魔王を騙る者の実力は? お粗末な感じがビンビンです。
土や岩が山盛りになっている場所に到着する。二十メートルほどの高さにある山肌がごっそり削られていた。
案内した村長の息子テオドワが、当時の状況を語る。
「閃光が弾けたかと思うと、轟音とともにあそこが大爆発を起こしたんです。うちの宿なんて一撃で木っ端みじんでしょうね」
村はこのすぐ近くで、ここからでも目視できる。爆発と崩落を目の当たりにした村人たちの恐怖はよく理解できた。
「ありがとうございます。では調査しますので、テオドワさんは戻ってください。ああ、ひとつ確認したいのですが、この辺りに十人以上が隠れるような場所はありますか?」
「十人、ですか?」
「魔王を騙る何者かがいたとして、食事の量からして十人ほどでしょう。連れ去られた人が今ところ4人ですから、その人数が隠れられるところです」
「……あります。が、けっこうな数になりますね。村からすこし離れれば森はありますし、この辺りには洞窟も多い」
「なるほど。では、これまでと同じように行動するよう、皆さんに伝えてもらえますか?」
「これまでと同じ……食事を用意して、マドレーも、その……」
「ええ。私はそれまで戻り、連中が隠れている場所へ運ぶ際に後をつけ、拠点を暴きます。今まで囚われた人たちがそこにいる可能性は高い」
テオドワは「わかりました」と一礼して、急いで村へと戻っていった。
ユウキはその場に寝ころぶと、目を閉じて眠りにつく。
「キュキュッ!」
事前にお願いしておいたので、キューちゃんがすぐさまユウキの頭の上でぴょんぴょん跳ねてたたき起こした。
「キューちゃん、ありがとう。さて……胸の収まりが悪いが仕方ない。我慢して調査しよう」
ふわりと浮いて、削れた山肌に意識を集める。半透明のウィンドウが表示され、情報がつらつら流れていく。
「……火炎系魔法か」
わずかながら痕跡が残っていたので読み取れた。
とはいえ『大爆発』を起こすような威力のある魔法ではない。小さな火炎球が放たれただけだ。
(それ以外に魔法の痕跡は見当たらない。やはりこの場に大量の火薬を仕掛け、火炎系魔法で爆発させたと考えるのが妥当か)
断定するのは危険だが、次なる場所で証拠を集めよう。
ヘルハウンドの出現場所へと移動した。ここに魔法の痕跡はまったくなかったが、
「これは……何かを引きずった跡だな」
それがいくつも続いている。辿っていくと、茂みの中にそれらは隠されていた。
「なんともお粗末だが……だからこそ効果があった、ということか」
しぼんだ毛むくじゃらの何か。空気を入れると人サイズの狼に見えなくもない。
ひとつを持って、ユウキはキューちゃんを抱えて村へと戻った。
村の一角に、無残にも粉々に吹っ飛ばされた家屋跡がある。
同じく魔法の痕跡を見つけて調べてみれば。
(これも小さな炎を生み出す程度のものか。しかも時限式とはな)
ちょっとしたトラップ程度の魔法だ。家を吹っ飛ばすには足りない。となるとやはり、トラップ魔法を仕掛ける際に大量の火薬を仕掛けておいたのだろう。
だが一方で、柵で囲まれた村に侵入するのは危険を伴う。
「であれば、旅人に扮して村を訪れたと考えるべきだろう」
マズい、とユウキは最初に案内された宿へ向かう。
(今もまだ、あそこに滞在している『仲間』がいるかもしれない)
いたとしても彼ら自身が村から出てはならない対象ではあるため、簡単に仲間と連絡できるとは思えない。が、のんびりはしていられない。
ユウキとルシフェの存在が外の連中に知られる前に手を打たなければ。
(ルシフェに見つかると厄介だが……まあ、どうにかしよう)
宿に戻り、村長のケールを呼び出した。
調査結果を報告し、空気の抜けたヘルハウンドのハリボテを見せると、ケールは怒りにわなわなと震えた。
「怒りは抑えてください。ところで、ルシフェは何をしていますか?」
「はい、子どもたちと遊んでいますよ。あちらで」
窓の外を見ると、子どもたちと追いかけっこに興じる自称魔王様がいた。
「む? この気配、この匂い。あやつめがおるのか!」
さっそくバレそうになったので、キューちゃんを派遣した。
「なんじゃオマエか」
ホッとしたのも束の間。
「いややっぱりこっちにおるとみた!」
ずびゅんと一足飛びに近づいて、窓を蹴破ってユウキの前に躍り出た。
「ここで会ったが何日か目。今度こそぎゃふんと言わしてやるからなー、覚悟せよ!」
「ぎゃふん」
「言っちゃった! でもそれで許してはやらんぞ!」
ギラリと赤い双眸が光る。
「待て。私は君の信徒のために動いている。男のユウキなる者に頼まれてな」
「オマエもあいつを狙っとるのか!? つまりは『恋敵』と書いて『ライバル』と読む的な!」
「なぜそうなる? ともかく今は共闘とまではいかなくとも、互いに足を引っ張らないようにすべきでは? ファンのためだ」
「ふむ。一理あるのう。私怨に感けて信徒をないがしろにするな、とは母上の言葉じゃ」
こんな素直な魔王に育ててくれた母親には感謝しかない。
「で? ワシは何をすればええんじゃ?」
「今はまだいい。そのうち男のユウキがやってくるから、その指示に従ってほしい」
ユウキはルシフェからケールに顔を向ける。
「この村に滞在中の旅人はどのように過ごされているのでしょうか?」
「何もしないのは逆に落ち着かないとおっしゃって、いろいろお手伝いしてくれております。っ!? まさか……彼らが……」
「最初に手伝いを申し出た者が怪しいですね。が、今は素知らぬふりをしていただきたい。誰ですか?」
ケールは宿の食堂にユウキを案内した。
従業員の他に、旅人らしき者たちが食事をケースに入れる手伝いをしていた。
(……あの女、魔力が比較的高いな。時限式の火炎系魔法を使えるようでもある)
女の近くにいる男二人の目つきがふつうと異なり鋭いようにも感じた。
女と目が合うと、冷たい視線をこちらに投げてのち、すぐに作業に戻った。
捕らえて白状させる選択は危険だろう。
何かしらの連絡手段で外の連中に気づかれたら、人質の命が危険にさらされる。
(調査はもういいだろう。となれば――)
ユウキは一室を借り、再び眠りにつくのだった――。