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古代の文字は読めますか? ええ、わりとふつうに。


 びっくりした皆さんとともに、ユウキは丸太の切り分け作業を行う。

 こちらも手刀でてきぱきと済ませた。


 ユウキとしては、今のこの体での記憶がほぼない状態で体を動かすのは身体感覚をつかむうえで重要だ。

もっとも体は覚えているらしく、最初こそ慎重にしていたものの、最後のほうでは両手を使ってほいほいほほいと軽快に丸太を切り分けていた。


 これが終わると、切り分けた丸太を荷馬車へ積んでいく。

 またまたユウキはごっそり大量に運んでみなの度肝を抜いた。


「君には、本当に驚かされてばかりだよ」

「この閉ざされた町までたどり着いただけはあるな」

「彼ほどの力があれば簡単なのでしょうね」

「いやいや、だが道中にはイビル・ホークがいるからな」

「あいつに見つかったらただじゃ済まない」

「だよなあ。坊主、オマエ運がよかったなあ」


 わりかし打ち解けた感じでユウキの話に花が咲く。

 当のユウキは面映ゆく感じながらも、気になる単語に反応した。


「イビル・ホークとはもしかして、巨大な鳥ですか? 黒っぽい」


 しんと静まったのは数舜。


「見たのかアレを!?」とクライドが叫ぶ。


「いえ、遭遇しました」


「アレに出会って無事だと!?」


「いきなり襲われましたが、どうにか交渉に持ちこんで事無きを得たと言いますか」


 エルフの男衆が騒然とする。


「交渉だって!?」

「誰彼構わず襲うあの魔物と?」

「というか魔物と話せるのか……」

「山のぬしに対等と認められたのだな」

「なんて子だ……」


 山の主との単語にユウキは恐々とする。その横っ面を蹴っ飛ばしたとは言わないほうがいい気がした。



 ひとまず作業を終え、全員が複数の荷馬車に分かれて乗り込んだ。

 ユウキはクライドの隣に座り、頭にキューちゃんをのっけて彼と話す。


「記憶を、失くした?」


「歩いている途中に、唐突になくなりまして」


「そんな不思議なことがあるものなのか。しかし気の毒だね。見たところ人族ヒュームとは違うようだ。我らエルフ族でもない。自身を知る手掛かりはないのか?」


「今のところは名前と……この子だけですね」


ユウキは頭の上にのっかった不思議生物を指差す。


「そちらも我らの知識にないものだが……まあ、我らは知識そのものが多くない。君の力になれそうもなくて申し訳ないね」


 ともあれ、とグレイスは手綱を操りながら頭を下げた。


「記憶を失くしても我らに手紙を届けてくれた。本当に感謝してもしきれない。ありがとう」


「いえ、私も手紙のおかげでこの町を目指せたのです。ただ手紙を預かった方々のことをお話しできず、申し訳ありません」


「いや、届けてくれただけでもありがたいよ。ここは出るにも入るにも難しい場所――閉ざされた町だからね」


 閉ざされた町――ユウキは不謹慎だと感じつつも、そのワードに胸躍らせた。なんか異世界っぽい!


「でも、どうして皆さん、こんな山の頂上で暮らしているんですか?」


 前世のアニメやゲームの知識では、エルフは森の住民だ。

 どうやらそれは、この世界でも同じらしい。


「我らの祖先は、この山のふもとの森でひっそりと暮らしていたんだ」


 しかし森の守り神的な何かの禁忌に触れ、コミュニティ全体に呪いがかけられてしまう。


「見た目こそエルフのままだが、寿命は人族ヒュームほどに短くなり、魔法の力も失い、体も弱くなってしまったんだ」


 森の魔物たちに抗う術を失った彼らは、滅びを待つ以外になかった。

 しかしそんな彼らに同情したのか、別の神から遣わされたという賢者が現れる。


「我らの祖先は賢者様の導きに従い、この地にやってきた」


 当時、岩だらけの荒れた火口だった場所を、その賢者は強大な魔法パワーで快適な場所に作り変える。


「火口の周囲が湖になり、森が育ち、生き物も現れた。気候もふもとと同じように穏やかで、以降はこの閉ざされた土地で連綿と命をつないできたのさ」


 神だとか賢者だとか、どこまでが本当の話かわからない。

 だが現実として高山の頂なのに気候が穏やかなのは確かで、彼らが今も生活している以上、何かしらの不思議パワーでこの地が成り立っているのは間違いなかった。


「しかし、結果的には険しい山道と強力な魔物が支配するこの地に閉じこめられたのではないですか?」


「森の神を怒らせた我らには当然の罰だよ」


 悪いことしたのはご先祖様で、その子孫がいつまでも罪を背負うのは納得できない。


「そう考える者もいる。彼らはここを去り、生きてふもとまでたどり着いたから、こうして手紙を送ってくれたんだよ」


「しかしクライドさんたちは受け入れている、と?」


「まあね。いつか祖先の罪が許されたとしても、ここが好きな者は離れないだろうね。俺もそうだよ」


 この辺りは非常にセンシティブな話題だ。部外者が土足で立ち入るべきではないな、とユウキは口をつぐんだ。


 草原から森に入り、そこを抜けるとすぐに低層の家が点在し始めた。

 丸太を組んだログハウスで、多くて四人が暮らせる程度の大きさだ。


 横に目を向けると、遠くの斜面に滝が見えた。火口の上から覗いたときにあったものだ。


「あの滝の水はどこからきているのですか?」


「さあね。あれも賢者様のお力だよ」


 この世界の魔法はとてつもないな、とユウキは感心する。その一端も使えない(たぶん忘れている)今の自分が矮小に思えた。


 巨大な魔物を蹴り飛ばす力はあるものの、炎の玉でもぶつけられたらひとたまりもない。

 なんとか魔法を、それを防ぐ手立てを見つけなければ、との使命感に燃える。


「キュ?」


 さらにしばらく進むと、開けた場所が出た。

 直径100メートルほどの円形広場で、中央には五メートルもの高さの石板が置かれている。


「あれはなんですか?」


「賢者様が遺された石碑だよ。具体的に何かと問われると困ってしまうのだが……祭りのときなどにはアレを囲んで踊ったり酒宴を開いたり、だな」


 馬車で通り過ぎる際に眺めると、石碑には文字がびっしり記されていた。


「賢者様がこの地へ我らの祖先を導いた話が書かれているそうだ」


 最初から読み進めると、たしかに先ほどクライドが語った内容がより簡潔にまとめられていた。

 ただ簡潔であるがゆえ、山の神がどういった存在で、クライドたちの祖先がどんな禁忌を犯したのかもわからぬままだ。


(ん? 何か、引っかかるな……)


 さっきのクライドの物言い。『書かれているそうだ(・ ・ ・)』とはつまり、


「貴方たちにはあの文字が読めないのですか?」


「神の御使いたる賢者様が書かれたもので、神代語だと伝わっているからね。我々にはさっぱりだよ」


 いやふつうに読めるんだが? ユウキは訝った――。



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