11話~「Battle with fate ① self-contradiction」~
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前回のあらすじ:村に盗賊が訪れた。村に助けは来ないため自分らで対処しないといけない。イサマと母は一緒に避難所に向かっていった。
本日の話となります。若干ボリューミーであります。
ちなみに、サブタイの①はこの事件そのものに関して名付けています。言うなればターニングポイントの事件です。
なので、この事件が終わらない限りは①のままです。
母と共に避難所に向かっている間。ふと頬に冷たい液体がかかった。
空を見上げるといつの間にか黒い雲が覆っており、雨が降り始めていた。そのためか母親の手を握る強さも、引っ張る強さも先ほどよりも強くなっている。
ようやく避難所に到着して中に入る。外に一人ずつ壮年の見知らぬ男がいるぐらいであった。彼らがこちらに気づくと
「おお、カレラさんも大丈夫でしたか!? さあ早く中へ!」
と言い、俺らを押すように中に入れた。カレラとは誰かわからなかったが、母が応対しているのを見ると恐らく彼女のことだろう。自らの母親の名前さえわからないのかと気づいてしまって、自分が如何に屑なのかを見せつけられたようで笑わずにはいられなかった。
笑いを隠すため俯きながら中に入る。あたりを見回すと女性と子供、老人ばかりであった。見ると、顔だけ知っているような人たちがみんな集まっている。その中にはなぜか若い男の人がほとんどいなかった。
何度もあたりを見渡してくまなく探したがやはりいない。嫌な予感がよぎったため母の方に急いで駆け寄る。
「ねえ、父さんはどこ!? ここにいるよね!?」
と聞くと母親は一瞬俯いてから、どこかごまかすように笑って
「父さんは今違うところにいるの。すぐ帰ってくるから安心しなさい」
というや否や俺の身体を抱きしめてきた。
嘘だ。
先ほどの話から、若い者たちだけで盗賊と闘っているはずだ。
父もそれにもれずに、俺たちに何一つ言うことなく向かってしまったのだ。
いや、違う。何一つ言えなかったのは、俺が家族との会話を今まで碌にしてこなかったからだ。
ここにきてようやく自分が何をしでかしたか気づいてしまった。今まで持っていたものを失ってようやく気付くなんて、なんてアホなんだよ……
これも全て自分のことばかり考えていたからだ。
前世がどうのこうのといって変な意地を張らず、家族というものを大事にしていればせめて挨拶ぐらいはできた。
今日も何かする予定もなく、家にいる方が居心地が悪いという理由で外に出てしまった。
結局朝食の時に顔を合わせただけ。
今更後悔が頭をよぎる。今までの薄い思い出が、部分的に濃くなって俺の頭に横断幕を作る。その長さは非常に短いものであったが、非常に濃く頭に染みつくようである。
……だめだ。後悔なんてしていられない。今なら間に合うかもしれない。
そう、行かなければならない。興味範囲の範疇であるがこのような時のために俺は研究してきた。
魔法石。
これさえあれば、盗賊なんて簡単に勝てる。雨の中で使ったことはないが、原理的には問題はないはずだ。俺の推測では茎に作用するエネルギーによって大気などに影響する。だから、内部には問題はないはずだ。
それに火力に関してもご貴族様のあの時の魔法の威力を上回るうえ爆発もある。大量に用意すれば盗賊たちも手を出せないであろう。
頭と心がすぐに想いに満たされる。まるで水によってそれらが埋め尽くされて理性の体積が小さくなってしまったよう。だが、其れでも動かないよりはましである。
自分のポケットに手を伸ばし予備の石があることを確認してから、母親の抱擁を逃れようとするが全く緩めてくれなかった。放して、と言っても全く緩めてくれない。
……あまり言いたくなかったが、言うしかないのか。
「母さん」
ゆっくりと、声を上げる。
はっきり言って、怖い。しかし、打ち勝たねばならない。
これで、後悔したくないから。
これ以上、失敗したくないから。もう二度と取り戻せないことがないように。
「実は、あの後も魔法の研究を続けてきた」
母の力が弱まり、俺の顔を、瞳を見てくれた。
前世の印象から母は老いていると思ったがこうしてみるとまだ若い。
しかし、どこか疲れたような顔をしている。
今になってようやく母の顔をまともに認識できた俺に嫌悪感を抱きつつも、続ける。
「そして、炎の魔法研究に成功して今は大きな炎や爆発を出せるようになった」
母の手は震えている。あの後危険なことをしないといっておきながらここまでのことをやってしまった。
当然怒っているだろうが、続けなければならない。
「その力があれば、父さんを村の人を助けることができる」
途中で声が震えてきて頭がかすんできた。
声に伝導したから体が震え始める。何におそれているのだろう。母に叱られることか。殴られることか。
違う。それだけならばまだましである。まだ俺のことを見てくれているから。
怖いのは嫌われること。今更になっていかにお世話になったのか俺の中で反芻される。
こんな不出来な息子でも心配してくれ、叱ってくれて温かく迎えてくれて。それがどんなに珍しい事か。
前世の知識があるからこそそれが如何にありがたいか父さんがいなくなってようやく気付いた。
今までさんざん今世の家族を否定しておきながら、そのようなことを思うなんて自分でもおかしいと思う。あふれ出てくる自己矛盾によって思考と足元がふらつく。
次第に自分が何を考えているのかさえ分からなくなっていく。
だけど、父の姿を振り返って思い出した。
今の目標は決まっている。
だから自信にあふれるようにしゃべり続ける。それは他者に見せるためなのにもかかわらず、いつの間にか自らを鼓舞するためだけになっている。
「だから、俺を、戦場に連れていかせてくれ!」
そこまで言って反応を見ようとするといきなり頬に衝撃が走る。急に身体へ横の力が加わり、また思いのほか衝撃が強かったせいかすぐに顔を正面に戻せなかった。ここに来て初めて頭がフリーズしてしまう。
「馬鹿!?」
といって間抜け面の俺は先ほどよりも強く暖かいものに包まれた。その感触が来たときは何が何だかさっぱりで余計にパニックになったが、自らの目標を思い出して母を一生懸命はがそうとするが今度は一切力を緩めてくれなかった。
「どうして…」
抱きしめられた方向から小さく声が聞こえた。
「どうして、あなたはそこまで私から離れようとするの!?」
途端に金切り声が来た。怒声のようであるが前に魔法を止めるように言われた時と違い、ガツンと脳が殴られたように思えた。母がここまで大きく悲痛な声を上げるのは見たことがない。
「私は、ふがいない親だったかもしれない。貴方にとって、頼りない親だったかもしれない。私たちもあなたが魔法のことをやっているのは知っていたわ」
ここまで感情的な姿になったところはなかった。温かく見守ってくれていた母親がここまであらわにすることのを見て、あまりにも痛々しく目を離すことができなかった。
さらに空間に痛みが伝搬する。
「だけど、せめて私にあなたを守らせて頂戴!
親失格だとしても、子供を見放していいわけないじゃない!
だから、せめてあなただけはおとなしくここにいて……あなたは私の子供でしょ……」
ここまで言い切って俺を抱きしめたまま崩れ落ちてしまう。慌てて容態を見たがいったん寝てしまっただけであった。
母親のすべてを振り絞った先ほどの言葉に自分自身が揺らいでしまい、倒れそうになるが一歩耐える。
周りを見るとこちらを見る目があまりにも痛々しかった。
お読みいただきありがとうございます。
え? 強引だって? 筆者もそれは感じています。
補足として、人は気づかぬうちに大事なものを持っているのです。イサマはそれに気づくのが遅すぎただけで……事実、無関心であれば(ストレス解消以外の場面において)叱ったりしません。
これに関しては明日投稿する話で多少触れます。
意図的にイサマと今世の親の描写は薄くしましたが、上のように今世の親と関わり合いを薄くすることを考えて描写しましたが……どうでしょうか?あまりにも薄すぎますかね?(ちなみにこれでも原文と比べると描写を増やした方です)
ちなみにこれに関しては長く続きます。なのでお付き合いいただけると幸いです。
さて、恒例ですが
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それではまた明日。




