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古いお金はいかほどで? ハーフエルフは戦慄した。


 ハーフエルフのエマは、以前ユウキが王都に滞在していたのは三日だと語った。

 そのときに聞いたユウキの最後の記憶については。


「王都からずっと南にある深い森の中で、キューちゃんを抱えて立ち尽くしていた、と。なぜ自分がそこにいて、何をしていたのかもわからず、自身が何者かすら思い出せなかったそうよ」


 以降、森を彷徨う中で人に会い、人の多い王都に行けば自分を知る誰かがいるかもしれないと向かったらしい。

 そして特徴的な耳から、近そうなエルフ族会を訪ねたのだとか。


「ハーフエルフにしろクォーターにしろ、ユウキ君の耳はエルフとはすこし違ったの。ドワーフや妖精系の種族にも当たってみたけれど、特定するには至らなかったのよね」


 様々な種族の血を引いていると仮定すると、今度は特徴が少なすぎる。


「たとえばなのだが、男と女が入れ替わるような特徴を持つ種族はいないだろうか?」


 エマがくすくすと笑う。


「前も似たようなことを訊いていたよね。『寝て起きたら』とか。『そんなの神様くらいじゃないかな』って私が答えたら、ユウキ君ってば『ですよねー』って笑ってたなあ」


 以前の自分は男女入れ替わる体質を誤魔化していたようだ。


「神は男女が入れ替わるのか?」


「お? 今回はそこ食いつくんだ。というか神様って本来姿が定まっているものじゃないから、地上に降りてきたら自由自在って感じかな」


 さすがに姿が自由自在ではない、と思う。

 どうやら自分は神的な何かではないらしい。すこしホッとした。形而上的存在なんて畏れ多くて持て余す。


「ではムスベルの住民の祖先を導いたという『御使い』だか『賢者』だかは何者なのだろう?」


「うーん、その手の伝承は各地にあるからね。ムスベルにしても、そこで伝えられている以上の話はないかな」


 大昔の人物と自分を重ねるのは無理がある……とも言いきれないのが面倒なところだ。

 世間話の範囲で聞いたところによれば、エルフの寿命はおよそ二百年、他にも千年を生きる種族がいるのだとか。


(自身の出自に興味はあるが、それにこだわるというのもなあ)


 もとより行く当てのない人生。旅の目的として据える程度で十分だろう。


「私は以前滞在した三日間で、自身について何か得たものはあったのだろうか?」


「聞いてないなあ? ユウキ君ってば、ムスベルの話を聞いてからそれにかかりっきりだったみたいだし」


 やはり自分は自分らしい。自身が何者かにそれほど執着していなかったようだ。


「あとでエルフ族会にも顔を出してみない? みんな会いたがってるよ。あ、それから――」


 エマは満面の笑みを浮かべる。


「もうすぐ王都で建国千年の祝賀行事があるの。それまでゆっくりしたらどうかな?」


「祭り、か。いいタイミングだな」


「うん。もしかしたらそれ目当てに戻ってきたのかと思ったけど、また記憶を失くしているんだもの。びっくりしちゃったよ」


 祝賀行事が始まるのは一週間後からで、大小さまざまなイベントが一ヵ月ほど続くらしい。

 興味はある。すごくある。しかし――。


(滞在するには費用が必要だ。うーむ……)


 ユウキはトランクを開け、ムスベルの町長カーチスからもらった革袋を取り出した。


「これはこの街でも通貨として使えるだろうか? できなければ換金したいのだが」


 ローテーブルの上に置いて革袋を開いてみせる。

 エマは険しい顔つきになり、中から一枚をつまみ上げた。ひくひくと頬を引きつらせる。


(大して価値のない旧貨だったかな?)


 それでも町の宝だったに違いない。換金率が低くても大切に使わせてもらうつもりだ。

 ところが。


「ここここれ建国当時の王国通貨じゃないかなあ!? しかもこんなに!?」


「価値はどうなのかな?」


「建国千年のこの時期だからね。国中からかき集めても数枚だったって話だから、これだけあれば一等地に豪邸が建つよ!」


「困ったな。着の身着のままの旅に、そんなにたくさんは必要ない」


「そこ困るとこ!?」


 無一文でのぶらり旅なら、訪れる先でアルバイトなりして日銭を稼ぐのも醍醐味のひとつ。


「すこしだけ換金したら、ムスベルに返しておこう。エルフ族会でその辺りをお願いしたいのだが可能だろうか?」


「それはまあ、エルフの誇りにかけて責任は果たさせてもらうけど……本当にいいの?」


「これほどの価値があるとは知らずに私にくれたものだ。もらい過ぎは気が引ける」


「君はこれ以上のことをやってのけたと思うんだけど……」


 エマは渋々ながら承諾した。

 ただし自分が扱うには高額すぎるので、ユウキがしばらく持っているように、と金貨二枚だけ取り出して部屋を出ていった――。




 ――そのころ。火山のふもと、森の宿場町フリチュでは。


「ほほう? その『ユウキ』なる女子おなごはたしかにここへ来たのじゃな?」


 赤い瞳をギラつかせ、高櫓にいるワーウルフの青年ブルホを見上げるのは、白い髪で褐色肌の女の子――自称『闇を統べ混沌を吐く〝災厄の魔王〟』ルシフェである。


「女……? いやまあ、ユウキはそう見えなくもねえが……」


 ブルホは首を捻る。


「して? そやつはどこへ向かったのじゃ? 庇い立てするならその四肢をもぎ、舌を抜い――たらしゃべれなくなるからそれはストップ。ともかく! 隠すとためにならんぞぉ?」


「どこへ、って言われてもなあ。気づいたらいなくなってたんだよ。直前にムスベル出身のエルフたちと話してたらしいが……ああ、ユウキは前にレアンド王国から来たとかなんとか話したそうだぞ?」


「くっくっく、レアンド王国か………………それってどこじゃ?」


「森を南に抜ければ国境だ。行くとしたら王都のレアドリスかな?」


「情報提供、大儀である! その殊勝さに免じて我を見下ろす不敬は許した。ふふふ、待っておれよユウキとやら。我が眠りを妨げ、あまつさえ死の崖っぷちに追いやった罪は絶対に許さぬ。こてんぱんにしてやるからなー!」


 ルシフェはぴゅーっと駆け出した。森の中へと消えていく。


「なんだったんだ……?」


 ブルホは暗い森の木々を眺めつつ、ため息を吐き出すのだった――。



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