表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/39

森の町はどんなとこ? ところで私の記憶がですね……。


 巨大なイノシシと戦うのはご勘弁なのでキューちゃんを抱えて空へ飛び上がったところ待ってましたとばかりに「キシャーッ!」と飛竜が大口を開けていたので全力で逃げるユウキであった。


(町までの道は魔物除けの結界を張っておいたほうがよいだろうか?)


 以前の自分がやらなかったのには理由があると考え、その辺りも含めての情報収集が必要だろうと脳内メモに記しておく。


 飛竜に見つからぬよう、樹木の上ギリギリを飛ぶ。

 前方には、周囲よりも高い木々がにょっきり生え茂っているのが見えた。おそらくは、あそこが町だ。


 いったん森の中に下りる。

 均されたようなそうでないような、やや凹凸はあるも幅広の道は自然にできたものではない。

 近づくうち、感じた。


(これ、魔物除けの結界だな)


 その内側に入ったようだ。

 しばらく歩いて道を折れると、木で組まれた高さ五メートルほどの壁に当たる。大扉の右側には高櫓たかやぐらがあって、人の気配がした。


「すみません。旅の者ですが、中に入るにはどうしたらいいでしょうか?」


 通行証なんてのがあると面倒だが、いちおうお金(昔のものだが金ならどうにかなる?)もあるからなんとかしてもらいたい。


 櫓からひょいと顔が出てきた。犬だ。いや狼か。続けて上半身が出てきたが、人のように二本の腕を持ち、それを落下防止柵の上に置いて身を乗り出す。ワーウルフというやつだろうか?


「ん? なんだ兄ちゃん、もう帰ってきたのか。だから言ったろ? あの山にゃおっかねえ大鳥がいるって――」


「私を知っているのですか!?」


 町の門番をしているなら顔を見知ってくれても不思議はない。問題は、どの程度のお付き合いがあったか。

 目を丸くする狼さんの回答をワクワクしながら待っていると。


「知ってるも何も……ってなんだよ兄ちゃん、また(・ ・)忘れ(・ ・)ちまったのか?」


「えっ」


「前に言ってたんだよ。『記憶を失くしたから自分が誰かを探す旅をしてる』ってな」


「ええっ!?」


 ユウキの驚きように苦笑いで応えると、ワーウルフの青年は「ちょっと待ってな」と門を開いてくれた――。



 ひと際高い木々が点在する中、大小さまざまな家屋が林立している。

 大樹の根元付近の地面だけでなく、やたら太い幹をくり抜いたり大枝の上に乗せたりと、そこそこ広い壁の内側を有効活用しまくって多くの人が住んでいるようだ。


 遥か上には枝葉が空を隠し、全体的に薄暗くはあった。しかし遠くから聞こえる声は活気に満ちていて、全体的に明るい雰囲気を醸している。


 ワーウルフの青年が降りてきて、笑顔で話をしてくれた。


「俺はブルホってんだ。自己紹介は二度目だな。ここで門番やってる。で、ここは森の奥の『フリチュ』って宿場町だ。北の『テレンス』と南の『レアンド』って二つの大国を往来する連中がよく使ってるとこさ」


 北にはユウキがさっきまでいた高山があり、その向こうの巨大湖をさらに越えるとテレンス首長国という大国があるのだとか。

 そして森を南に抜けると、テレンス以上に発展したレアンド王国に着けるそうな。


「長距離を旅するにしては道が整備されていませんでしたね」


「お前、ホントに忘れちまってるんだな。前も同じこと聞いてたぞ?」


 なんだかんだで本人なので、同じ疑問を持って当然だ。


「この森は魔物が多いからな。馬車でのんびりってわけにはいかねえ。腕自慢が道中稼ぎながら、テメエの足であっちへ行ったりこっちへ来たりで大儲けを狙ってんのよ。二国間の最短ルートだからな」


「稼ぐ?」


「魔物を狩っての素材集め。いろんな種類の薬草採取。あんまり行く奴はいねえが、山じゃ希少な鉱物が取れるって話もある。ま、いろいろだ」


 ゲームや小説などに登場する、冒険者的な人たちだろうか?


「あの、ブルホさんは私のことをどの程度知っているのですか?」


「前に兄ちゃんが来たときも、今みたいな話をしたくらいだ。たしか『ユウキ』って名前しかわかんねえとか言ってたな。あとは……そこの妙な生き物か」


「キュ?」


「そうそう、『キューちゃん』だったな。魔物連れで旅してるからてっきりテイマーかと思ったけど、そいつただ可愛いだけだもんなあ」


「キュキュキュゥ♪」


 なぜだか嬉しそうに跳ねるキューちゃん。


「町の中には、私と話をしたひともいるのでしょうか?」


「おう。兄ちゃんに手紙を託した、例のエルフたちもいるからな。お前を見かけりゃすっ飛んでくんだろ。あー、でも残念だったな。けど命は大切にしなくちゃなんねえ。ま、仕方ねえさ」


 いまいち話の全容がつかめないが、ともかくムスベルから逃れてきた人たちに会ってこよう。


「町の中をうろついても構いませんか?」


「この町はどの国にも属さねえ自由なとこだ。悪さしなけりゃ何しても構やしねえさ」


「ありがとうございます。ではムスベル出身の方たちを探してきますね。手紙を届けたことや、他にもいろいろ話をしなくてはいけませんから」


「おう、手紙を届けたんなら連中も喜ぶってもん…………ん? 届けた……?」


「では失礼します」


 ブルホが何やら驚いているようだが、ユウキはずんずんと町の中へ進んでいく。


「ちょ、おおおお前! 手紙、え? 届けたって、山頂まで無事にたどり着いたのかよ!?」


 歩きながら顔だけ振り向いて答える。


「はい。ムスベルのみなさんの呪いも解けましたから、じきにそこのみなさんがこの町へやってくると思いますよ」


「えっ。呪いを解い……はあ? ムスベルの連中がやってくるって、ええっ!?」


 この町のエルフの呪いも解いたはずだが、ブルホは知らなかったようだ。


(まあ、説明は私がするよりカーチスさんたちがそのうちするだろう)


 今は自分のことを優先し、ユウキは笑みを送って再び前を向いた。

 ブルホはユウキの小さな背を眺め、


「あいつ、ナニモンなんだ……?」


 思わずつぶやくのだった――。



二章開始です~。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ