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都会に知り合いはいますかね? 暴れなんちゃらがいるようで。


 目を覚ますと男の子になっていた。


 身の丈ほどの草が生い茂る中、陽が傾きかけたところで徹夜していたのを思い出し、寝ることに決めたユウキ。

 周囲を魔物除けの結界で覆い、キューちゃんが寝袋タイプに変化してくれたのでその中で眠りにつく。

 そうして朝日に起こされ、自身の状態を確認したらやはり、男の子の姿に変わっていた。


「寝て起きると性別が入れ替わるのは確定だな」


 実際のタイミングは寝ていたからわからない。寝た直後か、起きた直後か。

 寝袋(キューちゃん)から這い出て、数メートルを歩く。


「結界はまだ残っているな」


 魔法の力を失っても、事前に作った魔法的な何かが消えることはないようだ。地脈を利用したわけではないので、術者ユウキの魔力が使われていると推察される。


 結界自体もなんとなくこの辺にある、というのがわかる。

 そこへ手を添え、消えろーなどと念じてみると、


「……消えた、かな?」


 それくらいは男の子の姿でもできる、ということか。

 魔力そのものが消えている感じもない。おそらくこの姿だと、魔力を練ったり魔法術式に利用したりが難しくなっているのだ。


(もしかしたら、肉体を強化するのに使いまくっているのかもな)


 今のところ解答は得られそうもない。

 ユウキはトランクの上に置いたマントを羽織った。


 空を飛べる魔法のマント。女の子の姿だと、むしろ制御がままならずに翻弄されまくった。(なので途中からは飛翔魔法で飛んできた)


 今の自分に扱えるかどうかを試してみたい。たぶん空から落ちても大丈夫な肉体だから、大胆な検証ができるはず。ちょっと怖いけど。


 ふわりと浮いてみた。

 ロケットみたいに射出されることなく、ふわふわ浮く。体の各所に力を入れたり抜いたりしてバランスを取る。


(この姿だと力の入れ方がこなれているな)


 だから多少無理やり感はあるものの、制御できていた。

 空高く舞い上がり、あっちこっち飛び回る。旋回やら錐揉みやら、慣れてくると自由自在だ。


「キュ~……ワフワァ……」


 キューちゃんが眠そうに片耳で目を擦りつつ、元の姿に戻った。

 ユウキはそのすぐそばに降り立つ。


「あの丘を越えると大きな町が見えた。道中で聞いた王都だろう」


 キューちゃんを抱え、トランクを持ち、


「それじゃあ出発だ」


 いざ都会へ。ユウキはびゅおんと飛び出した――。




 レアンド王国の王都レアドリス。

 高い城壁に囲まれた、直径二十キロに及ぶ円形に近い大都市だ。中央には大きなお城がそびえ立ち、放射状に道が延びて区画整理されていた。


 上空から見下ろすユウキは、さてどうやって入ろうかと考える。

 道中、村や町があったので情報収集したところ、王都へ入るには『通行証』が必要なのだとか。

 なければ門兵に連れていかれ、半日近く監禁されて身元の尋問やら大金を支払うやら面倒この上ないそうな。


(お金はエルフたちからもらった古い貨幣でどうにかなるかもしれないが……)


 記憶を失っている現状、どこの誰かと問われても困るし、その場合は中へ入れてもらえないかもしれない。


(仕方がないな)


 ずびゅんと真下へ落下する。

 人気のない裏路地の地面すれすれで急停止。風が同心円状にぶわっと広がり埃を吹き飛ばした。


「誰にも見られていない、といいのだが……」


 なるべく自然に、それでいてフードを目深に被って大通りへと歩いた。


「おぉ……、人がいっぱいいるなあ」


 朝も早い時間だというのに、広い道の両側を多くの人が行き交っていた。真ん中は馬車が緩やかに往来している。


「種族もいろいろだな」


 大半は人族ヒュームのようだが、獣人や人とは違う大柄な種族(角があったり)も目に付いた。荷車を引くのも馬だけではなく、牛っぽい生き物や大きなトカゲみたいなのもいる。


「さて、彼ら(・ ・)はいるだろうか?」


 ユウキは前世の記憶を思い出す代わりに、今の記憶を失っていた。しかしそれ以前にも、自分は記憶を失くしていたらしい。


 自分が何者であるのか?

 その答えを探す旅をしていたそうだ。


 大都市でかつての顔見知りを探すのは困難を極める。

 しかしこの街にも、ユウキが呪いを解いた火口の町ムスベル出身のエルフがいるかもしれなかった。


 ユウキはじぃっと、人波を観察する。

 耳の長い種族を探し、その人に声をかけるためだ。


 いきなりムスベル出身者に当たる幸運は期待していない。

 けれど人族が主体の大都市なら、少数種族が独自のコミュニティを築いている可能性は高い。前世でいえば中華街やそんな感じ。


「キュ? キュキュッ!」


 腕の中のキューちゃんが片耳で『あっちあっち』とでも言いたげに耳指した。

 エルフを見つけたかな? とそちらに目を向けると。


「暴れ地竜だー! みんな逃げろー!」


 大きなトカゲがドドドドッとこちらへ駆けてくるのが見えた。

 往来する人たちがパニックを起こす。押し合い圧し合い、我先にと逃げ出す中で。


「きゃっ!?」


 若い女性が道へと弾き出された。運の悪いことに、大トカゲのまさに進行方向だ。


「はわわわわ……」


 腰を抜かしているのか、女性はしりもちをついた状態で固まっている。


(ん? あの耳は……)


 短いスカートを穿いた、金髪のショートカット。そこからぴこんと出ている耳は、エルフほど長くはないが、三角耳のユウキよりはすこし尖っている。

 まあ、それはそれとして。


(騒ぎに飛びこんで目立ちすぎると、通行証がないのがバレる危険がある)


 衛兵や警備兵がやってきて、どこの誰かと聞かれてはたまらない。



 ――だからといって、見過ごすことなどできはしない。



 ユウキはびゅおんと飛び出し、女性と大トカゲの間に立った。キューちゃんとトランクを静かに下ろし、大トカゲに正対すると。


 がしっ。

 前脚の一本を抱えるように受け止め、

「ほいっ」

 ぐおんと持ち上げ投げ飛ばした。ドドォン、と大トカゲは背中から落ちる。


「ひょえぇ~!?」


 エルフっぽい女性は腰を抜かしたまま飛び上がる。

 そちらはいったん置いといて。


「乱暴してすまなかった。しかし君もすこし落ち着きたまえ」


 目をぱちくりさせる大トカゲ。


「キュキュ、キュゥ~キュッ」


 ぴょんぴょん跳ねるキューちゃんをぎょろりと目で追って、ぐるり。身を捻った。正常な立ち位置になると、ぺたんと体を突っ伏す。

 どうやら落ち着いてくれたらしい。


「な、なんだあのガキ」

「地竜を持ち上げやがった」

「そして投げ飛ばしたぞ」

「なんて力なの」

「かっけぇ!」


 ものすごく目立って恥ずかしい。

 ユウキは衆目から逃れるように、女性へと近寄った。


「お怪我はありませんか?」


 大トカゲからは無事だったが、人波に弾かれたときに足でも挫いていたら大変だ。


 女性は涙目をぱちくりさせると、


「へ? ぁ、ユウキ、君……?」


 なんと、ユウキの知り合いらしかった――。



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