1話~「魔法は時に希望にもなる」~
あまりSFっぽさがないですが、もう少しだけお待ちください。
前世で某理系大学を卒業。そして、明日から大学院という研究する場所でより勉強する……となって就寝すると、なぜか違う場所にいた。
意味が分からないと思うが、今の状況を簡潔に説明するとこうなる。
見知らぬ天井。見知らぬ布団。見知らぬ空気。本当の恐怖というのは声が出ないということを体験した後、多少なりとも合理的な答えを模索する。
誰かに拉致でもされたか…と思ってあたりを見渡すも全く知らない空間、物体、そして柵。
上体を上げようとしても、拘束でもされたか全く動かない。
あたりに誰もいないことで声を上げるのだが、おぎゃあ、という鳴き声みたいなものしか出ない。言語さえも取り上げられたのか…と不審に思っていると、二十代付近の女性が近づいてきた。その女性がいきなり俺を抱いて、ゆっくり動かす。あたかも、まるであやすような扱いだ。
そんな女性を不気味に思いつつ、なぜ身体が安らぐのか意味が分からない。
自分で自分が恐ろしくなり必死に考えているとなんと女性が授乳してきた。これにはさすがに抵抗したのだが、抵抗むなしくがっちりと掴まれて飲まされる。
そのさなかで必死にあがくも心と体が一致せず、次第に身体が満足してしまい瞼が重くなってきた。
さて、そんな日が何日も続いていた。起きているときに可能性を羅列することにした。
①拉致されて、なぜか赤ちゃんプレイをさせられている。
②身体だけ赤ん坊になって、病室などで授乳させられている。
①だが…もちろんあり得ないとは限らないが、それをされる意味が分からない。俺の交友関係は広い方ではなく、その最たるものは研究室との同級生であることから察してほしい。というよりそんなことやっている人がいたら控えめに言って狂っている。
②だが…あまりに非科学的だが、まだこちらの方が信じられるか。なぜこんな部屋なのか、俺の両親はまだ来ないのかというものはあるが、①に比べればまだましか。
ここが病院とは思えないのが気になるがそんなこと言っても仕方ない気がする。今の状況も非常識であるのだから。
……まさかだが、異世界転生したなんて落ちはないよな?一応そういう系も読んだことはあるのだが、あれは物語だから楽しいのであって実際にはやりたくない。
そもそも、現実でもうまくいっているのだから転生なんて困るのだが。
そして、赤ん坊になってしまったという仮定で動いて約五年。なんでも仮説と検討を繰り返しているのだが、俺が見たことない地域……恐らく外国で赤ん坊になり暫定親に産んでもらった、という説が最も有力であった。つまり転生である。
その根拠として、俺の前世の生活や常識と今営んでいる生活があまりにも異なるからだ。
村の集落があまりにも人数が少なく、そして第一次産業である農業を営んでいる人が多い所、そして家の文化が異なるところなどが挙げられる。これだけなら日本の田舎の可能性も捨てきれないが、何よりも電気が存在しないこと。蛍光灯はおろか電球さえない。電気って話しかけても暫定親も他の村人もわからなそうに首をかしげていた。
これで確定である。ほかにもいろいろと食文化であったが、これは割愛する。
ちなみに、俺はなぜかイサマと呼ばれていた。違うと言い張ったのだが、彼らは笑顔でうなずくだけなので諦めた。何年も呼ばれ続けたせいか今ではあだ名のような感じになっている。
残念ながら俺の両親…今の暫定父母ではない方、が来ることはなかった。姿かたちが変わってしまった可能性が高いから、来るはずがないと頭ではわかっていたのだが……どこか期待していたところがあった。
今、両親は何をしているのだろうか。ここがどこだか皆目見当がつかない以上、どうしようもないのだが今の地球は交通網が発達しているからいつか絶対会えるはず……と、希望的観測を持つしかなかった。
暫定父母はかわいがってくれるのだが俺はあなたたちの息子でもないし、何よりも両親がいるにもかかわらずそのような態度は取れない。
そのため、できる限り甘えないよう心掛けて過ごしてきた。
授乳に関しては仕方なかったが、それ以降は彼らに迷惑をかけないことを第一に、できる限り一人で行うことを心掛けた。まあ、結局失敗して暫定父母に迷惑かけたことはあるのは反省だが。彼ら…特に暫定父がどこか寂しそうであったが申し訳ないと思っている。
そんなある日。ある数年に一度の町のお祭りの時、村も豊作で裕福だったためかみんなで町のお祭りに見に行ったときがある。その際の行動手段は歩いて行った。体感二、三時間程度を歩くことになるとは。なかなかつらい。
ようやくついたその町は俺が住んでいた村とは格段に違った。石材が用いられた家もあり、また食文化も屋台があったり、そして道もきちんと整備されているなど元の生活に多少なりとも近いところに感動していた。そして、お祭りの最後に町の人が皆広場に集まっていったのでそれに追随した。
しばらく待っていると明らかに雰囲気が異なる男性が広場現れた。彼は見るからに町の人と大きく異なる豪華な服装、そしてどこか整っていて我々とは大違いの顔立ちをした三十代ぐらいである。はて、知事のような方だろうか?
なんでも、あいさつか…と思った瞬間。
左手を添えながら右腕を高く頭上に上げてそして何やら集中し始めた
何だこのポーズ? 中二病か? と彼を怪訝な目でじっと見ていたその時
俺と体の大きさが同じくらいの大きな炎を彼の手から放たれていた。その炎はすぐ消えるわけでもなく、ずっと彼の掌の上を燃え続けていた。一分か十分かわからないが俺が意識を取り戻した時にはすでに火は消えていた。
いや、もしかしたらもっと短かったのもかもしれないが俺の中では時間が分からなかった。
その光景を見た俺は、不覚にも腰が抜けてしまった。この時に、頭でなく体で察してしまった。そう、今のはマジックでも手品でもない。この世界は異世界であると。
ようやく俺の人生の灯台は明るく灯された。その魔法を自らも再現したいとあたかも、先ほどの魔法によって俺が沸騰したようになった。
そして、その帰り道。運命が動き始めた。
閲覧ありがとうございました。
SFっぽさに関しましては、もう二話程度先から出てくると思いますので少々お待ちください…