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おや? 魔物のようすが……


 巨大な火炎球を防いで穏やかな笑みを浮かべるユウキだったが、


(び、びっくりしたぁ……)


 内心でビビりまくっていた。


 問答無用で攻撃してくる可能性を考慮し、万全の備えをしていたからこそ防げたものの、ほんの少しでも魔法盾の発動が遅れていたら黒焦げになっていただろう。


(ぜんぜん見えなかったぞ!)


 でっかい火の玉がぱっと出てぽっと消えた、程度の認識しかない。

 女の姿では火山の噴火を抑えたり三十キロ圏内の環境を一定に保ったりと、常識はずれの魔法力を持つものの、身体能力は並程度。


 肉体を魔法的に防護したりはできそうだが、動体視力を上げたり筋力そのものを向上させたりはできそうにない。

 反射速度や回避能力が低ければ、魔法戦なんてことをやれるとはとても思えなかった。


(しかし、何か妙だな)


 今の火の玉は、よく見えなかったが威力はすごかった。


(前に張られていた結界なら、貫くこともできたはずだ)


 広範囲に渡る火口部分の縄張りを奪われ、この魔物は町の住民と敵対していると考えていた。

 ならば今の魔法で町の中心部を焼き払い、住民を追い出すくらいしていたのでは?


(そうだ。よく考えたら、私が手紙を届けに来たというのもおかしな話じゃないか)


 呪いにかかっていた彼らは、険しい山道を下るのも大変だったろう。そんな中でイビル・ホークの襲撃を受けてなお、ふもとの森にまで生きて到達できるとはとても思えなかった。

 鷹って夜でも目が見えているらしいし、これほどの魔物が夜だから見逃すとも考えにくい。


 誰彼構わず襲う、とエルフたちは言っていた。

 それも本当かは定かではない。襲われたら死ぬだろうし、町の中には入ってこられないから、実際に襲われた者たちを見てはいないはずだ。

 そういうものだと信じているだけでは?


『よもや彼の賢者を超える御使いであったとは。ならば我の役目も終わり。命乞いはせぬ。ひと思いに――』


「あーっ!」


 あっさり白旗を揚げた巨怪鳥にユウキは確信した。


「貴方は、今までずっとエルフたちを守っていたのだな!」


 ずびしっと指差すと、


『……今それを言うか? 察したのなら黙っておけばよいものを。まあ、対岸まで声は届かぬからよいか』


「いやいやいや、なぜそれを言わない? 悪役になる必要なんて――」


『あったからそうしていた。そも我の言葉はエルフたちには解せぬゆえな』


 そういえばそうだった。


『我は彼の賢者と盟約を結んだ。住みやすく環境を整えたとはいえ、山の頂に閉じこめられれば外の世界に憧れよう。しかし呪われたエルフたちは山を下っても生きられぬ』


 だからイビル・ホークは敵対していると賢者は嘘を言い、町を出たら殺されると告げたのだ。


「初めて会ったときに私とキューちゃんを襲ったのはこちらの力量を測るとともに、最後の最後まで自らを悪役とし、退場するためだったのですか?」


 ユウキは敬意を払って尋ねる。


『成れの果てとはいえ神獣を連れた御使いだ。上空よりひと目見て期待したものよ。彼の賢者すら果たせなかった『神の呪いを解く』偉業を、そなたならやってのけるかもしれぬとな。実際、そなたは見事やり遂げた』


 どうやら上空からユウキが呪いを解く様子を眺めていたらしい。


「もし私が彼らの呪いを解けなかったら、どうしていたのですか?」


『さて。どのみちそなたの判断次第。状況によって我の立ち回りも変わったであろうな』


 なんとも律儀な魔物である。


「しかし、悪役になるのは百歩譲って理解できるにしても、自ら命を差し出してその役をまっとうするのはどうなのでしょう? 賢者は貴方に『死ね』とは言っていなかったのでは?」


『この地はすでにエルフたちのもの。呪いが解けても留まる者は多くいよう。長く苦しんだ者たちが、いつまでも我の恐怖に怯えて暮らすのは哀れでならぬ。ゆえに我はこの地を離れるでなく、彼らの目の前で死なねばならぬのだ』


 イビル・ホークは慈しむように対岸のエルフたちを見やる。


『我は長らく生きてなお神獣に至らなかった。生への執着は疾うの昔に切り捨てている。御使いとの約束を果たして逝くのなら本望と言えよう』


 納得はできないが、個人の思想・理念に関わるなら口出しできるものではない。

 しかし賢者との約束に自らの死が入っていないのだから、別の未来ルートを選択すべきだと強く思った。


「ちょっと待っていてください」


『おい待て。そなたまさか――』


「大丈夫。彼らはきっとわかってくれますよ」


 ユウキは結界内に入り、浮橋を渡ってクライドたちの下へ。

 橋作りの作業をしていた者たち以外にも、多くのエルフたちが集まっていた。その中には町の長カーチスの姿もある。


「貴方たちにお話したいことがあります」


 こんこんと説明すると、


「あの魔物が我らを守っていた、ですって?」

「にわかには信じられない」

「でも言われてみればあの魔物に襲われたところを見ていないわ」

「町を出た者の多くも生きていたようだし……」

「辻褄は合っているのだよな」


 疑念を持つ者もいたが、状況証拠を積まれて困惑しながらも理解を示す者のほうが多かった。

 カーチスが進み出る。


「ユウキ殿は数々の奇跡を我らに示してくれた。そして今、山の主と話し合っている様をみなも見ていたろう? ユウキ殿が嘘を語る理由はなく、山の主がユウキ殿を騙す利も薄い」


 カーチスはそのまま歩き出し、浮橋を渡っていく。慌ててクライドと、数人がその後を追った。

 ユウキはその場から眺めるのみだ。


 イビル・ホークの前に、カーチスは悠然と、クライドたちは緊張した面持ちで歩み寄り、片膝をついて首を垂れた。

 カーチスが何事かを告げたのち、クライドが立ち上がってユウキへ大きく手を振る。


(どうやら和解したようだな)


 イビル・ホークの言葉は届かなくても、あの慈愛に満ちた瞳を見れば気持ちは伝わる。


 ――異変が起きた。


 イビル・ホークの黒い巨躯が、突然輝き出したのだ。


(なんだ? 何が起こっている?)


 ユウキはずびゅんと飛んでカーチスたちの間に割って入った。魔法防御盾を展開、したのだが。


『ぉお……、おおっ!』


 光が弾けた。

 黒ずんでいた毛色が純白に染まる。尾はクジャクの羽のように煌びやかになり、頭にはふさふさのとさかが生まれていた。


『よもやこの期に及んで神獣へと至るとは……。むろん成りたての新米であり、そこの丸い小さな神獣の、かつての力には遠く及ばぬであろうがな』


「よくわかりませんが、今まで私利私欲を横に置いてエルフたちを守ってきたのです。その献身が認められたのでしょう」


 誰に? との疑問はあるが、テキトウぶっこいている自覚はなかった。なんとなくそんな気がしたのだ。


『だが、エルフたちとの和解なくしては果たせなかったであろう。礼を言う。いや本当にありがとう!』


 なんだかちょっと砕けてきたぞ?

 神獣になったら何がどうなるのか知らないが、今後は守り神として活躍するのだろう。


 ともあれ。


「では、最後の仕上げといくかな」


 転移門を作って森の中にあるであろうもうひとつとつなげる。


(これでふもととの往来が可能になる。そして――)


 ふもとの町には、自分を知る誰かがいるはずだ。

 手紙を預けた者。会話した者。その人たちと話ができれば自分が何者かを知る手掛かりが得られると、ユウキは期待していた――。



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