段に走りました。
我々の都合ではありますが……納得してもらうしかありません。
二つ目は、共同実験者に名前を載せないことで貴族たちに察せられないこと。
前にも言った通り本来ならばそこに載せなければなりませんが、教会のみならず他の貴族たちも目をつけられかねない。
ただでさえ、私が庶民に魔法について教えていることがばれたらかなり面倒なことになります。
其れだけならまだしも、その子が共同実験者として名を載せているとなると……普通は殺されるでしょう。
うまくいってもどのような扱いを受けることやら。少なくとも、まともに人間として生活できないでしょう。
何度も言いますが、教会からも貴族からも守れるほどの権力はないです。
なので、このような消極的な戦法を取らざるを得ないというわけです。
完全に彼を巻き込んでしまいましたが、それを見越していろいろと教えています。
私も貴族なので、ただで物事を行えません。具体的には、この国の体制に楔を打ってもらいたいと考えています。
それだけの能力を秘めている、というのが私の見込みです。
それには、最低でも皇国側が掲げる技術を、理論だけでも理解させるよう教育したいと思います。
普通に考えれば無茶なことを要求していますが、彼ならやり遂げてくれるでしょう。
なぜならイサマの理論が皇国側に近く、なおかつ呑み込みが早いからです。
後は……不確定な要素は多いものの、最終的には彼を学園に入学させたいと思っています。
確実に嫌がるでしょうが、魔法を研究するといった場合少なくともこの王国では学園を通過しないわけにはいきません。
それに私では教えられる内容に限りがありますし、研究施設も魔法の強度を計る道具があったりなどあちらの方が潤沢です。
優れた環境を提供するにも、しがらみのせいで余計な負担を強いることに申し訳なく思ってしまいます。
以上が、イサマについての育成計画になります。
一応、ここまで彼の能力を見て計画を立ててきましたが……これは直感ですが、彼ならば不可能とされてきた「庶民でも魔法が使える」を実現させそうです。
正直夢見がちと自他ともに認められている私でさえも不可能、と断じていましたが……彼ならやりかねないと納得している私がいます。
それを計算すると、大幅に計画を動かす必要はありますが……妄想を考えても仕方ないですね。とりあえず、この計画で行きましょう。
お読みくださりありがとうございます。
次回こそ、本編の方は魔法の話になるかと思います。
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それでは、次回は火曜日に。




