表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/39

頭がひとつだけですか? ちゃんと八つありました。


「ふはははは! ようやく出てきおったか偽魔王め。不敬極まるそのそっ首、真なる魔王が跳ね飛ばしてくれるわ!」


 ルシフェが喜び勇んで駆け出した。


「だからアレは魔王を自称してはいないと――」


 呼び止める間もなくルシフェは部屋を飛び出す。


 不死との伝承がある相手だ。彼女一人に任せきりというわけにはいかなかった。

 ユウキが後を追おうとしたとき。


 くいくい。


「ん? キューちゃん、どうかしたのか?」


 ウサ耳で器用にユウキの服を引っ張るキューちゃんは、「キュキュキュ」と何かを訴えている。


「……連れて行け、と?」


「キュキュ」


「しかし激しい戦いになるかもしれない。そこへ君を連れて行くのは……」


 キューちゃんは戦闘能力が高くない、と思う。防御力に関しても未知数だ。

 しかしつぶらな瞳が真摯に見つめてきて、ユウキはふわもこの生物を胸に抱えた。


「私からは離れないようにね」


 言って、ユウキは窓の外へ飛び出す。そのまま空を飛べる魔法のマントで空を翔け、ルシフェを追いかけた――。




 ライモンや盗賊たちが根城にしていた洞窟へ向かうと。


「ぶわははははっ! つっかえとる。ものの見事に頭のひとつがつっかえておるわ!」


 ルシフェが指を差して笑う先には、洞窟からにょっきり伸びる蛇頭。

 赤みがかった茶系の色をしていて、黒っぽい斑紋が浮かんでいる。真っ赤な舌は先端が二又になり、ちろちろと震えていた。


 頭だけでも五メートル近い。洞窟を崩して首部分が七、八メートルほど出てきてはいるが、ルシフェの言葉のとおりにつっかえているのか、それ以上は出てこない。


「ぷくく、哀れよのう。これもう楽勝じゃん? 早速そっ首を刎ねさせてもらうかの」


 ルシフェがたったか回りこもうとしたところで。


 パカッ。大口が開く。

 ブフォーッ。凍える息吹が吐き出された。


 かちんこちんに凍ったルシフェがぱたりと倒れる。


「油断しすぎだ!」


 絶叫と同時。

 バリンッ!

 ルシフェは氷を砕いて立ち上がった。


「やだ男ユウキったら見てたの? 今のは違うんじゃよ? わざと。相手の力量をみてやろうと思うてな。うん、嘘。マジ油断してた。ええい、ワシに恥をかかせおって!」


 再びたったか回りこみ、ギラリと赤い瞳を光らせたかと思うと。


「真なる魔王の手にかかって死ぬことを誉れとせよ!」


 ずびゅんと風の刃を生み出した。

 スパッときれいに巨大蛇の首が刎ね落ちる。


「つまらぬ。まるで手応えがないではないか。いやワシが強すぎたのじゃな。ふふふ、完全復活せずともこのとおりよ。見たか男ユウキよ! 惚れてもええんじゃぞ?」


 カラカラと哄笑を上げるルシフェの目の前では、落とされた巨大蛇の首がしゅわしゅわと空気に溶けていき、


「生えた!?」


 斬られたところから巨大な頭が生えてきた。


「不死との伝承があるのだ。そう簡単に倒せるとは思えない」


「おのれ、一度ならず二度までもワシに恥をかかせおって」


 ぐぬぬと悔しそうなルシフェは再び巨大蛇の正面に回った。

 しかしまたもブフォーッと凍える息吹を浴び、かちんこちんになった。


 ユウキは上空から諭すように言う。


「まだ封印が完全に解けてはいないようだ。今のうちに対策を――おいルシフェ、何をしようとしている?」


 ルシフェは氷を破くと、両手を天に掲げた。

 ぼわっと虚空に炎が生まれる。炎は球体を形作り、どんどん大きくなっていった。


 王都でも似たようなことをしていたが、そのとき以上の超巨大な火炎球は直径で十メートルを超えた。


「斬ってダメなら跡形もなく消し去ってやるわ! 氷も解かす炎でな! ワシって頭いい~♪」


「待て! そんなことをしたら――」


「滅せよ!」


 ユウキの止める声にも構わず、ルシフェは巨大火炎球を撃ち放った。


 爆音が大地を揺るがし、突風を呼んだ。

 砲弾じみたがれきが飛散するのを、ユウキは闘気を盾にしてやり過ごす。


 やがて風がやみ、塵埃が治まると、絶壁が崩れてがれきが小さな山のように積みあがっていた。


 ルシフェはその様を満足げに眺め、


「ぱたり」


 前のめりに倒れた。


「お、おい。大丈夫か?」


 心配になって彼女の傍らに降りる。


 ぐぅ~、きゅるるるるぅ……。


「お腹、減ったの……」


「朝からもりもり食べていなかったか?」


「魔力をたくさん使えば腹が減る。当然じゃな」


 理屈はわかるが、燃費が悪いようにユウキは感じた。


「ともあれ偽魔王は滅した。ゆえに帰ってご飯をたくさん食べるのじゃ。でも動けんから連れてってほしいな」


「ああ、そうしたくはあるのだがね。残念ながら――」


 ボコ、ボココ、と。

 山積みになったがれきが胎動する。


「滅するどころか、完全復活をさせてしまったようだ」


 ユウキはキューちゃんを片方の腕で抱え、空いた手でルシフェの首根っこをつかんで舞い上がった。


「ワシ、猫の子じゃないんじゃが?」


 不満を漏らすも、ルシフェは眼下の異常に目を見開いた。


 がれきが弾け飛ぶ。

 ユウキは飛散するがれきを避けながら、同じくそこを見据えた。


 巨大な蛇の頭は計八つ。

 それらが体躯の中ほどでひとつに合わさり、極太の胴体となっていた。


 八つ首の超巨大蛇が、その姿を現したのだ。


「なんで死んどらんの?」


「不死との伝承もあるだろうが、首がひとつ出ていただけだったからな。君の魔法で封印の術式が破壊され、全容が現れたのだろうよ」


「むぅ……むむ?」


 ルシフェが小首を傾げる。

 そちらに注意を向けたユウキに、蛇の頭のひとつが襲いかかってきた。伸びる首、迫る大口。


 凍える息吹が吐き出されれば避けきれない。両手もふさがっている。


「はあっ!」


 ユウキは闘気を片足にこめ、思いきり蹴り上げた。


 爪先から闘気が伸びて刃と化す。巨大蛇の頭がズバッと縦に割れた。


「オマエ、闘気の扱いが独特じゃな」


「今のが何か知っているのか?」


「魔法とは体系の異なる術じゃ。魔力ではなく精神力をこねこねして放出するものじゃが、剣のように扱うのは初めて見たわ」


 ただ、これも効いてはいない。

 巨大蛇は首から頭にかけてびろーんと二又に分かれたものの、ぐいんと元の位置に戻ると、切断面がぴったりとくっついた。


「ふむ。なるほどのう。アヤツめ、魔ではなくしんなる者じゃったか」


「どういうことだ?」


「要するに神獣よ。ゆえに『神性』を持つ攻撃でなければ傷つけることが難しい」


 なんと魔獣だと思っていた巨大蛇は、神の側たる神獣だったらしい――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。

― 新着の感想 ―
[良い点] おねがいキューちゃん!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ