12話~「Battle with fate ① turning point」~
ブクマ登録、アクセスありがとうございます!
本日の話です。
あたかもガラスの破片に恐る恐る触るかのような雰囲気。
どうやら俺の問題は村全体に知られていたらしい。だからいたたまれない空気が醸し出されていた。
一人の人間が動いたことでようやくその空気が一歩進む。
その男は年老いており皺や白髪も多く背が俺より少し高い程度であった。
人生を長く歩んできたからか理性的な目つき、ご老体にもかかわらずしっかりとした足取りをもつためか独特な雰囲気を出している。
彼は一度お祭りの時にあったことのある人であり、うろ覚えであったが確か長老である。
彼がこちらに来て今までの事情や村について話してくれた。
「イサマ。おぬしは母や父にずっと心配されておったぞ。何回もわしのところに相談に来た」
ナイフで切り付けられた傷をさらにえぐってくる。だが、目を背けるわけにもいかない。俺自身の罪だから。すでに俺の頭は母でいっぱいであった。
「カレラによると、おぬしは生まれた直後からほとんど世話がかからなかった。
最初はうれしく思ったらしいが、成長してからもほとんどのことを自分でやろうとする。
そんなおぬしに悩みわしのところへ来た。それが最初じゃ」
確かに生まれた直後はほとんど親に頼らなかった。さすがに授乳に関しては頼らずにはいられなかったが、他の事。例えばトイレに関しても赤ん坊の時を除き、教わる前に自分でやるように努めていた。それも、負担をかけたくないからという一心で……
「彼らはそれについてずっと不安であった。親として何もすることがない。私たちと遊ぶことも避けようとするから。私たちは親に不適なのでしょうかと毎日相談に来るぐらいでおった。精々一緒にいるのは寝るときかご飯を食べるとき。しゃべりかけてもあまり芳しくない、と」
そうだ。確かにあの時はあからさまに距離を取っていた。わけのわからない人と距離がとりたいから、とたとえ仲良くなったとしても前世の父母が迎えに来てくれるから、と思っていたから。
「しかし祭りに行ってからおぬしは大きく変わった。
同年代の子供と比べて町の祭りに一切騒がなかったおぬしが、魔法を見せてから目が輝き始めてこの時だけ子供っぽくなった。そして今までの姿が嘘みたいに生き生きとなった。
ようやくおぬしの子供っぽいところが見れるようになったと一安心したのじゃが……」
あの時は魔法を見たことによって確かに興奮した。そして父母たちに魔法が使えないか聞いてみてできないといわれたはずだ。その時よりも祭りの前の時の方が死んでいたということか……
「おぬしは親と遊んだりすることなく、友達とも遊びもせず、我々とも話もせずに山にこもっていた。
最低限の手伝いなどをしていたそうだが、話しかけてもあまり心がこもっていない返事。
村そのものと接点を持たないおぬしに我々も常に悩まされていた」
この異世界において村と言うのは独特の社会を形成する。
所謂ムラ社会は村の人全員で何か物事に対応するものでそこの子供も例外ではない。
だから俺が一人で山にこもって魔法を研究するなど非常に珍しかったのだ。
そして八歳ごろ。ヒフキソウを使って母のお手伝いをした時。
俺があたかも魔法のようなものを使って火を起こしたのを母が見てしまった。
「おぬしが火の魔法を調べていることがカレラの申請で分かった。これは由々しき事態である。
というのも、火の魔石を持ち出したのかと思ったがそうではなく勝手に火を出していた」
今までは危険がないということで俺に任せていたのだが、炎を扱うということからかなりきついことを言ったと長老が言っていた。
俺が考えた内容であるご貴族様の既得権益に絡むかと思ったが、そういうわけではなく純粋に石無しで火を扱うことが一番心配であったのだろう。
「ただ、おぬしの意地を考えるとやめないであろう、ということで尾行していたといっておった。しかしおぬしが一週間ほど友人たちとサッカーで遊んでいることから、彼女も安心したらしい。
それにおぬしが危険なことをしないと誓ってくれたそうじゃ」
確かにあの時は尾行されていた。サッカーをやることでごまかしていたが結局魔法の研究を再開してしまった。それも以前にもまして危ないものである爆発に関するヒフキソウを。
彼女をだましてしまった形になってしまったことに今更追い打ちがかかる。
結局、親の心子知らずであった。母に嫌われるだなんて、そんなことはなかった。母は俺のことを強く愛していて、信じていてくれたのだ。
だから今の母を放っておくことがどうしてもできなくなった。
なにせ自業自得なのだ。そのツケを払いに行きたいと、自分勝手に言っている徒のガキが俺である。これも、秘密だなんて言わなければよかったのだ。村の人にちゃんとコミュニケーションを取っていればこのような事態に陥らなかったはずだ。今の魔法石を大人たちに使わせれば莫大な火力になるはずだから。盗賊たちも簡単に撃退できていただろう。
どこまでも自分は子供であった。いやまだ子供の方がましだ。子供であったら正直にこういったことを話せるのだから。俺は子供以下だ。
親としっかり相談して話し合っていれば……
まさに後悔先に立たず、という言葉が俺の中にしっくり来てしまった。
何が第二の人生だ。これじゃ転生しないほうがまだ賢かったじゃないか。
何が大人の頭があるだ。精神が幼いままではないか。
何が転生だ。なんで考えることを怠ったんだ。
遅すぎる決意を胸にする。
今更かもしれないが父が帰ってきたら研究とか後回しで今までの隙間を埋めるために動かなければならない。急に距離を詰めるなんぞできるかわからないがするしかない。
が、その決意はあまりにも遅すぎた。
後悔先に立たずという言葉はまだ俺に早すぎた。もっと、できたことはあるのではないか。
母を置いてでもやることはあったのではないか。
生きていれば大抵のことはどうにかなる。
俺が母を置いていても父を連れ帰ることとか、今持っている魔法石で盗賊を倒すとか、他の選択肢があったはずだ。
先ほど後悔したばかりなのにまた同じミスをしてしまった。
感情的にならず常に考えるようにするという反省が、この場が一番生きたはずなのに母と一緒にいたいという感情が邪魔してしまった。
その判断が最もワーストな判断であるにもかかわらず…
やがて、黒く分厚い雲から雨の勢いが増してさらに雷が降り始めていた。
お読みいただきありがとうございました。
あまりあとがきは書かない方がいいということなので、恒例のものだけを。
この小説を読んで心に何か残ったり、興味を持ってくださったらぜひともブクマ登録、評価をしていただければ幸いです。
またもし気が向いて下さった方は下の「小説家になろう 勝手にランキング」のリンクを押していただけると幸いです。押して頂くだけで構いません。
それではまた明日。




