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女同士でどうするの? 第一印象は最悪でした。


 幼い王女の婚約者は女だった。

 その事実を受け止めたユウキはハッとして尋ねる。


「もしかして寝て起きたら男女が入れ替わったり?」


「は? いや、僕は生まれながらに女ではあるのだけど……」


 残念ながら自分と同じ体質ではなかったらしい。

 となれば。

 ユウキは傍らで驚いているマリーを見た。


「君が実はおと「なにかおっしゃいまして?」いやなんでもない」


 もしかしたら女同士でも結婚できる? との疑問はエリクの態度からして違う気がした。


「ともかく私の宿に移動しよう」


 ユウキはみなを連れてびゅーんと空を翔けた。




 マリーとエリクを認識除外の結界で包み、人型になったキューちゃんと一緒に正面から宿に戻った。

 部屋に入り、エリクとマリーは並んでベッドに腰かける。一メートルほどの距離は気持ちの間隔だろうか。


「さて、貴女が女であることはまず横に置こう」


「お待ちになってユウキ様。そこ一番重要なところですわ」


「……そうかな?」


「仮にも王女の婚約相手が女性だなんて、前代未聞どころか国を揺るがす一大事ですわ。いいえ、父王様をも欺く反逆行為ですわよ!」


 何か言いたげなエリクをユウキは手で制する。

 まずは第三者からの意見を聞いて落ち着いてもらいたかった。


「それはない。これは君の父親、国王も承知の上だろう」


「は?」


 目をぱちくりさせてエリクを見やると、彼女は申し訳なさそうにぽつぽつと語り出す。


「僕が生まれながらに性別を偽っていることは、国王陛下もご存じでいらっしゃいます。そのうえで王女殿下との婚約をお決めになられました」


「さっぱりわけがわかりませんわ。どうして父王様が――」


「まあ、話を聞こうじゃないか」


 ユウキに諭され、マリーは不満そうにしながらも口をつぐんだ。


「王女殿下もご存じのとおり、残念ながら王国は衰退の真っただ中にあります。しかし世継ぎに恵まれていないとされていても、王女殿下は聡明なお方。いずれ女王となってこの国をより良く導いてくださることでしょう」


 ただ、とエリクは眉間にしわを作る。


「殿下はまだ幼い。そして周辺国――特に北のテレンス首長国は急速に力を増しています。建国千年の節目に『王国はいまだ揺るがず』と内外に示すには、国内での結束を確固たるものにするのが急務なのです」


 ゴーエル辺境伯は国内で王家に次ぐ発言力を持つ。もともと親戚とはいえ、いやだからこそ両家が固く手を結べば、特に国内の王家に反発する貴族たちを黙らせることができるのだ。


「だ、だとしても、どうして女性なのですの? 他に誰かふさわしいお相手が国内には、国内、には……………………いませんわね」


 がっくり肩を落とす様子から、本当にいないっぽい。


「しかしエリクさん、貴女はそれでいいのか? 酷な予想で心苦しいが、マリーが成人すれば貴女は用済みになる可能性が非常に高い」


 女同士で子はせない。王家の血筋を絶やさないためには、エリクはいずれ――。


「殺されてしまいますの!? 病死などと偽って! なりません。そんな非道、わたくしは絶対に許しませんわ!」


 マリーが憤慨するのも当然だ。

 ところがエリクはしれっと答える。


「いえ、用済みは確かですが、さすがに死ねとは言われていませんよ。病死と発表してのち、僕は名を変えて自由の身になります。そういう約束だからお受けしたのです」


「それはそれでどうなんですの? 貴族の身分をはく奪されることにはなりますわよね?」


「そんなの僕には必要ありません。むしろせいせいしますよ」


「貴女、貴族の責務をなんだとお思いなのですの?」


「僕は生まれてからずっと『男』として育てられたんですよ? それこそ僕以外に後継者のいない家の都合でね。いい加減、自由に生きたいですよ。可愛い服を着たり、素敵な恋をしたり」


「あ、それちょっとわかりますわね。しかぁし! やっぱり納得はいきませんわ」


「そこはドライに考えましょうよ。国のためでもあるし、殿下が困ることはないでしょう?」


「ぐぬぬぬ……なんだかキャラが変わっていませんこと?」


 それは思った、とユウキも心の中で同意する。


「最後まで猫を被るつもりだったけど、こうなったらもういいかなってね。ま、僕から干渉するつもりはないから、よろしく頼むよ、お姫様」


 エリクはぱちりとウィンクする。


「不真面目ですちゃらか……わたくしの一番嫌いなタイプですわね」


「えー、おほん。その辺りについては君たちと、ひいては国家の問題だ。これ以上の話は別でしてもらいたい」


 もう一度こほんと咳払いして、ユウキは居住まいを直す。


「では私にも関わる問題を片づけたい。エリクさん、貴女は誰かに狙われているね?」


 ぴくりとエリクの片眉が跳ねる。


「ユウキ様、それがどうして貴方にも関わるのですの?」


「状況からして、今エリクさんにもしものことがあれば国内は大混乱に陥るだろう。となれば」


「となれば?」


「千年祭に深刻な影響は必ず出る。私は、純粋にお祭りを楽しみたいのだ」


「全力で遊ぶために……」


「身も蓋もないが、うん、そうだな。ともかくお祭りの阻害要因を知った以上、可及的速やかに対処して安心したい」


 それで? と再びエリクに問う。


「相手が何者かは知らない。せっかく王都に来たのだからとこっそり屋敷を抜け出して遊びに行こうとしたら襲われた。おかげで昨夜は遊べなかったよ」


「この淫売め。貴様のようなふしだらな者を王家に加えてなるものか!」


 君もキャラ変わったよ、とは言わず、どうどうと宥める。


「しかし貴女も不用心だぞ。護衛もつけずに遊び歩くなど」


「僕が女だとは誰も知らない。だから誰も僕がエリク・ゴーエルだとは思わないさ。いざとなったらこの『雲隠れのローブ』で逃げられもするからね。実際にこれのおかげで助かった」


 マリーは射殺すほど鋭い視線をエリクに突き刺している。


(これってアレか。『第一印象は最悪だけどそのうちいちゃラブ展開になる百合バカップル』の流れだな)


 それはまた別のお話、ということで。


「君たちはもう帰ったほうがいい。エリクさんを襲った連中の正体とその理由は私が探っておく」


「千年祭を目前に控えた今、騒ぎは大きくしたくありませんわね」


 超個人的な理由で城を抜け出したお姫様どの口で言うのか?


「それに、王国兵が総出で狼藉者を追っても逃げられる可能性が高いですわね。すちゃらか王国貴族の尻拭いをさせてしまって申し訳ございませんが、よろしくお願いいたしますわ」


 ユウキはそれぞれを送り、エリクを探し回っている者たちをこっそり付け回した。

 アジトらしき廃屋を探り当て、構成員の大半の顔を覚えてのち。



 宿に帰って寝た――。



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