お祭りって楽しいの? 楽しくないわけないじゃない。
千年祭初日。
王都にいくつかある大通りに向かうと、まだ正式には開催の号砲は鳴っていないにもかかわらず朝から多くの人でごった返していた。
といっても前世の記憶にある有名花火大会のように進むのもやっと、ということはない。
この一週間より少し増えた程度で、しかし出店が立ち並んでいたりと『お祭り』の雰囲気は確かに感じられた。
「キュキュ、キュキュキュゥ」
ロングコートを着た人型キューちゃんがあっちあっちと指を差す。
「ん? あれは……射的かな」
オモチャの鉄砲ではなく小さな弓で矢を放ち、的に当てるタイプの遊戯だ。
キューちゃんは興味津々。
さっそく小銭を払い、子どもたちに交じってキューちゃんが弓を放った。
「キュ~……」
残念ながら五回の試技はすべて大外れ。的屋のエルフのお兄さんも苦笑いだ。
続けてユウキが挑戦する。弦の調子を確かめ、キューちゃんや他の人の様子から力加減を調整する。
今日は歩き回るのを考慮して疲れ知らずの男の子の姿。
狙いを定め、矢を放った。
「おおっ!」
「すごいな坊主」
「いきなりかよ」
見事に的のど真ん中に命中し、見物人の喝采を浴びる。
続けて第二射。
「すげえ!」
「また真ん中だ!」
第三射。
「おいおい」
「またかよ!」
四射目。
「えっ……」
「嘘だろ?」
最後の五射目。
「……」
「……」
すべて的の真ん中を捉え、見物人は唖然としたのち、わっと大歓声が沸き上がった。
「まさか初日からパーフェクトを掻っ攫われるとはなあ」
的屋のお兄さんがまたも苦笑いしつつ、「そら、景品だ」と手のひらサイズの包みをユウキに渡す。
「これは?」
「ペネムの万能薬さ。塗れば擦り傷はすぐ元通り、飲めば腹痛がたちまち治る。売ったらそこそこの小遣いにはなるが、ちゃんと親御さんに相談してからだぞ?」
魔法のある世界でどれほどの価値があるか不明ながら、ユウキはありがたく受け取った。
その後も焼きそばみたいな料理で腹ごなしし、リンゴ飴みたいなデザートを堪能しつつ、王城へ向けて進んでいく。
「キューちゃんは食べなくていいのか?」
「キュキュ」
首を横に振るキューちゃん。相変わらず何も口にしない彼女が楽しめるよう、ボールを投げて棒を倒す遊びなど、遊戯を中心に遊びまくった。
聞いたところによると初日はセレモニー中心とのこと。
出店の他に、各所で大道芸みたいなことをやっている。
「さあさあ道行く皆さん、見ておいで。リザードマン一の力自慢ドミツィオが、今からこの大岩を持ち上げよう!」
小柄なリザードマンがぴょんぴょん跳ね踊るのは、二メートルもある大岩の上。
大岩の横では、身の丈が同じほどもある大柄なリザードマンがボディービルダーじみたポーズでアピールしていた。
なんだなんだと人が寄ってきて、ユウキは脱出する間を逃して最前列に押しやられる。
まあ見物するのもいいかな、と眺めることにした。
リザードマン――ドミツィオが大岩に抱き着く。
「がんばれ! がんばれドミツィオ!」
大岩の上でぴょんぴょん跳ねる小柄なリザードマン。
その掛け声に、見物人も声を合わせる。
「ぐ、ぬぬぬぬ…………ぬうぅおおおおっ!」
わずかに大岩が浮き上がったと思った直後、ドミツィオがエビ反りになって大岩を持ち上げた。
拍手喝采が巻き起こり、方々から硬貨が彼らに投げられた。
小さなリザードマンは大岩からぴょんと降りて、散乱した硬貨を拾い集めて袋に入れる。
ドドォン、と大岩が下ろされると、またもコインの雨が降る。
ユウキもそれに倣い、銀貨と銅貨を放り投げた。
と、ひと仕事終えてぐったりしていたドミツィオと目が合う。
なぜだかちょいちょい、と手招きされた。
「私、か……?」
大きくうなずくドミツィオ。
何がなんだかわからないが、パフォーマンスに付き合うのも悪くない、とユウキは彼の下へ。
「君もやってみなよ」
「は?」
唐突過ぎて意味が解らない。
「おいおい、子どもにやらせんのかよ」
「坊主……か嬢ちゃんかわからねえが、がんばれよー」
「いくらなんでも無理だってば」
怪訝そうな者、囃し立てる者と様々だが、誰もがまるで期待していないのは見て取れる。
ところが、
「そら、度肝を抜いてやんな」
ドミツィオは悪戯っぽく笑う。
仕方がない、とユウキは大岩をがしっとつかみ。
ひょい。
「「「「「ッ!?」」」」」
持ち上げた途端、見物人たちは腰を抜かすほど驚いた。
ドミツィオが楽しそうに声を張り上げる。
「やあやあ、見たかい? でも驚くにはまだ早い。なんとこの少年、数日前に暴れ地竜を投げ飛ばしたのさ!」
「マジかよ!?」
「あ、アタシその話知ってるかも」
「そういやエルフみたいな子どもだって話だな」
「嘘臭いと思ってたけど本当だったんだ!」
噂は広まっていたようで、ユウキ目掛けてコインの雨が降る。
なんとも面映ゆい。
集めた硬貨はユウキに渡された。君の稼ぎだとドミツィオは笑う。
「しかし……いいのですか? 貴方のパフォーマンスの邪魔になってしまったのでは?」
「今日はお祭りだぜ? みんなで楽しくいこうや」
ドミツィオは最後まで笑みを崩さなかった。
祭りに乗じて国家の企みを遂行しようとする者もいれば、彼のように純粋に祭りを楽しむ者もいる。大多数が後者であろうことは、見物人たちの笑顔を見れば明らかだ。
思わぬ臨時収入を得て、ユウキとキューちゃんはあちこちで遊びまくった。
やがて昼が近づいて、王城前の広場はさすがに移動するのも億劫なほど人であふれていた。
ゴーン、ゴーン、と。
遠くから鐘の音が響いてきた。王都中の鐘が鳴らされているのだが、外周から徐々に鐘の音が近づいてくる。
そうして王城からも、一番大きな鐘の音が厳かに鳴り響いた。
集まった人たちは黙して立ち止まり、そして――。
ドンドン、ドドドンッ!
号砲が高らかに轟くと、
「レアンド王国よ永遠なれ!」
「建国千年、おめでとう!」
堰を切ったように祝福の叫びがこだました。
『善良なる王国民よ、そして諸外国より訪れた客人たちよ。レアンド千年の良き日を共に祝えることを、余は嬉しく思う』
どこからともなく渋いおじさまの声が響いた。魔法的な何かだろうか。
以降、長ったらしい演説が続き、その間はしんと静まり返っていたが。
『第62代レアンド国王、シャルルモワ・レアンドロスが宣言する。レアンド王国千年祭を、今ここに開催する!』
直後、地鳴りのような雄叫びが上がった。
そこかしこで抱き合い、踊り出す者も多数。
さすがに部外者がこのノリにはついて行けず、ユウキはキューちゃんの手を引いてそそくさと広場から逃れるのだった――。
疲れ知らずはキューちゃんも同じ。
休みなくあっちこっち遊び回っていたら、
「み、見つけたーっ!」
聞き覚えのある声に振り向けば、額に汗して肩で息をする女性がふらふらと近づいてきた。
「エマさん、どうかしたのか?」
ハーフエルフのエマは両膝に手をついて呼吸を整えると、バッと顔を上げて言った。
「どうしたもこうしたもないよ! ユウキ君、いったいなにしたの!?」
「いきなりそう言われても……心当たりはない」
「いや絶対にあるはず。だって――」
エマは周囲を気にしてか、ユウキに目いっぱい顔を寄せて小声で告げた。
「国王陛下が、君を連れてこいって。エルフ族会にお達しがあったの」
あ、そういうことね。エリクが襲われ、その刺客たちを壊滅させた件で間違いない。
会うのは構わないが、念のため魔法が使える女の子に変わったほうがいいだろう。
「行く前に一度寝ていいかな?」
「は?」
というわけで、路地裏に入って寝た――。




