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不思議なものをお持ちです? これまた雑なのでちょちょいとね。


 女の子が走り去った方へ向かうと、多くの人で賑わっていた。ユウキが来たのとは別の大通りで心持ち広い。


 この人波の中で見つけられるだろうかと心配したものの、ドレスのスカートを持ち上げての独特な走法はかなり目立つ。衣装そのものも道行く人たちとは違い過ぎるので、わりと簡単に見つかった。

 大通りの壁際をこそこそと駆けている。


 ただ、妙ではあった。


(なんだか、ぼやけて見えるような……)


 透けて見えると誤解するほど、周囲に溶けこむような存在感のなさ。


(誰も彼女を気に留めてもいないな)


 危うく正面衝突しかけても、避けるのは彼女ばかり。ぶつかりそうになって初めて相手は驚く。

 スマホ歩きをしているわけでもなし、相手はすぐ近くに来るまでまったく気づいていない風だ。


(認識を除外する系の魔法か)


 今のユウキは魔力の感知が優れている。女の子から魔法的な何かを感じ取った。

 ともかく放っておけばそのうち誰かにぶつかってケガをしてしまいかねない。


 ユウキはずびゅんと追いついて、


「君、ちょっといいかな?」


 彼女の細い手首をつかんだ。


「はわわぁ! ななななんですかあなたはぁ!?」


 まあ驚くよね。ということで、ちょうど路地があったのでそこへ連れていき、向き合った。


「突然すまなかった。私はユウキ。旅の者だ。君に尋ねたいことがある」


 女の子は絶賛警戒中だ。しかし歳が近そうなユウキにではなく、


「キュ?」


 ウサ耳コートのお姉さんを凝視していた。


兎人族ワーラビットのハーフ……ですの? 獣人系の種族と人が結ばれるなんて……」


 女の子はくわっと目を見開いて、


「ロマンチックですわ!」


 叫び、恍惚とした表情になる。


「ああ、見た目がまったく異なる種族同士、愛する者たちの前には多くの障害が待ち受けていたことでしょう。それでも二人は固く手を取り合い、愛の結晶を育んできたのですわね」


 その後もぶつぶつと架空の愛の軌跡を語り出したので、ユウキはキューちゃんのコートを剥がした。大きな胸がぼよんとはじけて衣装から零れ落ちそうになる。


「なんて破廉恥!?」

「キュワ」

「まん丸になりましたわ!?」


 ひとまず妄想トリップから戻ってきたようなので、ユウキは問う。


「君、何から逃げて(・ ・ ・)いた(・ ・)のかな?」


 びくっと女の子の肩が跳ねた。


「やっぱりそうか。となると……家出?」


 またもびくっと小躯が跳ねる。


「な、なんのことですの? わたくし、お散歩をしていただけですわ」


 思いきり顔を背けて頬を引きつらせている様子から、見事的中したとユウキは確信する。


「どれほどの期間を予定している?」


「へ?」


「泊りとなれば雨露をしのぐ必要があるが、今は子ども一人を泊めてくれる宿を見つけるのは難しいそうだ。行く当てはあるのか?」


「ぇ、あの……」


「みたところ着の身着のままのようだな。君、お金も持っていないだろう?」


「ぅ、ぁ……」


「それから、君が首から提げている魔法アイテム。他者の認識を君から逸らすものらしいが、人波の中では危険だな」


 えっ? と女の子は首元からドレスの中に手を突っこんだ。

 引っ張り出したのは、お守りサイズの金属プレートだ。


「どうしてこれが何かわかったのですの? いえ、そもそも『隠し身の護符』を身に着けたわたくしを認識できているのからして疑問ですわね」


「……なんとなくわかるんだ。今の私はね」


 ほえーっと呆けた女の子はハッとして、表情を引き締めた。


「どうやら高名な魔導士殿であるご様子。しかしわたくしも故あってこの身ひとつで飛び出したのです。どうか事情を話せぬ無礼をご容赦いただき、見逃してはいただけないでしょうか」


 躊躇いなく深々と頭を下げる。


「ダメだ」


「なぜですの!?」


 半分涙目になる女の子の、首からぶら下がる金属プレートを指差す。


「それが必要なのは理解した。しかしそれでは(・ ・ ・ ・)ダメだ(・ ・ ・)


 ユウキはじっと、金属プレートを凝視した。

 かつて火口の町にいた住民に対してそうだったように、金属プレート付近に半透明の画面が表示される。

 幾何学模様や数式みたいなのが映し出されるが、ムスベルの呪いほど情報量は多くなかった。


(しかもこれ、書き換えられるな)


 ムスベルの民に掛けられた呪いは神の手によるもの、だったらしい。

 が、これはそこまでの代物ではないようで、セキュリティレベルがかなり低い。


(認識を外した場合の弊害をまったく考慮していない。『隠し身』と呼ぶには雑すぎる)


 一から作り直すのがもっとも簡単だが、それだと金属プレートに流れる魔力が短時間とはいえ消えてしまい、魔力経路が閉じてしまう危険があった。

 閉じた経路を無理に開くことはできるが、この魔法アイテムの寿命は著しく減る。

 魔力の流れが止まる時間は一瞬でなければならなかった。


(不思議なものだな。忘れているのに〝わかってしまう〟という感覚は)


 今の魔法術式を流用し、条件式の中をいじくり回す。


(保有者の存在そのものを認識させないのでは危ない。とはいえそういった機能が必要な場合もあるだろう。そのうえで『隠れ身』との名にふさわしい効果と言えば――)


 今の彼女に必要な機能。


「よし、できた。これで〝保有者を知る者が見ても保有者その人だと認識できない〟。君を知っていようが知っていまいが、君という存在を認識してもみな、『赤の他人』だと思ってくれる」


「はい?」


 不思議そうな女の子の手を引いて、通りへ出た。ユウキとキューちゃんは彼女からすこし距離を置く。


 道行く人は小さな女の子を認識しつつも、立ち尽くす彼女にぶつからないよう避けてくれた。

 ユウキは再び彼女の手を取って路地へ。


「保有者への関心も低レベルに抑えておいた。町中で一人佇んでいても声をかける人はいないだろう。逆に君が助けを求めたり、連れ去られるような異常があればみな気づく」


 加えて強く念じている間は、関心レベルを極めて低くもできる。その場合は『人がいる』との認識はできるものの、『干渉を強く制限する』ところにまでもっていけた。

 例えば門兵が居並ぶ中、しれっと門をくぐって城の中にまで入れるはずだ。


 どうかな? と笑みを向けると。


「すばらしいですわ!」


 女の子はぱあっと愛らしい顔を輝かせた。


「改めまして魔導士様、我が家に伝わる魔法具の性能を向上させていただいたことに感謝を申し上げますわ」


 スカートを持ち上げ、優雅に一礼する女の子。


「それから……大変不躾とは存じますけれど、さらなるお慈悲をいただけるのであれば、ほんの少しで構いません、相談に乗ってはいただけないでしょうか? もちろん、いずれ報酬のかたちでご恩には報いますわ」


 両手を組み、神へ祈るように懇願するその子から、


 ぐぅ~。


「はわわわぁ! ま、魔導士様の前ではしたないところを……大変失礼いたしましたわ。昨夜から何も口にしていませんでしたから……」


 真っ赤になってうつむく女の子に、ユウキは頬を緩ませた。


「ユウキでいい。では、昼食を取りながら話そうか」


「は、はい! わたくしはマリー、と。そうお呼びください、ユウキ様」


 そうしてマリーと名乗る女の子と連れ立って、近くの飲食店へと入っていった――。



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[一言] みんなぽんこつになーれー
[一言] この子もポンコツヒロイン?
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