理性と感情
あらすじ:大けがを負ったイサマだが、看病のおかげか早く治った。これから村へ向かって生存者を探す。
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傷も癒えて歩けるようになった後。
満を持して……という形で下りることになった。
ちなみに、マキュベスさんの家は以前俺が実験していた場所よりも、ずっと山の上に位置していた。
何の研究をしているのかというのはまだ教えてもらっていない。
だが、恐らく魔法の研究だろうと大体のあたりをつけていた。
見た目から醸し出される気品、上品さを感じられる口調、そして雑談にも度々現れる教養。
明らかに俺が持っていない要素ばかりである。
当然、高いレベルの教育を受けていないと出さないものであろう。
なぜそのような方が俺に優しくしてくれるのかよくわからない。
正直理解できないことが多すぎてもはや怖いという次元まで来ているが、よくよく考えると理解していようがしていなかろうがやることはあまり変わらないのである。
彼が魔法を使えるとしても使えなくとも、どちらにせよ俺に選択権はない。
体格差も情報といった面でも負けている点、そもそもすでに懐まで潜り込まれている以上対処ができない。
だったらおとなしくしたがった方が扱いがマシになる可能性も高い。
それに、助けてくれた人物を疑うようなことをしたくないという感情面もある。
以上の理由から、彼のことをある程度信用することにして一緒に行動する。お互いに話すことはないため、木や葉の踏まれる音、たまに響く虫の声といった自然の音が響くだけの奇妙な空間が生まれている。
居心地も悪くはなく、距離感もこのままで十分である。
考えることが終えると、次はすぐに父親のことが思いつく。このことを考えるのが嫌だから、必死に目を背けていたが結局これに帰結してしまう。
相も変わらず頭の中はifの話しか思いつかず、現実を捉えようとしていなかった。
もしかしたらあの盗賊たちは村を滅ぼしていないのかもしれない、たまたま残党が俺たちのところへ向かっただけで、とか。
グルグルと迷い込んだ挙句、最終的にはどこか冷たいナイフが突きつけられているようで呼吸する余裕や空間さえどこか無くなってしまいそうになる。
仕方なく、余計なことを考えて気をそらすことにした。
理性と感情というのはしばしば二項対立に使われる。
なるほど確かにどちらも違うものであるが、しかしどちらも人によって、脳によって作られるものという意味では、このように相対はしないはずである。
何が言いたいのかというと、つまりどちらもある一つのものによって統制されていて、それが場合によって感情と理性という形で別れるのではないだろうか。
例えば、今回で言えば村が襲撃されたという事実に関しては認識している。
その結果、村は滅んでいるかいないかという点を理性と感情という形で分類できる。
では、それを区別しているのは何か。
結局自分自身がその事実に対してどう向き合うべきか、によるのではないか。
理性で向き合うか、感情と共に逃げるべきか。
どちらが正解で、どちらが不正解なんてものではない。
理性で向き合った結果壊れてしまうケースも前世で何回も聞いたことがあるし、時間の経過のため心の傷がいえたという話も多い。
その人として最も合っている対処法はどちらかという話にすぎない。
じゃあ、俺の場合どっちが正解なのだろうか。
わからない。
今までは理性によって物を捉えるようにしていた。少なくとも、魔法と両親に関してはその傾向は強かった。
一方で理性で抑えていたからこそ、感情もどこかで爆発することになってしまった。それがあの盗賊の来襲しかり、先ほどの嗚咽しかり。
今度の場合は、理性でとらえるべきなのか。それとも感情と共にあるべきなのか。
と、こんな余計なことを考えたおかげで、何とか気持ちが乱れることなく歩き続けることができた。
ようやく見覚えのある森についたようだ。そこの中に入り、木漏れ日を浴びながらまっすぐ進む。
ついに村が見えてしまった。
今まで余計なことを考えたりで我慢していたが、見えてしまってからは何も考えられなくなってしまう。
やはりあちこちに見える黒い跡。ほとんどの家屋がすでに崩壊しているが、多少なりともいまだに使える家屋が存在していた。
それを知覚した瞬間、近くにマキュベスさんがいるにもかかわらず走り出してしまう。
どちらにせよ、「観察」という事実無しではこの先に進めない。確かめないといけないのだ。
一生懸命走ったからか、だいぶ息が荒くなってしまったがいつもの村の場所にたどり着いた。……はずだが、やはり見覚えがあまりなかった。
あの時一緒に隠れた倉庫はもちろん、サッカーで遊んだ時の家も、その広場も。
代わりに覚えているのは肉の匂い。それがいまだに俺の鼻を刺激して、この場にはないはずの血の味さえ連想させる。そして、いつの間にか煙の匂いも頭の中で反芻されていく。
今の風景の何もかもが自らにとって有害なものに違いなく排出せねばならないのだが、ふと見覚えのあるものがどうしてもそれをとどめてしまう。
そうだ、大声を。大声を出して生き残りがいるとアピールしなければと喉を振り絞って声を出す。が、その直前声がかすれてしまった。代わりに出てくる声は形にならない叫び。
まずい。これ以上やると押さえられない。一生懸命飲み込んで抑える。
吐き出したいのに、吐き出せない苦しみを味わいながら家へ向かうことにした。
まだ誰かいるかもしれない。もしかしたら、そこは無事なのかもしれない。
感情は常に甘い味をもたらしてくれるが、しかし理性は苦いことが多い。
それなりに歩いて、俺の家を見つけようとしてもなかなか見つからない。おかしい、ここぐらいにあったはずなのにない。
さすがに家の場所を忘れるなんてありえない。もっとよく探さなければ、と思っていた時にどこか見たことある石造りのような場所があった。
「イサマ、もしかして魔法を使おうとしているの?」
やめてくれ。もう思い出さないでくれ。
「こんな危ないことはやめなさい!」
その声が響くころには、慟哭が、貯水が今この場所に響いていた
今更忘れることなどありえない場所、声、人、思い出。
忘れられた思い出が、今更傷に塩を塗るかのように戻っていく。
なんで、何で今更都合よくこれが振り返るんだよ。
もっと、もっと前にあっただろう!
もしくは、なぜ今思い出したんだよ!
理性のままで動こうとしていたなら、今も理性を保ってろよ!
こんな都合よく感情を出すな!
なぁ……頼むよ。
お読みいただきありがとうございました。
この話は感情描写に力を入れましたが、どういう風に思われるか筆者もわかりませぬ。
恒例となりますが、
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