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魔法とか使えるんです? いえ、物理で殴ります。


 貴重な食料を失ったユウキはしかし、キューちゃんに慰められて気を取り直した。

 町まで行けば、きっとなんとかなる!


「水はよし。食料はまあいいとして、問題は、だ」


 ユウキは起き上がって再び山の斜面から見下ろした。

 羽の生えたトカゲみたいなのがそこらを飛んでいる。けっこうな距離があるとはいえ、


「あんなのに襲われたら、子どもの私ではひとたまりもない」


 身を守る術を探さなくてはならなかった。

 今までどうして無事だったのかは謎だが、何かしら方法があったに違いない。


 ゆえにその謎を解き明かすのが急務だとユウキは考えた。

 もっとも可能性が高いのは――。


 足元の丸い物体と目が合う。


「君が、今まで私を守ってくれていたんだね」


 キューちゃんは頭(というか一体化しているので体全体)を左右に振る。


「違うのか?」


「キュゥ……」


 残念ながらね、と訴えているようだ。

 ぴょんぴょんと頑張って飛び跳ねるも、10センチほども跳べてない。

 今度は長い耳を器用に動かし、ぺちぺちとユウキの腿を打ちつけた。これまたまったくもって痛くない。


 キューちゃん渾身のアピールにより、この生き物が他の魔物を打倒するのは不可能だとユウキは悟った。


 であれば、ユウキが自身と彼(彼女?)を守ってきたことになる。


 腰にはポーチとは別に、ナイフが差してあった。

 抜いてみる。一般的なご家庭にある包丁ほどの刀身で、鈍色に妖しく陽光を弾いていた。


「ふふふ、見た目はただのナイフだが、きっと風の刃が飛び出したり、雷を落としたりするに違いない。そら、禍々しいほどの魔力を感じ……ないな」


 見た感じは本当に、なんの変哲もないナイフだ。しかもけっこう刃こぼれしている。


 シュバッと振ってみた。

 何も起こらない。虚しく空を斬っただけだ。


 結論――ただの使いこまれたナイフでした。


「となると、私自身が魔法を使える、と考えるべきだな」


 腰にナイフを戻し、片手を前に突き出して高らかに叫んだ。


「ファイヤーボール!」


 しぃん、と。

 まったく何も起こらない。


「キュ?」


「うん、詠唱とか、そういうのが必要なのだろう」


 まったく根拠はないのだが、魔法が使えるとの確かな感覚がある。使っていた、との経験がおぼろげながら記憶の隅にあるような気がしてならなかった。


 希望的観測でないとすれば、ここでまた難題が鎌首をもたげる。


「肝心の発動方法を、忘れてしまった……」


 魔法を使うのに何かしら条件があるとして、今の自分はまったくもって思い出せない。

 困り果てたユウキが腕を組んで頭を悩ませていると。


「キュキュ!? キューッ!」


 キューちゃんがぴょんぴょん激しく飛び跳ねた。片耳をぴこぴこ動かし、『あっちあっち』と言わんばかりに空を耳指す。


 陽光に目を細めながら上を向けば、なにやら鳥のようなものが弧を描いて飛んでいた。


 鷹や鳶に似た鳥だ。

 体毛が黒ずんでいるのでカラスにも見えなくはないが、くちばしがカーブを描いて先端は鋭い。二本の足には鋭利な爪。他には尾の部分が長く、しゅっとしたフォルムは美しくもあった。


「これは……困ったな」


 子どもの自分では鷹や鳶に襲われてもケガをしそうだ。

 さすがに命の危険はなかろうが、ナイフでどれだけ抵抗できるやら。


 鷹だか鳶だかは、翼を折り畳んで急降下してきて、ユウキたちから見て斜面の上方向、地面に激突する間際で羽ばたき急停止。

 ぶわーっと土やら小石やらが吹き飛ばされた。


「でかっ!」


 頭上を旋回していたときは小さく見えたが、近くに来たらその大きさが知れた。

 全長で軽く10メートルはある。


 あんなのに襲われたら、生身の自分など容易に引き裂かれる。というか丸呑みされるのでは?


 巨大な怪鳥はばさりばさりと翼を羽ばたかせながら、ぎょろりと目玉をユウキに向けた。


「キュキュキュ!」


「キューちゃん?」


 突然、キューちゃんが駆け出した。すたこらとユウキから離れていく。


「に、逃げた……」


 それも無理からぬこと。

 おそらく一緒に行動してきた仲間であろうと、やはり自分の命は大切だろう。あのサイズなら岩の間にすっぽり隠れることもできるのだから。


 無力な自分に同行している無力な生き物を、非難できようはずがない。

 しかし――。


「キュキュゥ…………キュワ!」


 今までとは違う鳴き声を上げたかと思うと、


「でっかくなった!?」


 ポンッと気の抜けた音が聞こえたように錯覚するほど、一瞬にしてその体躯を膨らませた。ユウキよりもちょっと大きめ。

 続けて大きな岩によじ登り、ぴょんぴょん跳ねて巨怪鳥を挑発し始めた。


「まさか、私を助けるために……」


 自ら囮となるつもりなのか。


(すまない。君のことを誤解していた浅ましい私を許してほしい。しかし――)


 キューちゃんが食べられたら、次は自分だ。膨らんだサイズでも巨怪鳥が満腹するまでは届きそうにないので。


「ケーンッ!」


 巨怪鳥はキューちゃんの挑発に腹を立てたのか、大きな翼を羽ばたかせてのち、斜面すれすれを滑空した。

 まっすぐにキューちゃんへ向かっている。


 このままでは、キューちゃんが食べられてしまう。


 キューちゃんは不思議なサイズ変化ができるものの、その力はやはり見たところ弱い。

 そして自分は魔法が使えない。魔法攻撃ができるような武器もない。


(あれ? でもそういえば……)


 ひとつ、確認していないことがあったのにユウキは気づく。


(検証する時間はない)


 もたもたしていれば、鋭いくちばしか爪でキューちゃんが引き裂かれてしまう。実行に移すことで知る以外にはなかった。


 ユウキは、大地を蹴った。


 キューちゃんまではおよそ20メートル。

 その距離を3歩で(・ ・ ・)到達したユウキは、


「どりゃあ!」

 バッチーンッ!


 巨怪鳥の横っ面を蹴り飛ばした。

 巨躯は吹っ飛ばされ、ずざざざーっと地面を擦ってのち、ゴロゴロ転がっていくのだった――。



物理パワーに目覚めた(?)ユウキの前に、えっちなお姉さんが!?

次回はキューちゃんの謎の一端に迫ります。

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