7話~「交渉と違和感」~
前回のあらすじ:マキュベスに顕微鏡を作ってもらえないか依頼。その際に、マキュベス側から交渉を持ちかけられる
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椅子にしっかり腰かけ先ほどと同様に俺の瞳をしっかりと見つめてきた。
「端的に言います。貴方の研究成果を私が追試をすることで確かめられたため、それを発表にしようと思っています。
本来ならば共同実験者の欄に貴方の名前を記述せねばなりませんが、今回は協力者の方にしたいという提案です」
であった。まず、引用に関してはともかく協力者とは何かが分からない。
「えっと……まず協力者とは何でしょうか?」
「っと、失礼しました。まず共同実験者と協力者の違いについて述べましょう。
共同実験者は、その名の通り一緒に研究をした人のことです。
具体的には、違う実験や理論について研究してもらった人のことを指します」
ふむ。一緒に研究してもらった人のことか。もう一つの方を聞かないとよくわからないな。
「一方、協力者は引用とは異なり助手、あるいは協力してくれた人という扱いになります。要は聞き取り調査や村に訪れた際、お世話になった人について書くものだと思ってください」
なるほど。要はアンケートに協力してくれた人とかそういう扱いか。当然ながら、協力者の方が名声的には小さいのだろう。
まとめると、共同実験者は同レベルの立場、前世で例えると教授同士や助教同士などでやるものであって、協力者は研究をする教授とそれの助手……言い方を変えるとパシリにされる学部生みたいなものか。
つまり、どちらかによって立場が大きく異なる。
ここまで考えて、一つ疑問があった。
「そうなると、俺の知識は何の引用とするのですか?」
「恐らくスメラギ皇国の引用になるかと。あちらには私の研究する内容と近い論文がありましたので」
と断言した。
これは何が聞きたかったのか、というとヒフキソウなどの植物についての研究だけならマキュベスが発見したと言えなくもないが、実はほかにもいろいろと教えてしまっている。
例えば、俺の現代の知識である、古典物理学について度々教えていた。と言っても、初等レベルの力学ぐらいしか修めていない以上、あまり教えられることがなかったのだがマキュベスとしては感動していた。
電磁気に関しては、電気そのものを発見できていないため教える余裕がなかったのがそれはともかく。
で、それらの内容についてマキュベスが感動しているということは、すなわちコリオダ王国にあるものではないのだろう。
事実、マキュベスも初めて聞きました、という表情もしていたし本で調べてもらったのだが載っていないようである。
それについてどうするか、ということでスメラギ皇国という隣国を盾にするらしい。
確かにスメラギ皇国は自然科学の分野に関しては、今俺がいるコリオダ王国よりもずっと発展している。そこらへんは授業で習った通りであるが、まだ論文を読んだことがない以上何とも言えないのだが。
が、肝心の謎が解けていない。そこを聞いておかねば了承もできない。
「なぜ、そのようなことをしないといけないのかご説明をお願いできますか?」
というと、頷きながら恐らく用意しただろう答えを教えてくれた。
「端的に言えば、貴方の理論は少なくともコリオダ王国では異端です。さらに、イサマはどこかの研究者でもなくましてや貴族でもない。このままではだれも受け入れないでしょう。
しかし、スメラギ皇国とあなたの理論は両者の発表から見ると似ているところがある。そのため、利用させていただくという形です」
……確かに。スメラギ皇国の発表をマキュベス経由でしか見ていないので何とも言えないところだが、コリオダ王国ではまず受け入られないだろう。ついでに、マキュベスはコリオダ王国所属の魔法研究者。
聞いた話から察するとスメラギ皇国の研究者と接点を持つことはともかく、一緒に研究というのは難しいのかもしれない。
もうひとつ面白い情報が確認できた。それは、俺の理論をマキュベスの研究に用いることができる件。
本当は剽窃に怒るべきかもしれないが、個人的にはうれしいという感情が先に出た。
理由は単純。地球の物理の法則や考え方が、異世界における最先端レベルの魔法においても部分的に適用可能であるから。
以前ヒフキソウは前世の物理法則が一部適用できたが、一方でゴムクサは一見質量保存の法則を無視した振る舞いをしていた。以上から過度に信用しないようにしていたが、マキュベスの魔法に通じるとなるとあながち方向性は間違っていないはずである。
とここまで考えてたのだが、どこかぼんやりとしたものを感じる。具体的には、質問と回答がずれているような、そんなものが。
「マキュベス。もう一度同じことを聞きます。
どうして、スメラギ皇国と偽る必要があるのですか?」
それを聞いた途端、感心というか若干面倒そうな顔をしていた。
以前と比べて感情を表に出してくれるおかげで、とても分かりやすい。おかげさまで、この質問が核心をついていることを察した。
しかし。
「……はぁ。先ほども言った通り、貴方の知識を使って研究したのですがその隠れ蓑として皇国が最適だからですよ」
というものだった。
もう一度考え直す。マキュベスの言い分は確かに筋が通っている。
俺がこの知識について述べた、と引用しても信用されないのでお隣の皇国にすることで信頼を勝ち取ることができる。
確かにその通りだが……どこか引っかかる。とはいえ、いくら考えても、問題ない以上話を続けることにした。
「一応聞いておきたいのですが、スメラギ皇国側にばれたらどうします?」
「問題ありません。そもそも内部の発表なので追跡が不可能でしょうし、仮にスメラギ皇国に関して引っかかったとしても知識の引用に関しては特に問題はないです」
お隣の国の著作権の概念がどうなのか不明だが、知識の引用であればお隣の国にあるモノであると記述すれば確かに問題はないか。まさか隣国にまで言ってそれを確かめるなんてできないだろうし。
先ほど感じた矛盾がすべて氷解した。
そうなると、残る要素はマキュベスがこれに関してどのように使うかというある種の信用問題だろう。であれば……腹は決まった。
「わかりました。その話を受けたいと思います」
というと、マキュベスもなぜか驚いているようであった。不思議に思ってそれについて聞いてみると
「あまり細かい条件を言っていないのですが、よろしいのですか?」
「いろいろ考えてみましたが、結局マキュベスを信用するかしないかという問題になりました。今まで育ててくれたことから、変な様には扱わないだろうということで納得しました」
と、恥ずかしながらこのようなことを言ってしまった。感謝の言葉はそのたびに言わないといいそびれてしまうから。
あまりマキュベスの方を直視できなかったが、勇気をもって彼の方を見ると
……なんと彼も照れていた。貴族特有の白い肌に若干頬が赤ざし、あまりこちらを直視できていないようであった。
とまあ、十二歳の無骨な少年と三十過ぎの色白ダンディなおじさんが両方とも恥ずかしがっているという奇妙な空気の中。
ようやくマキュベスが咳払いして、空気が元に戻った。
「ともかく! 条件に関してはありがとうございます。代わりにあなたの要望もできる限り早めに対応するよう努めます」
といって、どこかあわただしく去っていった。
こうして、異世界初?である顕微鏡作成を受け付けてくれたのであった。
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